第15話 ……ユキ、ありがとう

 俺が目を閉じた後、デカオークは消えてドロップ品に変わった。


ガコンっ  


 すると大きな音を立て、部屋の扉が開いた。そこから勢いよく、白い狐が駆け寄ってくる。


「ヤマトさーん!」


 ユキが助けに来てくれたのだ。


「ヤマトさん! 大怪我なのです! エクストラヒール!」


 暖かな光に包まれると、死を覚悟していた大怪我が一瞬にして治っていた。俺は、ゆっくり目を開けた。


「……即死以外なら助けられるって、マジだったんだね。……ユキ、ありがとう」


「よがっだでずう! やばどざん、ごめんなざいでずう。あだじが、わなを、わなを、うわああん」


 ユキは獣型のまま抱きついてきて、ギャン泣きしている。知らない人に見られたら、獣に襲われているように見えることだろう。


「何でユキが謝るのさ。俺が、ちゃんと話を聞いてたら、こんな目には逢わなかったんだし、自業自得だよ。迷惑かけてゴメンな」


「まにあっで、よがっだでずう。うわああん」


 なかなか泣き止まないユキを宥めつつ、今回戦ったことを思い出す。


 めちゃくちゃ怖かったが、割りと直ぐに戦闘に移ることが出来たのは、適応力のお陰だと思う。走りながら撃ったり、リロードしたり、挙げ句は壁に吹き飛ばされたりしても、何とか生きていたのは、身体能力強化Sランクと、ゴミから復活した装備品のお陰だろう。


 やっぱり俺は、フルールの人間になったんだなあと、改めて実感したのだ。そして、まだどこかゲームのような感覚が残っていたんだと思う。だから、あんな罠に引っ掛かって、めちゃくちゃ怖い思いをして、死にそうになったんだ。これはゲームじゃなく今の俺のリアルなんだって、やっとわかった。


 折角の第二の人生、無理せずに長生きしたい。でも楽しく生きたい。今回みたいな状況は怖いけど、冒険者も続けたい。


 何だか死を覚悟して、人生観が変わったのかもしれない。地球にいた頃は喧嘩もしたことがない俺が、戦闘になるとあんな言葉遣いになるのにはビックリだ。アドレナリンが、出まくっていたのだろう。


 色々と反省もしつつ、今は相棒が泣き止むのを待とう。


◇◇◇◇◇


「もう大丈夫かい?」


「はいです。落ち着いたのです」


「じゃあ、ドロップ品の回収しようか」


「かしこまりーです」


 やっとユキが泣き止んで、今は人に戻っている。いつものユキに戻ったようで安心した。こんなに心配させてしまって、本当に反省しかない。


 全部集め終わり、魔石の数を数えると58個あった。途中のリロードで落とした分も入っているので、多分50匹くらい居たのだと思う。


 魔石をバックに入れて鑑定すると、やはりホブゴブリンとオークで合っていた。そして俺がデカオークと呼んでいた魔物は、ハイオークだったようだ。


 その他のドロップ品も、バッグに入れていく。ゴブリン武器とホブゴブリン武器が多数と、オーク肉5個とハイオーク肉1個と鑑定された。そして、何かが入った瓶が2つあって、鑑定の結果オークの睾丸とハイオークの睾丸だった……。


「あのー、ユキさんや。これって素材なの?」


「薬になるです。薬師ギルドに買い取ってもらうのが、良いと思うのです」


「そうしよう。なんかバッグに入れておきたくない……」


 軽く寒気がしたのは、何故だろう……。


 ちなみにオーク肉とハイオーク肉は、美味しい肉だそうだ。宿の食事でも出てきていたと、ユキに教えられた。普通に豚肉として食べていたんだと思う。そして、ダンジョン産の肉の方が、解体した肉より美味しいらしい。ダンジョン産は、ブランド肉のようだ。


 ドロップ品の回収中に見つけたが、まだ触っていないものが二つある。一つ目は宝箱だ。今は宝箱に若干の怖さもあるが、検索で罠が無いのがわかっているし、ユキにも確認してもらったので大丈夫だろう。


「いざ参る! えいっ! ……おお! 凄い入ってる」


「ボス部屋の宝箱なので、豪華なのです」


 中身はポーションが2本、銀貨58枚、ナイフが1本、指輪が1個だった。バッグに入れて鑑定すると、ポーションは回復ポーションBランクと、魔力回復ポーションCランクだった。ナイフは宝石などが使われている美術品だった。


 そして、この中で一番の当たりだったものは指輪だった。名前は回復の指輪Dランクで、これは誰でも回復魔法のヒールが使えるのだ。


 フルールでは、生まれ持ったスキルが絶対だ。なので、回復魔法スキルが無い人は、このような装備品や魔道具が無いと回復魔法は使えない。


 俺は魔法スキルも戦闘スキルも無いので、こういった装備品や魔道具は、とても嬉しいものだ。実際に銃という魔道具のお陰で、俺は生き残れたのだ。スキル関係無しに魔法も使えて戦闘も出来るユキは、正にチートそのものなのだ。


 基本的にユキと一緒に居れば、戦ってくれるし回復もしてくれる。しかし今回のような大失敗を、また俺が仕出かす可能性もあるので、装備品や魔道具を充実させたいと思っていた。


