第23話 何で知ってるんですか?

「ここかあ……。凄い豪華だな」


「ヤマトさん。この建物は何なのです?」


「ここは、レストランだよ。もうすぐ昼だから、ここで食べようかと思ってさ。さっき、マリーさんに聞いたんだ」


「なんとっ! 凄い高そうなのです。節約しなくて、大丈夫なのです?」


「もちろん、基本的には節約生活は続けるよ。でも今日は、ランクが上がったお祝いをしようと思ってさ。こういう時に使うのは、大事なことだからね。奮発しましょう!」


 さっきギルドでマリーさんに聞いた、とある店とはレストランのことだ。冒険者ランクも上がったし、パーティー名も決まったので、少しお高めの店でお祝いをしようと思ったのだ。初めて行く店でドレスコードなどがあると面倒と思い、俺達でも入れるところを教えてもらった。


 早速入ってみると、身なりをビシッと整えた人族のウェイターさんが応対してくれた。本当にドレスコードは無い店なのか、ちょっと心配になる……。


「いらっしゃいませ」


「あのー、俺達みたいな服装でも入れると聞いたのですが、大丈夫ですか?」


「もちろんです。当店は純粋に、お食事を楽しんで頂きたいので、ドレスコードはありません」


「ふう、良かった。あっ、二人なんですが入れますか?」


「はい。お席へご案内いたします。どうぞ」


 お店の豪華さと、しっかりしたウェイターさんの応対で、少し緊張してしまった。お店は昼時ではあるが、そこまで混んではいなかった。やはり、お高いお店だからなのだろう。


 テーブルに案内されると、飲み物のメニューを渡された。アルコールの場合は、カードの提示が必要と言われた。


(そういえば、この世界でお酒って飲んでないなあ。15歳でも、ここでは成人だから飲めるんだろうけど……)


「ユキは、お酒飲めるの?」


「あたしは飲めるけど、あまり好きじゃないのです。しかも、酔わないのです」


「酔わない? お酒強いの?」


「違うです。お酒に酔うのは、状態異常なのです。つまり……そういうことなのです。だからあたしは、あまーいジュースの方が好きなのです」


「なるほどね。じゃあ、俺も酔わないってことか……。なんか微妙!?」


 二人とも状態異常無効なので、お酒に酔わないようだ。20代だった地球では、ビールを飲んで少し酔って気分が良くなるということもしてきたが、今の俺には出来ないことのようだ。


「じゃあ、俺もジュースの方が良いな」


「あたしは、ミックスジュースが良いのです」


「えっ!? ミックスジュースの中身って、もしかして……」


 すかさず、ウェイターさんが説明してくれた。


「当店では、バナーナ、モーモ、アプル、ミルクを使っております。苦手な食材などありましたら、遠慮無く仰ってください。出来る限りの対応を致しますので」


(ミルク!? マジかあ。酪農とかしてるのかな?)


「あのー、ミルクなんて町では見たこと無いんですけど、珍しいんですか?」


「はい。イベリスでは珍しいですね。他にも、なかなか見ない食材を扱っております」


 ウェイターさんは食事のメニューも見せてくれて、色々と紹介してくれた。


「凄いですね。食べたこと無いものばかりです」


(地球では、メジャーな食材ばかりだけど。てことは食材ゲット出来たら、色んな料理出来るんじゃね? てか、また料理のこと考えてるし……。俺は料理好きなのか!?)


「ヤマトさん。お腹ペコペコなのです……グウー」


「ごめんごめん。ウェイターさん、ミックスジュースを二つと、さっきの料理を注文でお願いします。シェアしても大丈夫ですか?」


「もちろんです。準備いたします」


 ウェイターさんの珍しい食材紹介を聞きながら、かなり注文してしまった。ここからは、地球の食材名とユキのリアクションを併せて紹介しよう。


 まず飲み物は、ミックスジュースだ。初めて知った食材はバナーナとミルク。これはバナナと牛乳だ。


「あまーいのですう」


 続いて出てきた料理は、ゆで卵だ。話を聞いた時に、地球と同じサイズのものだったので2個注文した。自分で殻を剥いて、塩を付けて食べた。異世界あるあるのマヨネーズは、まだ存在しないようだ。卵があることがわかったし、他の材料も調味料で使ったことがあったのでマヨネーズは作れそうだ。


「白い部分はツルツルで、黄色い部分は少しモソモソするのです。面白い食べ物なのです。そして、美味しいのですう」


 この店には、フルールに来て初めての魚料理があったのだ。サヴァの塩焼きと、サッケのバター焼きだ。サヴァは鯖で、サッケは鮭だった。バターも、そのままバターだった。


 地球の名前と全く同じものや、ちょっとだけ違うものが混ざっていて、言い間違いをしそうだ。でも、軽く噛んだのかな? くらいで通りそうなので、まあ助かる。


「このサヴァという魚は、口の中に入れるとジュワーっと美味しいものが広がるのです。え? あぶらがのってるって言うです? このサヴァは、あぶらがのってるのです!」


「サッケは、ジュワーとはしないのです。でもバターというのは香りが良くて、それも美味しいのです。え? 相性が良いです? サッケはバターと相性が良いのです!」


 肉料理からは、チーキンの半身焼きと、カラーブル赤のステーキ。チーキンは鶏肉で、カラーブル赤は牛肉だ。カラーブルはその名前の通り、色の種類があるらしい。赤は霜降りの高級肉だそうだ。多分、A5ランクとか言われる部類なのだろう。地球では食べたことが無いので、正解かはわからない。貧乏リーマンだったので……。


