第17話 ひとつ貸しで!

「くっ……。こうなったら、あの技を! なのです!」


 ユキは魔物と対峙していた。短剣を構え、力を溜めるように体勢を低くする。


「いくぞ! ヤマト流短剣術奥義! なのです!」


 低い体勢から、一気に力を解放するように魔物へ向けて走り出した。 全身全霊の一撃を放つべく、その足を大地に踏み込む。


ドゴンっ


 それは雷鳴が轟くが如く、その一撃は稲妻の如し。


白狐びゃっこ雷鳴突き! なのです!」


グサッ


 ユキの必殺の一撃が、魔物をとらえた。


「はあ、はあ……やったか!? なのです」


 ユキは片ひざを付き、肩で息をする。


「……うん。倒したね。……てか、でフラグとか立たないから!」


 今は地下2階を探索中である。昨日ユキにフラグを説明したら、こうなった……。


 フラグの一例として、強敵に会心の攻撃をして「やったか!?」と言うと、敵が死んでないというアレを伝授した。朝からフラグを立てたいと、スライムとスパイダーを倒しまくっているのだ。


 俺も、ついノリノリで演技指導や技名などを考えてしまった。昨日は、中二病スイッチが入ってしまったようだ……。


 ちなみにヤマト流と名付けたのは、ユキである。俺は女神流と名付けたのだが「師匠はヤマトさんなので、ヤマト流なのです」とのことだ。俺は短剣なんて使ったこともないのに、師匠になってしまった……。


「ユキ。もっと強い魔物じゃなきゃ、フラグは立たないよ……。てか、フラグ立てるのは良くないことだからね! 俺もノリノリで教えちゃったけど、これからも立てちゃダメだから!」


「残念なのです。ヤマト師匠が言うなら諦めるです……ショボン」


 なかなか立たないフラグを、やっと諦めてくれた。またユキに、変なことを教えてしまった……。


 気を取り直し、地下2階の探索を続ける。ここも一度探索した場所なので、サマシ苔は少ない。何事もなく、地下2階と地下1階も探索を終了した。


 1階への踊り場に到着し昼食にする。ユキが、オークのショウガン焼きをリクエストしてきた。今までリクエストなどされなかったので、かなり気に入ってくれたのだろう。地球の料理を気に入ってくれて、ちょっと嬉しい。


 昨日の野営では、初挑戦だったこともあり二人分しか作らなかった。なので作り置きは無い。今回は作り置きも含めて、多めに作ることにした。


「うーん、やっぱり美味しいのですう」


「良かった良かった。作った甲斐があるよ」


 いつも助けてくれるユキに、料理という形でお返しが出来た。しかし、地球では週に1、2回しか料理を作ってこなかった俺が、ここまで料理をすることになるとは驚きだ。生きるために食事は必要だ。住むところが変われば、生活も変わるものなんだろうか……。


 昼食を終えて、ついに1階の洞窟へと戻ってきた。マップには、複数のサマシ苔が表示されていた。ダンジョンコアを破壊したことで、洞窟にもサマシ苔が生えるようになったようだ。これから増えてもらうためにも、1階で採取はしない。この感じなら、また群生地として薬師ギルドの管理が続いてくれるだろう。


 初めてのダンジョンだったが、色々と経験出来た。ちょっとトラウマ級なこともあったが、それも経験だろう。依頼のこともあり、採取ばかりしていたが……。


 あとは、ドロップ品の回収か。そこでふと思ったのだが、ダンジョン講習の時にドロップ品は出ないこともあると聞いた。しかし、恐らくだが100パーセントでドロップしていたと思う。一人で戦ったボス部屋は余裕がなくて全ては見ていないが、回収したドロップ品の数からして、100パーセントだったと思う。これも、幸運Sランクの恩恵なのだろうか。


「おお、外が見えてきたー! 久しぶりの太陽光」


「お日様に当たるのは、気持ちいいのです!」


 なんとなくの明るさのダンジョンで数日過ごして来たので、太陽の光はとても眩しく感じた。しかし、肌に日光が当たる感覚は暖かく気持ちが良かった。


「おお、戻りましたか。サマシ苔は採取出来ましたか?」


「あっ、はい。無事に取れましたよ」


 洞窟を出たところで、守衛に声をかけられた。まずは守衛に、連絡を取ってもらわなくてはならない。


「そうだ! すいません。冒険者ギルドに連絡は出来ますか? 急ぎなんです!」


「え!? トラブルですか? 申し訳ないが薬師ギルドにしか連絡が取れないんだ……」


「では薬師ギルドから、冒険者ギルドに連絡をお願いします」


 守衛に経緯を説明する。サマシ苔の採取は無事完了したが、ダンジョンが成長していて、地下8階でダンジョンコアを発見。3日前にコアは破壊済み。その後、1階の洞窟でサマシ苔を確認。洞窟は元に戻った模様。今から2時間以内に、イベリスに帰還する。


「冒険者ギルドのギルマス、ゴルディさんに連絡して欲しいんです。お願いします」


「そんなことが、起きていたとは!? ……ん? 今からイベリスまで2時間で帰る? 何を言ってるんだ?」


「とにかくお願いします! では、イベリスに戻ります。ユキ頼む」


「君、ちょっと……」


「かしこまりーです。獣変化けものへんげ!」


「うわっ! ……デカイな」


「よいしょっと。じゃあ守衛さん、ギルドに連絡頼みます! ユキ行こう」


「しゅっぱつしんこー、なのです」


「……あんなに大きくなる獣変化は、初めて見た。……あっ! 急いで連絡しないと!」


 走り出したユキの背中から、振り返って守衛を見ると急いで詰所に入っていくのが見えた。これでギルマスに連絡が届くだろう。ダンジョンコアの破壊はしたが、ダンジョンに詳しくない俺では、他にもトラブルがあった場合に対応出来ない。なので、難しいことは偉い人に丸投げが一番だろう。


