第19話 じゃあ……貸しを返して下さい
「うーん。久しぶりの朝日」
ここはテントではなく宿。寝袋ではなくベッド。やはり野営で使っている、ペラペラのなんちゃって寝袋とは訳が違う。とても寝起きが良い。
「そっか! 俺のバッグなら、ベッドも入るんじゃない? そしたら野営でも、ベッドでゆっくり寝れるじゃん」
「すぴー、すぴー、ナイスアイデア、ですう……」
どうやら、ユキも賛成のようだ。寝言だが……。ユキを起こして、朝食に行こう。
「おはよう。ゆっくり休めたかい?」
「オリガさん、おはようございます。久しぶりのベッドを堪能しました」
「おはようです。まだ寝れるのです」
「ウチのベッドで喜んでくれるなんてね。野営は、大変だったんだね」
本気でバッグにベッドを入れようかと考えながら、朝食を食べた。
食事を終えて、ギルドに行く準備をする。今日は、ゴミ運びの依頼があれば受けたい。装備品や魔道具を錬金した後、流れるようにダンジョンに向かうことになったので、端材の補充がしたいのだ。また、お宝が見付かるかもしれないという魅力もある。
◇◇◇◇◇
ギルドに入ると、何やら視線を感じる。他の冒険者に見られているようだ。やはりダンジョン制覇の話は、みんなに知られているらしい。掲示板へ向かう途中で、三人組の冒険者の会話が聞こえてきた。
「おい、あいつらがラッキーコンビってパーティーだろ?」
「まだGランクとか、何かの間違いなんじゃないの?」
「そんなパーティー名じゃないぞ。Aランク採取部隊って名前じゃなかったか?」
何やら、おかしな会話が聞こえてきた。他の冒険者とは、あまり関わりたくないのだが、勝手に変なパーティー名を広めて欲しくもない。
「あのー、話が聞こえちゃったんですが、今のは俺達のパーティー名ですか?」
「あれ? 違ったのか。俺は、そう聞いたんだがな。じゃあ本当は、どんな名前なんだ?」
そんなもの、全く考えていない。そもそもパーティー名って必要なのか? ここは素直に、先輩冒険者に聞いてみた。
すると、ダンジョンを制覇したなら近い内に必要になるだろう。他の冒険者ギルドにも、ダンジョン制覇者のパーティー名と代表者の名前は共有されるから、とのことだった。
ちなみに先輩達は『町内応援団』というFランクパーティーだそうだ。音の響きだけ聞くと、お腹に優しい商品のキャッチコピーのようだ……。
彼らは、町中の依頼だけを受けているパーティーだという。理由を聞くと、魔物が怖いから外の依頼は受けたくないとのことだった。何故、冒険者になったんだろう……。
参考までに先輩達が知っている、他のパーティー名を教えてもらった。『獣人愚連隊』『
とりあえず今すぐはパーティー名など思い付かないので、変な名前は広めないで欲しいと釘を刺しておいた。
少し寄り道したが掲示板を確認すると、ゴミ運びの依頼が一件あった。すぐに依頼書を剥がして受付に行く。受付にはヴァニラさんがいたので、手続きをしてもらう。
「ヴァニラさん、おはようございます。これ、お願いします」
「ヤマトさん、ユキさん、おはようございます。今日はゴミ運びですか?」
「はい。イベリスに居なきゃいけないので、町中の依頼にしました」
「ダンジョン制覇の確認待ちですね。早かったら、明日にも連絡があるかもしれないですよ」
「え!? 早すぎないですか?」
「ダンジョンが消える前に確認しなくてはならないので、ギルマスは優秀なパーティーを派遣したんです」
俺達が数日かかったダンジョンを、移動込みで2日程で到達出来るなら、優秀な冒険者なのだろう。
依頼の受付をしてもらい、早速ゴミ運びに向かう。
◇◇◇◇◇
「うわあ。大きな工房だなあ」
今回の依頼は、武具工房のゴミ運びだった。早速、工房の人に挨拶をしてゴミを運び出す。大きな工房だけあって、自前のゴミ捨て場年間使用カードを持っていた。カードを預かり、荷車を引いてゴミ捨て場を目指す。
前回は町の東側から西側までの、長い道のりだった。今回は、前回の半分の距離というところだった。
ゴミ捨て場の壁がみえてきて、守衛のところまで行く。
「あっ! また、お前達か」
「おはようございます。その節は、どうも」
「……今日もか?」
「はい。お願いします」
「……ゴミなんて、何に使うのやら。じゃあ、カードの提示を」
前回と同じ守衛だったので、話が早い。ゴミを持ち帰る変な奴等として、しっかり認知されていた……。
今回も、ユキの魔力感知で気になるものを探してもらう。それ以外に錬金用として、銀、指輪、珍しい素材を探してもらう。俺は端材を中心に、銀なども頑張って探してみる。
「お! これは、もしかしたら、もしかするかも……」
また山積みのゴミを持ち帰り、守衛に変な顔をされた。ここはあえて、満面の笑みを返しておこう。
