第22話 ……情報早すぎでしょ

(……ん? 顔が痒い? むずむずする?) 


 昨日は色々な作業で疲れて、あの後すぐに眠りについた。ぐっすり眠っていたが、何故か顔がむずむずして目が覚めた。


「うわっ! 白い? うっ、金縛りか!? ……あれ?」


 目を開けてみたら、目の前が真っ白だった。体は動かず、ただただ白い何かを見つめていた。よく見ると、その白いものは右に左にと、ゆっくり動いている。時折、顔に触れてむずむずするのだ。


「うーん。デジャブですな……」


 昨日錬金したダブルベッドを、試しに使ってみたのだ。やっぱり、ユキの寝相は悪かった。前と全く同じ、不思議体験だった。夜中に目が覚めない俺も俺だが……。とりあえずユキをどかして、一つ伸びをする。


「うーん。何だかんだ、ちゃんと寝れたな。野営でも、ダブルベッドは使えるかな。じゃあ、ユキを起こすかあ。そりゃ!」


「ぴゃー! あたしのしっぽはフサフサです! あっ、ヤマトさんおはようです」


「お、おはよう。何故しっぽの紹介を……」


 ダブルベッドをしまって、朝食に行こう。


 身支度を済ませて一階で食事をしていると、お客さんが入ってきたようだ。


「いらっしゃい。あら、久しぶりだね。食事かい?」


「オリガさん、ご無沙汰してます。すいません、仕事で来ました。食事は、また別の機会に」


 どこかで聞いたことがある声だったので、振り返ってみた。


「あれ? マリーさん、おはようございます」


「ヤマトさん、ユキさん、おはようございます」


「おはようです」


「食事が終わったら、冒険者ギルドまでお願いします。調査に向かったパーティーから、連絡が来ました」


「え!? もう? 早くないですか?」


「ダンジョンが消える前に確認しなくてはならないので、優秀なパーティーを派遣したんですよ」


 昨日、ヴァニラさんが言っていた通りだった。俺達は採取しながらということもあり、数日かかった。派遣されたパーティーは確認のためなので、一気に地下8階まで下りたのだろう。それにしても早い。やはりGランク冒険者とは訳が違うようだ。


「わかりました。あとで伺いますね。……あれ? 俺達、ここに泊まってるって言ってなかったですよね? この時期は満室が多いから、マリーさんの紹介とはいえ確実じゃなかったでしょ? 何軒か回ったんですか?」


「いえ。オリガさんなら、きっとヤマトさん達を気に入ると思ったので、部屋はあるかなと」


「あははっ。マリーにはお見通しだったね。あんたが紹介する冒険者は、良い冒険者ばかりだよ」


 マリーさんとオリガさんは、お互いを良く知る仲のようだ。マリーさんはギルドに戻り、俺達は食事を済ませた。部屋で一休みしてから、ギルドに向かった。


◇◇◇◇◇


 ギルドに入ると、冒険者が声をかけてきた。


「おう。ダンジョン制覇の確認とれたんだってな」


「……はい。相変わらず、情報が早いですね。今日は、一人ですか?」


 冒険者とは『町内応援団』先輩だ。いつも三人で居るのに、今日は一人だった。


「おう。最近は、町中の依頼が少なくてな。朝から昼までは、メンバーの誰か一人がギルドで待機よ。だから、色々な話が聞こえてくるんだ」


「なるほど。でも何で、昼まで?」


「新しい依頼が出るとしたら、大体そのくらい迄なんだ」


「そうなんですね。勉強になります」


 俺達を見付けて、マリーさんが来てくれた。


「ヤマトさん、ユキさん、急がせてすみませんでした」


「いえ。大丈夫ですよ」


 町内応援団先輩に挨拶をして、マリーさんとギルマスの部屋へ向かう。部屋には、ギルマスとバルディさんがいた。


「ヤマト、ユキ、朝から呼び出してスマンな」


「いえ。大丈夫です」


「早速、話を進めるぞ。ダンジョン制覇の確認が終わった。ダンジョンを制覇したら、パーティー名と代表者を登録する決まりがある。ギルドカードにも登録するものだ。お前達のパーティー名は、あるか?」