 獣人族の大型獣変化を知らない人も多いらしいので、ユキには多少遠回りでも良いので人気の無い辺りを走ってもらう。


「そうだユキ。イベリスに戻ったらギルマスに、今回のことを説明すると思うんだけど、俺が罠にはまったのは内緒にして欲しいんだ」


「ん? ヤマトさんも誤魔化すですう? ……ニヤリ」


「だってGランクの俺が、一人でボス部屋攻略したとか、おかしくない? ショットガンのことも説明しなきゃだし、Sランクがバレそうでさあ。ギルマスの威圧感ハンパないじゃん」


「確かにギルマスは怖いのです……。じゃあ、二人で攻略したことにするです?」


「その方が良いかなあと思うんだけど、どう?」


「うーん……。そもそも、二人でもGランクがボス部屋に挑戦してる時点で、怒られると思うのです」


「……あ! そりゃそうだ」


「Sランクがバレないように、誤魔化すのは必要なのです。でも話の流れを誤魔化すのは、後でバレたら大変なのです」


「何だか、経験上って感じがするんだけど……」


「その通りなのです! 何回もフェリシア様に怒られた経験からなのです……ドヤア」


「そこドヤ顔いらないから……。でも、そうだよなあ。経緯は正直に話すしかないかあ。Sランクがバレないためにも仕方ない。いざという時は、誤魔化しSランクのユキ名人お願い致します」


「おまかせあれなのです! ……フフフ」


「悪い顔するなあ……コワイ」


 イベリスに着いてから、どうやって説明しようか、ユキの背中の上で考える。まだ1時間以上あるので、何とかなるだろう。


◇◇◇◇◇


「はあー。結局、どうやって説明すればいいんだあー」


 1時間半ほどユキに運んでもらいながら考えたが、良い説明は思い付かず、もう少しでイベリスに着くところだ。今はユキから降りて、二人で歩いて向かっている。


「ショットガンのことも、話した方が良いのかな?」


「倒した手段を聞かれるはずなので、それしかないと思うのです」


「だよなあ……。あーあ、考え疲れしちゃったよ……」


「あたしは走って、お腹ペコペコなのです……」


「ギルマスに説明し終わったら、宿に行って夕飯だな」


「はいです!」


 数日ぶりのイベリスの町の門に到着した。数人待ちで、すぐに入ることが出来た。早速、冒険者ギルドへ向かう。


 ギルドに入り、受付に行く。マリーさんがいないようなので、以前に受付をしてもらったことがある猫獣人さんに話しかけた。


「すいません。ヤマトですが、ギルマスに連絡お願いします」


「あら、あなた。前にゴミ運びの受付をしたGランクさんよね? ギルマスには、そう簡単には会えないのよ」


「いや、あの、急ぎなんですが……」


「そう言われても……あっ! すいません。お名前もう一度いいですか?」


「はい。ヤマトです」


「あたしはユキなのです」


「! 失礼しました! ヤマトさん、ユキさん、ギルマスがお待ちです。また、やっちゃった……」


 猫獣人さんは、焦りながら二階に案内してくれた。


「あのー、ヤマトさん……」


「何ですか?」


「先程は、すいませんでした……。マリーさんから、ヤマトさんと、ユキさんのことは連絡を受けていたのに……。出来ればマリーさんには、秘密にしてもらえないですか?」


「まあ、割りと早めに思い出してもらえたし……」


「じゃあ!」


「ひとつ貸しで!」


「うっ、はい……。でも、ありがとう」


「俺達が困った時は、助けてくださいね」


「はい。あっ、私ヴァニラっていいます。名前も名乗らず、ごめんなさい」


 ヴァニラさんは、最初は落ち込んでいたが安心したのか普通の状態に戻り、ギルマスの部屋に案内してくれた。そこにはギルマスとバルディさん、マリーさんがいた。


「ヤマトさんとユキさんを、お連れしました」


「ヤマトさん! ユキさん! お帰りなさい。無事で良かった……。ヴァニラありがとう。ヤマトさん達のこと、すぐにわかったわよね?」


「は、はい。も、もちろんですよ」


「ん?」


 ヴァニラさんが、マリーさんに怪しまれている。さっきの感じだと、ちょいちょいミスして怒られているようだ。ここは助けることにしよう。


「マリーさん、無事戻りました。ヴァニラさんは、以前に受付してもらったことがあるので、顔見知りですよ。すぐに、わかってくれて連れてきてもらいました」


「そうですか……。それなら良かったです……」


 少し腑に落ちない顔をしていたが、一応納得してくれたみたいだ。ヴァニラさんはマリーさんに見えないように、俺にウィンクをして受付に戻っていった。サンキューといった感じだろう。


 ここからはギルマスに説明だ。何とかSランクが、バレないようにしないといけない。


「ヤマト、ユキ、薬師ギルドに連絡をくれて助かった。お陰で、すぐに他のパーティーが状況確認に向かえた。礼を言う。しかし、本当に2時間足らずで戻るとはな……。どうやって戻ったんだ?」


「あたしに乗って、走ってきたのです」


「ユキに乗って? ……そうか! 大型の獣変化か!?」


「はいです」


「ユキは、そのレベルの獣人族なんだな……」


 流石はギルマスだ。獣人族の大型獣変化を知っていたようで、話が早くて助かる。


「では戻ってきたところで悪いが、経緯の説明を頼む」


「はい。わかりました」


 ここに戻るまでに色々と考えたが、結局ありのままの経緯を話すことにした。とにかく、Sランクがバレないようにしないとな……。

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