人気の無いところまで行き、ゴミをバッグにしまう。工房へ向かい荷車と年間使用カードを返し、依頼完了のサインを貰ってギルドに戻ることにした。
◇◇◇◇◇
ギルドに入り受付を見ると、ヴァニラさんは居なかった。マリーさんが居たので、依頼完了の受付をしてもらう。
「マリーさん、こんにちは。依頼完了の受付をお願いします」
「ヤマトさん、ユキさん、お疲れ様です」
「ヴァニラさんは休憩ですか? 朝はヴァニラさんに、受付してもらったんですよ」
「そうでしたか。彼女は早退したんですよ……」
「え!? 体調悪いんですか? 元気そうでしたけど……」
「いえ、彼女は元気ですよ……」
「ん?」
マリーさんは、こっそりヴァニラさんのことを教えてくれた。お母さんの体調が悪くて、最近は寝たきりなんだそうだ。お父さんは元冒険者だったのだが、ヴァニラさんがまだ小さい頃、依頼中に亡くなってしまった。それ依頼、お母さんが一人で頑張っていたようだ。長年の無理が祟ってか体調を崩し、今はヴァニラさんが仕事、家事、介護と頑張っているようだ。
今度はヴァニラさんが無理をしているようで、仕事でのミスが増えたりと心配しているのだ。昨日、俺達にヴァニラさんがミスしてないか聞いたのも、そういうことだったようだ。
「事情はわかるのだけど、ミスが増えすぎると……ね」
「そうですよね。このままだと……」
「……はい。私は受付の人員を任されているので、厳しい判断をしなくてはならないかもしれないです……」
マリーさんもヴァニラさんをクビにはしたくないらしく、何とかミスを減らして仕事を続けて欲しいようだ。
その後、依頼完了の受付をしてもらい、報酬を受け取った。帰り際に、マリーさんに言われた。
「さっきの話は忘れて下さい。ヤマトさんには、つい話してしまう空気感があって……。年下とは思えないです」
「そ、そうですか? お、俺は15歳ですよ。ハハハ……」
(地球年齢は27歳です……。多分マリーさんは22、3歳かな? 俺、年上だと思います……サーセン)
◇◇◇◇◇
宿に戻って、ゴミを錬金しようと思う。もうすぐ昼なので、昼食は何を食べようか考えていたら思い出した。
「あっ、そうだ。バッグの中のショウガンが、もう無いんだった。暫く野営の予定も無いし、そのうち買っておかないとなあ」
「なんとっ! ヤマトさん、それはダメダメなのです! もし急に野営になったら、ショウガン焼きが食べられないのです! 大問題なのです!」
「まだ、オークのショウガン焼きのストックもあるから大丈夫だよ」
「むきー! ストックが無くなった時に、買い忘れていたら、どうするのです! 野営中は買い物出来ないのです! そうなったら、あたしはヤマトさんを恨むのです……ユルサン」
「えー……めっちゃ怖いじゃん。そこまでショウガン焼きにハマるとは……。じゃあ、このまま買い出しに行こうか」
「はいです! ショウガン、ショウガン、ルンルンルン」
ユキが怖いので、これからもショウガンは切らさないようにしよう……。
市場に行き、ユキがキレるのを避けるため
ショウガンを大量に購入した。バッグに入れておけば、時間停止なので問題無い。その他の野菜や調味料も、色々買い足しておいた。
予定外の買い出しを済ませて宿に向かおうとしたら、市場でヴァニラさんに会った。
「あれ? ヴァニラさん、買い物ですか?」
「ん? あら、ヤマトさんとユキさん。依頼は終わりましたか?」
「はい。今ギルドからの帰りです。マリーさんから、早退したって聞きましたよ。大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。母の具合が悪くて……」
「そうでしたか……」
(マリーさんも、さっきの話は忘れてって言ってたし、ここは知らないフリだな)
「ヴァニラさん。ミスばかりするとクビにするって、マリーさんが言ってたのです」
「はあ!? ユキは何を言っているのかな?」
「ちゃんと伝えた方が良いのです」
「二人とも大丈夫ですよ。薄々感じてましたから……。どうしても家事や介護で寝不足だったりで、仕事に集中出来なくて……言い訳ですけどね」
ユキの爆弾発言で、微妙な空気になってしまった……。どうしようか考えていると、大きな音が聞こえた。
ぐうー
「あっ、お腹が鳴ったです……ハズイ」
ユキのお腹が鳴って、何故か閃いた!
「そうだ! ヴァニラさん。料理って出来ます?」
「ん? 出来ますよ。今から昼御飯を作ろうと思って、買い出しに来たので」
「じゃあ……貸しを返して下さい」
「え!?」
(上手くいくと、良いけどなあ……)
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