第18話 グッジョブ!
ギルマスに今回の経緯を説明する。でもその前に、こちらを済まそう。
「説明の前に、これを」
ギルマスに、革袋を二つ渡した。
「依頼品のサマシ苔です。一袋に30個入ってます」
「全部で60個か!?」
「はい。程度の良いものを取ってきたので、Aランク品だと思います。確認して薬師ギルドに渡して下さい。高熱で苦しんでいる人が、いるかもしれないので」
「助かる。確かに、先に依頼品からの方が良いな。バルディ。確認して薬師ギルドに渡して来てくれ」
「わかった」
バルディさんは革袋を持って、部屋から出ていった。
「それでは、今回の経緯を説明します」
地下3階で一方通行の隠し通路罠にかかり、ユキとは別行動になったこと。
そこで落とし穴からの、すべり台で魔物が約50匹の部屋に落とされたこと。
その魔物部屋を一人で倒したこと。
その後ユキが合流してくれて、地下8階のボス部屋だとわかったこと。
その部屋に、ダンジョンコアを発見したこと。
それを破壊して地上に戻る途中の地下5階で、ダンジョンコアの破壊跡を確認したこと。
全ての経緯を、そのまま報告した。
「というのが、今回の経緯です」
「……ふむ。わかった。色々聞きたいことがある」
(ですよねー。やっぱり怒られたりするのかなあ……。嫌だなあ……)
「……はい。何でしょうか?」
「ダンジョンコアのコアを持っているか?」
「あっ、はい。これです。どうぞ」
バッグからコアを取り出して、ギルマスに渡した。
「これはダンジョン制覇の確認として、ギルドが回収することになる。もちろん制覇の確認が取れ次第、報酬も支払われるから安心しろ」
「ほ、報酬!? そうなんですね。わかりました」
「ヤマト。お前、戦闘スキル持って無いよな? ユキは持っているが、今回は一人だったんだ。どうやって魔物50匹のボス部屋を、クリアしたんだ?」
「……戦闘用の魔道具を持っています」
「魔道具か……。見せてもらえるか?」
(ショットガンを見せても大丈夫なのか……。偽装はしてるから、Sランク品だとはバレないはずだけど……。どうする……)
「それは、出来ないのです」
(!? ユキがしゃべった。……ということは)
「……出来ないだと? 理由は?」
「それは、むかしむかしのお話なのです」
(きたあー! ユキの名人芸! 誤魔化しスキルSランクだあー! てか、ギルマス怖いよお……。めっちゃ睨みながら言うし……)
ここからは、ユキ作の誤魔化しストーリーを物語風で、お楽しみ下さい。
まだ二人が小さい頃、村の近くの森で採取をしていたら、行き倒れた人を発見しました。声をかけると、その人はお腹を空かせて倒れたようです。すぐに村の大人を呼んで来ようとしましたが、その人に止められました。その人は悪い人に追われていて、大人に会うのは怖いと言いました。
仕方がないので、二人の秘密基地に連れて行きました。森の中にある、大きな木の根元の穴です。そこで休んでもらい、二人は村に食料と水を取りに行きました。
村の大人にバレないように食料と水を持ってきて、その人に与えました。数日間その人に、食料と水を運びました。すると、ある日その人はいなくなっていました。
秘密基地には、魔道具とメモが置いてありました。まだ字が読めなかったので、内容はわかりませんでした。いつか読めるようになるまで失くさないように、ヤマトの錬金袋にしまっておきました。
数年が経ち、魔道具とメモのことなど忘れていました。冒険者になることを決意して、村を出る準備中に錬金袋を確認していて見つけました。メモには、感謝の言葉と魔道具の使い方、その人の状況が書いてありました。
魔道具を君達に託す。魔道具は戦闘用のものだ。君達を守ることも、危険に晒すこともあるかもしれないものだ。面倒なものを押し付けられたと、思うかもしれない。魔道具を開発して、とある要人に目をつけられてしまった。だから逃げている。
君達は、まだ幼い。このメモも、今は読めないだろう。数年後、どういう状況かはわからないが、魔道具は自分達や大切な人を守るために使って欲しい。そして、他の人には見せない方が良いだろう。面倒なことに巻き込まれないためだ。巻き込んだ本人が、何を言っているんだと思うだろう。すまない。
もう疲れたんだ。でも、もう少しだけ逃げてみる。君達が運んでくれた食事を一生忘れないだろう。
君達が、正しい大人に成長することを願っている。助けてくれて、ありがとう。
「ていうのが、理由なのです」
(よくよく聞くと、結構強引な設定なんだが……。これで、いけるのか!?)
