第16話 いつものイビキと違う

「うーん。朝かあ、今日も生きてるぞー。相棒は、まだ寝てるぞー」


「すぴー、ぼす、です、すぴー」


「……何か、いつものイビキと違う。嫌な予感が……するわけ無い! とうっ!」


「はにゃ! あたしのしっぽを狙うのはヤマトさん! あっ、何奴、おはようです」


「うん……何か、逆だなあ」


 いつもの? ルーティンを終えて、朝食を済ませ探索へ向かう。


 地下6階も地下7階と変わらず、複数のサマシ苔を採取して、ウルフとボアを倒しながら進んだ。残念ながら宝箱は無かったが、問題無く地下5階へ向かう踊り場に到着した。

 

 このフロアもサマシ苔が多く、23個も採取出来た。全部で64個になり、目標数の倍の数を確保した。これで薬師ギルドも助かるだろう。採取が多かったこともあり、いつもより時間がかかって、もう数時間で昼になる時間だった。


「休憩してから、地下5階を確認しようか」


「はいです。ヤマトさんにも、コアの破壊跡を確認してもらいたいのです」


「そうだね。実際に壊れた跡を見てから、ギルドに報告しなきゃだな」


 休憩を終えて、地下5階の確認へ向かう。


「ヤマトさん! ストップです!」


 階段を上がろうとすると、ユキに止められた。


「何? どしたの?」


「魔物の気配が、複数出現したです」


「ん? ……出現した? 今?」


「たった今なのです」


「えーっと……。まさかのボス部屋が復活とか?」


「そうみたいです」


「えー、マジでえ。……あっ! まさか、ユキのイビキがフラグに?」


「ふらぐ、ってなんです?」


「あるある的なことかなあ。じゃあ、今日の野営で話そう」


「野営が楽しみなのです」


「無事に野営が出来るように、まずはボス部屋攻略だな。やるか!」


「はいです!」


(野営で話す約束しての、ボス部屋戦……。これもフラグか? まあ、いいか……)


 セーフゾーン状態だったボス部屋に入る寸前に、まさかの復活とは何ともついていない。このダンジョンで二回目のボス部屋戦だ。二回目なのは、俺だけだが……。


「ボス部屋って、二人でも入れるんだよね?」


「はいです。一人目が扉を開けて扉が閉まるまで、時間があるので大丈夫なのです。でも隠し通路の時のような、人数制限があるところもあるです」


 そのままユキは、ボス部屋のことを教えてくれた。ボス部屋は、セーフゾーン状態だと扉は完全に開いている。ボスが居る時は少しだけ扉が開いている。しかし、中の様子は見えないくらいだ。誰かがボスと戦闘していると、扉は完全に閉まっている。これが、ボス部屋の状態がわかる仕組みだ。


 また、ボス部屋の中の様子は外からはわからず、扉を開いて初めて知ることが出来る。毎回同じ魔物が復活するので、何度も攻略されているボス部屋だと情報が出回っている。これがユキから聞いた、ボス部屋の情報だ。


 目の前には、少しだけ開いた扉がある。やっぱり、ボス部屋が復活しているようだ。


 依頼を受けた時、ダンジョン制覇から5日経っていた。俺達が着く頃には、もう地下5階は無くなっているはずだった。だからギルドからも、ボス部屋の情報は全く聞かされていない。そもそも採取の依頼なので、ボス部屋に挑む必要は無いのだ。


 なので、ボス部屋の情報は無い。だがユキは、チートの気配察知、魔力感知があるので、ボス部屋の魔物の数を把握出来ているのだ。


「ねえユキ。マップスキルって、ボス部屋の中がわかったりする?」


「表示されないのです。もしかして……」


「うん。バッチリ表示されてるんだよなあ」


「なんとっ! Sランクパワーなのです……キラリ」


 俺は俺で、状況によっては炸裂するチートが、ここで発動していた。マップには、ゴブリン、ホブゴブリン、オークの名前が表示されている。状況によってと言ったのは、知らない魔物だと数がわかるだけなので、うちのパーティーではユキが居るので俺は不要なのだ。