「はいです。幸運の白狐びゃっこ隊なのです!」


「マリー頼む」


「はい。こちらに、書いて頂けますか? あと、お二人のギルドカードをお預かりします」


 マリーさんが渡してくれた紙に、パーティー名を書く。代表者には俺の名前を、とユキに言われた。紙とギルドカードをマリーさんに渡すと、登録のために部屋を出ていった。


 次にギルマスは、依頼品のサマシ苔のことを話しだした。納品した60個全てがAランク品で「熱で苦しんでいた患者を助けられた」と薬師ギルドも喜んでいた。やはり、幸運スキル持ちに頼んで正解だった。そう言ったあと、バルディさんに話を引き継いだ。


「お前達、本当に頑張ったな。全てAランク品とは流石だよ。これが依頼品の報酬だ」


 バルディさんに、革袋を渡された。中を確認すると、銀貨45枚入っていた。


「あれ? 銀貨40枚ですよね? 5枚多いですよ」


 バルディさんに銀貨5枚を返そうとしたが、止められた。


「大丈夫だ。希望の倍も納品してくれて、薬師ギルドからのボーナスだそうだ」


「本当ですか! 嬉しいです」


(あとで、お礼に行こうかな。そういえば、薬師ギルドに買い取ってもらいたい瓶詰めがあったのを、思い出しちゃったよ……。早くバッグから、出ていってもらわねば!)


 今度はギルマスが、ダンジョン制覇の確認について話してくれた。今朝早くに、魔道具で連絡がきたようだ。


 俺達の証言通り、地下5階と地下8階にダンジョンコアの破壊跡があった。地下8階は徐々に消えてきていたので、もうダンジョンコアは無いだろう。


 さらに地下5階からの下り階段に、隠蔽の罠の痕跡があったと報告があったようだ。そのことから、このダンジョンは『二重コア』だったことが判明した。二重コアとは、ダンジョンコアが半分の力を仮のボス部屋に置いて、それより先が無いと思わせる方法らしい。


 何故そんなことをするのか? それは、ダンジョンが制覇されて力が弱っていると思わせて、弱い冒険者を集めるためらしい。そして罠に嵌めて、冒険者を栄養にするためだそうだ。正に今回の俺が、嵌まった状況だ。


「これが、今回の調査結果だ。珍しいタイプのダンジョンだったってことだ」


「そうなんですね」


「それで報酬なんだが、これを」


 ギルマスから革袋を渡された。確認してみると、銀貨30枚が入っていた。報酬はダンジョンのランクと、階層数で決まるらしい。


 ダンジョンのランクとは、ダンジョン入り口で魔道具を使うと測定出来るらしく、今回のダンジョンはEランクだった。ランクはAからEの5段階ある。しかし今回は、二重コアで1段上がってDランクダンジョンだったようだ。Dランク10階層未満は、銀貨30枚ということだった。


 ギルマスとの話が終わり、ちょうどマリーさんが戻ってきた。ギルドカードを渡されると、パーティー名が入っていた。それと、もう一つ変わったところがあった。


「あれ? 冒険者ランクが……」


「ああ、そうだった。今回の指名依頼のことや、これまでの依頼の達成状況を鑑みて、ヤマト、ユキ、両名をEランク冒険者とする」


「えっ!? 飛び級なんて、あるんですか?」


「そう多くはないが、今までもあることだから問題無い。今日からお前らは、Eランクパーティー幸運の白狐隊だ」


「マジかあ……」


「やったのです! 早速、白狐隊に幸せがきたのです……ハッピー」


「これで連絡は以上だ。これからも、依頼を頼むぞ。期待しているからな」


「ありがとうございます。頑張ります」


 ギルマス部屋を出て、マリーさんと一階へ向かう。その時マリーさんに、とあるお店があるか聞いてみた。おすすめを教えてもらった。流石はマリーさんだ。一階に着くと、マリーさんは受付に戻って行った。