「……」
(ギルマスが黙って下を向いてる……。ふざけるな! とか言われそう……ヤバイ)
「お前ら……」
(何!? そのタメは何!? マジでチビりそう……)
「その人は、グラジオラ帝国のマクビー博士かもしれないぞ。7、8年前に帝国から逃げ出した、魔道具開発の博士だ」
(奇跡の一致、きたあー! ユキ名人のミラクル炸裂! 助かったあ……)
「その人と同一人物かはわかりませんが、約束は守りたいので見せることはできません。ギルマスすいません」
「いや、わかった。こちらこそ無理を言ったな。すまない。約束や秘密を守るのも冒険者としては正しいと、俺は思っている。しかもマクビー博士は、まだ見つかっていないはずだ。過去にアリッサム王国での目撃の噂もあった。帝国は、今でも探しているようだ。もし、その魔道具がマクビー博士のものなら、グラジオラ帝国が嗅ぎ付けてくる可能性もある。あの国は、戦争がしたいだけの最低の国だからな。バレない方が良い。マリーも今の話は忘れてくれ」
「はい。もちろんです。ヤマトさんとユキさんが、危険な目に遭うのは嫌ですから」
「お二人とも、ありがとうございます」
「ありがとうなのです」
今回は流石に無理があったと思ったが、奇跡的に近しい人物がいてくれて、本当っぽい話になったようだ。
「あとは、ダンジョン制覇の確認が取れてからだな。暫くはイベリスに滞在していて欲しい。今日は疲れているところ、すまなかったな」
無事にSランクがバレずに済んだ。とりあえず、宿に行って夕食を食べて休みたい。かなり疲れた。主に精神面だが……。
◇◇◇◇◇
「ユキ、助かったよ。今回の誤魔化しは、なかなかの大作だったねえ。グッジョブ!」
「ぐっじょぶ、って何です?」
「よくやった、とか、でかした、って意味だよ」
「ありがとうなのです……エヘヘ」
意味がわかったユキは、しっぽブンブン状態になった。
もう少しで宿に着く。お土産用の肉詰め合わせの革袋も担いでいる。準備万端だ。すると、宿から出てきた二人組とすれ違い会話が聞こえた。
「やっぱり満室か」
「この時期は仕方ないさ。他を探そう」
(え!? 今、満室って言ってたよな……マジカ)
嫌な言葉を聞いてしまった。でも聞き間違いかもしれないし、宿に入ってみる。
「いらっし……あんた達かい! 無事だったんだね!」
「は、はい。無事戻りました」
いつもより、オリガさんのテンションが高い気がする。
「心配したよ。あんた達、新人なのにダンジョン制覇したんだろ? 無理したんじゃないのかい?」
「「え!?」」
何故かオリガさんに、ダンジョン制覇のことが知られている。
「何でオリガさんが、知ってるんですか?」
「ウチは冒険者のお客さんも多いからね。噂になってるよ」
「マジですか……」
(洞窟の詰所から連絡して、まだ数時間なのに……。8階層のダンジョンとはいえ、Gランク二人で制覇とか噂になるかあ。でも、気にしたら負けのような気がする。いつも通りで居よう)
Sランクがバレないように、あまり目立ちたくないのだが、ダンジョン制覇のことは冒険者から広まってしまったようだ。
「お前ら、無事か?」
今度は、レナードさんに声をかけられた。
「はい。この通り、無事戻りました。約束のお土産もありますよ。どうぞ」
「おお、食材のお礼ってやつか? どれ、肉の状態を見ようか。……おい!」
「はい?」
「何だ、この肉!? 凄く良いぞ。もしかしてダンジョン産か?」
「ボアとオークはダンジョン産です」
「お前ら、ダンジョン産の価値わかってんのか?」
「まあ、一応わかってます。それでも、お二人にお土産にしたかったんですよ」
「はいです。お世話になっているからなのです」
「まったく、お前らなあ……。これじゃあウチが貰いすぎだ! 飯食うだろ? これで作ってやる。待ってろ。もちろん、俺のオゴリだ」
「ありがとうございます」
「ありがとうなのです」
「あんた達、それまで部屋で休みな。疲れてるんだろ?」
オリガさんに部屋で休むように言われたが、さっきの二人組の話が気になる。
「え!? 部屋あるんですか? さっき出てきた人の話が聞こえたんですよ。この時期は満室だって……」
「ああ、さっきのお客さんね。確かに、この時期はどこも満室が多いのよ。もうすぐ青空市があるからね」
「青空市?」
「色んなところから行商人が集まって、市が開かれるんだよ。だから、泊まり客が増えるのさ。あんた達の部屋は、そのまま残してあるよ」
「本当ですか!? でも、前払い分終わってますよ。だから、もう残ってないと思ってました」
「そうだったかい? じゃあ、計算間違ったのかもしれないねえー。あー嫌だー。年はとりたくないわねえー」
「ぷっ。オリガさん、めっちゃ棒読みなのです」
「「「あはははっ」」」
本当に良い夫婦と出会えたことに、感謝しかない。その後、いつもの部屋で休憩してから、ダンジョン産の肉料理を堪能した。
食事中に冒険者から、ダンジョン制覇のことを聞かれたが「ラッキーでした」とか「運が良かったんです」と誤魔化しておいた。
前払いを過ぎても取っておいてくれた部屋代を払おうとしたが、貰った肉で良いと言われ押しきられた。なので、今日からの10泊分の料金の銀貨5枚を払って、久しぶりにベッドで眠りにつくのだった。
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