「チーキンは、皮がパリパリで肉はジュワーなのです。でも、ジュワーじゃない部分の肉もあるのです。そこも美味しいのですう」


「カラーブル赤は、言うことないのです。最高に美味しくて、ほっぺが落ちるですう」


 どの料理も、ユキの口に合ったようだ。地球では馴染みある食材に、フルールで出会えたことが嬉しかった。


「お腹いっぱいなのです。全部、美味しかったのですう。ヤマトさん、ぐっじょぶ、なのです!」


「本当、全部美味しかったね。喜んでもらえて良かったよ。俺も大満足だし!」


「お客様、お食事を楽しんで頂けましたか?」


「あっ、ウェイターさん。どれも美味しかったです。色々教えてくれて、ありがとうございます」


 その後は食休みも兼ねて、ウェイターさんに今日食べた食材のことを教えてもらった。この店独自の方法で、かなり遠くの町から運んでいるようだ。その町で、どのように生産されているのかも教えてもらった。


(なかなか、興味深い話だったな。いつかその町で食材をゲットして、新しい料理を作りたいよなあ。……やっぱり今の俺は、料理脳のようだな)


「ウェイターさん。今日は色々と、ありがとうございました。会計をお願いします」


「こちらこそ、ありがとうございます。本日のお会計は、銀貨6枚で御座います」


 流石、この辺では珍しい食材だけあって、なかなかのお値段だ。ちなみに内訳は、ミックスジュースが銅貨2枚を2杯で銅貨4枚。ゆで卵が銅貨1枚を2個で銅貨2枚。サヴァの塩焼きは銅貨6枚。サッケのバター焼きは銀貨1枚。チーキンの半身焼きは銅貨3枚。カラーブル赤のステーキは銀貨3枚銅貨5枚だった。


「ありがとうございました。またのお越しを、お待ちしております」


 食事で銀貨を払うのは初めてだ。でも今回は、お祝いだから全く問題無い。


「さて、今からじゃ依頼って訳にもいかないし、今日は宿でゆっくりしようか」


「はいです」


◇◇◇◇◇


「あんた達、冒険者ランクが上がったんだって! 良かったね!」


 宿に戻ると、いきなりオリガさんにそう言われた。


「は、はい。でも、何で知ってるんですか?」


「前に言ったろ。ウチは冒険者の常連も多いんだよ」


 食事をしているお客さんを見てみると、数時間前に見た顔が手を振っていた。町内応援団先輩だった。今は三人で居る。


「……なるほど」


「今日の夜は、お祝いするからね。ウチで食べるんだよ」


「えっ!? お祝いですか?」


「おう、お前ら」


「あっ、レナードさん」


「夜飯は特別な料理を作るからな。楽しみにしとけよ。もちろん、オゴリだから安心しろ」


「特別な料理なんて、楽しみなのです! ヤマトさん今日は、お祝い祭りなのです!」


 今日は夜も、お祝い決定のようだ。まあ、今日くらいは楽しんでも良いだろう。夕飯まで、部屋でゆっくり休むことにした。


◇◇◇◇◇


 夕飯の時間になり一階に降りると、沢山の人から祝福の言葉をもらった。冒険者ギルドで見たことがある人や、この食堂で見かける人達だった。Sランクがバレないように、なるべく人とは関わらないようにしていたので、こんなに沢山の人に声をかけてもらえるとは思わなかった。


 低階層とはいえGランク冒険者がダンジョン制覇したことは、ちょっとした話題になっているらしい。パーティー名のことや、冒険者ランクの飛び級のことは知られているようだが、魔道具のことは聞かれなかった。ギルマスが、秘密を守ってくれているようだ。


 だが、どうやってダンジョンを制覇したかを聞かれると説明に困った。そこは、ユキが上手く話してくれて助かった。


 今回の誤魔化しは、二人で罠に嵌まってボス部屋に落ちてしまい、必死に戦って勝ったということになった。今は消え始めているボス部屋なので、魔物の数は俺達にしかわからないので、かなり少なく言っていた。そうしないと怪しまれるからだ。その辺りもユキは抜かり無く、凄すぎて怖いくらいだ。


 ちなみにレナードさんの作ってくれたお祝い料理は、フォレラビのシチュー、ボアの煮込み、オークのステーキ、三種の肉たっぷり料理だった。ユキ曰く「肉祭りなのです!」だそうだ。今日はユキの祭りが止まらない。


 いつもなら食事を終えたら部屋に戻って寝るのだが、今日はいつもより遅くまで残ってみんなと話をしていた。


 今日は朝からよく会う、町内応援団の三人も居た。何度も会話をしているのに、まだ名前を聞いていなかった。


 今朝ギルドで会った男性はキーンさん。町内応援団のリーダーだ。他の二人は、男性がジースさん。女性はビッフィさん。全員人族の20代前半とのことだ。


(ビッフィさん、ジースさん、キーンさんかあ。……あれ? ビッフィジースキーン……ビフィジスキン……ビフィズス菌!?)


 三人の名前の響きが妙に気になっていたら、おかしなことになってしまった……。パーティー名を聞いた時にも思ったが、お腹に優しい商品のキャッチコピーのようだなと。更にメンバーの名前までとなると……『町内応援団』が『応援団』に思えて仕方がないのだが……。


 いつもなら、もう寝ている時間でユキが眠たそうなので、そろそろ部屋に戻ることにした。楽しい話や、冒険者として役立つ話、俺的にクスッと笑ってしまいそうな町内応援団先輩達の名前など、色々と聞けた。


 今日は一日盛り沢山で、部屋に戻るとベッドに入りすぐに眠りにつく二人だった。

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