「おう。幸運の白狐隊」


 何故かパーティー名を呼ばれた。


「……情報早すぎでしょ」


 町内応援団先輩だった。どんだけ早耳なんだ……。


「早いか? 普通だろ」


「じゃあ、Eランクになったのも知ってるんですね。もうビックリですよ。いきなり飛び級なんて」


「えっ!? マジか……。俺達より上かよ……」


 いくら早耳でも、まだ知らなかったらしい。自分で暴露してしまった……。


「いや、あの、でも……。先輩冒険者には変わりないので、これからも色々教えて下さい。ハハハ……」


 何か気まずいので、挨拶をしてギルドを出た。


◇◇◇◇◇


 これから、薬師ギルドに向かおうと思う。今回の報酬ボーナスのお礼と、例のものを売りたいのだ。暫く忘れていたが、思い出したら一刻も早く売りたくなったのだ。


 薬師ギルドに入ると冒険者ギルドと、そう変わらない造りだった。受付に行って、聞いてみることにした。人族の女性に、話しかけてみる。


「こんにちは。薬師ギルドへ、ようこそ。ご用件を伺います」


「冒険者のヤマトといいます。えっと……」


(あれ? お礼って誰にすれば良いんだ? ギルマス? わかんないから、とりあえずアレを売ろう)


「あ、買い取ってもらいたいものがあって来ました。薬の材料だと聞いたので」


「どのようなものを、お持ち下さいましたか?」


 ダンジョン産のオークの睾丸2瓶と、ダンジョン産のハイオークの睾丸1瓶があることを伝えた。すると、品物とギルドカードの提示を求められた。薬師ギルドに登録していないことを伝えると、他のギルドでも問題無いそうだ。各ギルドで情報は共有されているため、大丈夫らしい。


 ちなみに冒険者ギルドでも買い取りはしているし、薬の材料だからといって買い取り金額が極端に高くなることなどは無いらしい。品物によっては、買い取り額に多少の色がつく程度なので、冒険者ギルドで売っても良かったようだ。


 品物とギルドカードを渡すと、何故か女性は驚いていた。


「失礼ですが、お二人はサマシ苔の依頼を受けて頂いた、ヤマト様とユキ様ですか?」


「はいです。あたしがユキ様なのです」


「自分に様を付けちゃダメでしょうが……。すいません。その二人です」


「失礼しました。少々お待ち頂けますか?」


 了承すると、女性は足早に奥の部屋に入って行った。数分で戻って来て、その部屋についてきて欲しいと言われた。


 その部屋に入ると、犬獣人の女性が座っていた。かなり年配の方だった。


「お呼び立てして、ごめんなさいね。私はイベリス薬師ギルド、ギルマスのエルダです。サマシ苔を沢山納品してくれて、ありがとう。お蔭で沢山の人を助けられたわ」


「ギルマス!? い、いえ、こちらこそボーナスをありがとうございました」


 予定通り? にボーナスのお礼を伝えられて良かった。その後、オークの睾丸は銀貨2枚が2瓶で銀貨4枚。ハイオークの睾丸は1瓶が銀貨10枚だった。全部で銀貨14枚の買い取りだった。ダンジョン産じゃないものは、この半額だそうだ。


 帰り際にギルマスから「今度は直接、指名依頼をするかもしれないから宜しくね」と言われた。


 今日は、約90万円稼いでしまった。懐が暖かいを通り越して、暑いくらいだ……。それでも、いつ稼げなくなるかもわかならい世界だ。節約生活は、続けるつもりだ。


 まあ、相棒と冒険を楽しんで、ご飯が食べられる生活が出来たら、それで良い。さて、そろそろお昼ご飯を食べに行こう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る