 初見ボス部屋の魔物の数がわかるだけでも凄いことなのだが、一人不要とは他のパーティーが聞いたらブチギレされることだろう……。


 このボス部屋には、ゴブリン18匹、ホブゴブリン6匹、オーク1匹の合計25匹の魔物がいる。ボス部屋に多数の魔物がいるのは、俺にとってトラウマになりかねない状況だ。それを払拭するためにも、敢えて俺が先陣を切ることにした。


「ユキ一等兵、今回の作戦を伝える」


「ヤマト軍曹、いえっさーです」


「まずは俺が、ショットガンで敵の数を減らす。全弾撃ち終わり次第、ユキ一等兵が残りの敵を殲滅する。以上だ」


「らじゃーじゃなくて、いえっさーなのです!」


 二人の間では『地球ごっこ』と呼ぶようになったノリで緊張をほぐす。命のやり取りの場面で余裕過ぎるのは良くないが、緊張し過ぎて力むのを避けるためにやってみた。


 ショットガンを握る手に力が入るが、肩の力は良い感じに抜けている。


「ふうー、よし! 突撃じゃー!」


「おー! なのです!」


 ボス部屋の扉を開け放ち、勢い良く侵入する。俺は魔物の群れに、ショットガンを構えた。すぐ後ろに、ユキが待機してくれている。


「ギャーキャキャ!」


「ブヒブーヒ!」


 一瞬、地下8階のことが頭をよぎる。だが、今は一人じゃない。緊張感もありつつ、冷静に狙い撃つ。


ドンッ ドンッ パリン


 囲まれないように移動しながらも、魔物を効率良く倒すために、集まり重なる場所を狙って撃った。


ドンッ ドンッ パリン


 ユキは、俺の動きに合わせてくれている。


ドンッ ドンッ パリン


 全弾撃ち尽くして、残りはゴブリン5匹、ホブゴブリン1匹、オーク1匹だ。


「よし! ユキ頼んだ!」


「かしこまりーです! 獣変化けものへんげ!」


 ユキは可愛い子狐(本人談)の姿になり、全ての魔物の間を縫うように走り抜ける。魔物も武器を振るうが、全く掠りもしない。最後まで無傷で走り抜け、俺の方へ振り返る。


「ヤマトさーん! 終わったですー!」


「……は? いや、まだ魔物いるじゃん!」


 焦ってショットガンに魔石をリロードしようとしたら、全ての魔物の首が地面に転がった。そして、ドロップ品に姿を変えたのだ。


「嘘でしょ……。ただ走り抜けただけにしか見えんかった。ガッツリ攻撃してたんかい……。流石、女神の弟子……ヤバイ」


「ドロップ品、回収するです……ルンルン」


 ユキは人に戻り、しっぽを振りながら鼻歌交じりでドロップ品を集めている。俺は少しだけ硬直していたが、正気に戻りドロップ品の回収を始めた。


 魔石、ゴブリン武器、ホブゴブリン武器が多数手に入った。そしてオーク肉一つとオークの睾丸が一つバッグに入れられた。また、早く手放したいものが増えた……。それはさておき、嬉しいものが出たのだ。


「攻略されたボス部屋でも、宝箱は出るんだね」


「はいです。ボス部屋で稼ぐ冒険者もいるのです」


 罠は無いようなので開けてみると、中には銅貨48枚、色が赤、黄、白の三種類のピンポン玉のようなものが、それぞれ1個入っていた。


 ピンポン玉をバッグで鑑定すると、生活魔法玉と出た。効果は玉を割ることで、その生活魔法が発動される一回使いきりのアイテムだった。魔法が使えない俺には、役に立つ可能性があるものだ。


 ちなみに色で魔法は違い、赤はイグニション(点火)、黄はホール(穴掘り)、白はライト(明かり)だった。


「お宝の吟味終了っと」


「ヤマトさん。ここ見て欲しいのです」


「ん? ああ、この染みはコアの破壊跡だよね。間違いなく破壊されてる。じゃあ、地下8階のコアが、やっぱり謎だよなあ」


 地下5階のダンジョンコア破壊跡も確認したので、地下4階への踊り場に移動する。


「よーし休憩。ドロップ品回収で腰が痛いよ……。てか、ボス部屋って戦ってる時間より、ドロップ品回収とお宝吟味の方が時間かかってるよなあ」


「二人だから仕方ないのです。でも、他のパーティーなら戦ってる時間は、もっと長いのです」


「そっかあ。戦ってる時間が長いよりはマシかな。その分、怪我や死亡のリスクは減るわけだし」


「そういうことなのです。腰が痛いなら、ヒールかけるです? それか、あたしが魅惑のマッサージをするですう? ……ウフン」


「マッサージはスルーして、これくらいなら、すぐ治るしヒールは止めておくよ」


「ぐぬぬ。また、あたしのウフンが効かないのです……ナゼダ」


 もう少しで昼なので、ここで食事も取ることにした。また、作り置きを食べたのだが、かなり減ってきた。今日の晩御飯は料理をして、また作り置きを増やすことにしよう。


 昼食を食べ終わり、地下4階の探索へ向かう。サマシ苔も複数あり、錬金用のミーズ苔も一緒に採取していく。魔物は地下3階と同じで、スパイダーとゴブリンだった。


 順調に探索を終えて、地下3階への踊り場で休憩をする。これまで採取したサマシ苔は納品用にAランク品を60個作って、残りはバッグに入れておくことにした。


「さてさて、次は地下3階かあ。もう罠は、こりごりだな」


「大丈夫なのです。コアを破壊したので、たぶん地下8階は消え始めてるはずです。だから、あの罠も消えてると思うのです」


「そっかあ。なら少しは安心だな。でも、罠には注意しないとね」


「はいです! もう見逃さないのだす! あっ、噛んだです……ハズイ」


 ゆっくり休憩してから、地下3階の探索へ向かう。ユキの予想通りに、例の隠し通路と罠宝箱はマップに表示されなかった。地下3階は一度探索した場所なので、サマシ苔は少ししかなかった。


 魔物は基本的にユキが倒していたが、たまにバンドガンの練習も兼ねて、俺も数体倒してみた。積極的に戦うつもりはないのだが、ボス部屋のように戦うしかない、もしくは俺も戦った方が効率が良い、なんてことがあるので、少しずつだが戦闘に慣れようという気持ちはあるのだ。


 そして、地下2階への踊り場に到着した。今日はここで野営をして、明日は地上に出れるはずだ。


「明日は外に出れそうだ。今回で野営は……4回目だっけ? 何か初めてのことばかりで、町を出てからもっと日が経ってる感じがするよ」


「色々あったのです。野営は地球の話が聞けるので、楽しいのです。今日は、ふらぐ、の話を聞くのです」


「そうだった……。まあ、何とか説明出来るでしょ。とりあえず、野営の準備しようか」


「かしこまりーです」


 野営の準備を済ませて、今回は料理をしようと思う。作り置きのストックを増やしておきたい。レシピから二品、オリジナルを一品作ってみた。


 オリジナル料理には、オーク肉を使う。レナードさんから、食材と一緒に調味料も貰っている。レシピを見ながらの料理の時に、その調味料や食材が地球のものと似ていることに気付き、地球の料理もある程度は再現出来そうだと思ったのでチャレンジしてみた。


「出来たー! なかなか再現率高めだわ」


「お腹ペコペコなのです。ん? ヤマトさん、この料理は初めて見るです」


「これは、俺のオリジナルだよ。地球の料理を再現してみた。豚のしょうが焼きならぬ、オークのショウガン焼きでーす」


「なんとっ! ショウガンの匂いが食欲をそそるのです!」


「ですよねー。では、いただきます」


「いただきますです」


パクっ


「「……う、うまーい」ですう」


 オークのショウガン焼きは大成功だった。二人ともペロリと平らげて、満足感たっぷりの夕食だった。


 片付けをしつつ、ふと思い出したことがある。


「そうだ。レシピと食材のお礼に、フォレラビを革袋に入れて準備しておかないと。めっちゃお世話になったし、他の肉も入れて良いよね?」


「はいです。でも、ウルフ肉は止めた方が良いかもです」


「そうなの? 何で?」


「ウルフ肉は少し硬いのです。なので、料理に手間がかかるので、お土産には向かないのです。肉屋でも安売りの肉なのです」


「なるほど。じゃあ、フォレラビ、ボア、オークで良いかな」


「それで良いと思うのです」


 ふと思い出したお土産の準備も無事に終わり、ユキにフラグの話をしつつ、夜は更けていく……。

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