 この素晴らしい指輪の唯一の弱点は、使用する度に確率で壊れることだ。壊れても俺には、錬金袋Sランクがあるから問題無い。と、思っていたのだが、鑑定には壊れてと書いてあったのだ。いくら錬金袋Sランクでも、少しでもモノが残ってくれなくては直せない。直すことに関しては無敵にも思えたチート能力にも、弱点はあるものなんだと思い知らされた。


 今回のDランク品は、70パーセントの確率で壊れるのだ。おそらく錬金でAランクにすると、壊れる確率は下がると思う。


 早速、鉄屑と併せてみたが錬金不可だった。どうやら、鉄ではないらしい。他のものを併せてみると、銀のナイフが錬金可能だった。この指輪は、銀で出来ているようだ。他の銀製品は持ち合わせていないが、銀貨があることに気が付いた。銀貨も併せて見ると、錬金可能だった。


「うーん……。お金を素材にするのは、ちょっと嫌だよなあ。どうしようもない時の最終手段だな」


 銀貨を素材にしたくなかったので、銀のナイフで錬金しようと思ったのだが、他に試したいことがあった。素材ではなく分類の方だ。他の指輪を持っていないので、アクセサリーを試す。以前に作った、ネックレスとブレスレットだ。どちらも鉄製なのは、錬金で確認済みだ。併せてみたが、残念ながら不可だった。どうやらアクセサリーという分類は無いらしい。


 イベリスに戻ったら、町を見て歩くつもりだったので、指輪を探してみることにした。それまで回復の指輪は、バッグにしまっておくことにする。


「よーし。お宝の吟味も終わったし、次はアレだな」


「はいです。アレを壊すのです」


 二人ともアレと言っているのは、ダンジョンコアのことだ。しかし、疑問がある。


「そういえば、このダンジョンってコア破壊済みじゃなかった?」


「ギルマスは、そう言ってたです。ここに来る途中の地下5階で、コアの破壊跡も確認したです」


「ん? ここが最下層だから、今いるのが地下5階でしょ?」


「違うです。ここは地下8階なのです」


「え!? そんなに下だったんだ……。そりゃ、すべり台が長いはずだよ」


 ユキは地下5階を通ってきて、確かにダンジョンコアの破壊跡があったという。何故、更に下の階層があり、コアがあったのだろう……。地上に戻ったら、ギルドに報告しようと思う。


「コアを壊して力を失うと、最下層から消えていくんだよね?」


「はいです。ゆっくり消えていくです。今回の場合は、最終的に地下が無くなって、1階だけの洞窟に戻るのです」


「だよね。ここも洞窟として残れば、サマシ苔が沢山取れるのになあ」


 コアを壊すのが、少しもったいないと思ってしまった。もし、薬師ギルドで管理が出来るなら、このまま残すのものアリだと思ったのだ。


 しかし今回は、何かイレギュラーが起きたダンジョンのようなので、管理は難しく残すのは危険だと思われる。ダンジョン講習で教えてもらった、スタンピードの可能性もあるので、やはりコアを壊さなければならないだろう。


「それじゃあコアを壊して……と思ったけど、ここ地下8階なんだよね?」


「はいです」


 依頼を受けた時の情報では、最下層は地下5階だったのだが、まさかの地下8階に居ることが判明した。戻りながらサマシ苔を回収するつもりだし、まだ数日はダンジョンで過ごすことになりそうだ。


「……戻るのも時間かかりそうだなあ。もう昼も過ぎてるし、やっぱり先にご飯にしようか」


「はいです。必死に走ったので、お腹ペコペコなのです」


「地下3階から地下8階だもなあ。そりゃ疲れるよ。お陰で俺は命拾いした訳だ。感謝感謝だよ。それじゃあ、踊り場に行こうか」


「ここで良いのです。ボス部屋は復活するですが、数日間はセーフゾーンになるのです」


「そうなんだ。じゃあ、すぐに準備しまーす」


 攻略されたボス部屋は、今はセーフゾーンになっているようなので、ここで昼食にすることにした。作り置きした料理を食べて、少しゆっくりする。落とし穴から始まり、ボス部屋で死にかけたりと、バタバタしすぎたのだ。


◇◇◇◇◇


 食事を済ませて、少し長めの休憩をとった。そして、コアを壊す作業に入る。ハンドガンで壊してみることにした。コアは砕けて粉々になって、床に黒い染みを作った。その中に魔石のようなものがありユキに聞くと、それはダンジョンコアのコアだそうだ。スライム討伐証明のコアと同じで、ダンジョンコアの破壊の証明になるものだそうだ。コアをバッグに入れて、地下7階へと向かう。


 地下7階でマップを確認すると、サマシ苔が複数あった。魔物は名前が表示されないので、俺が知らない魔物のようだ。ユキは、このフロアを通って来たので、魔物を見ているだろう。


 確認すると魔物の名前は、フォレストウルフとフォレストボアだそうだ。通称はウルフとボアらしい。フォレウルとかフォレボアとは言わないようだ。じゃあ何故フォレラビなんだろうか? ラビットじゃ駄目なのか? ユキに聞いてみると「そう呼ばれているのだから、仕方ないのです」だそうだ。確かに、考えても仕方ないことだった。何か気になってしまったのだ……。


 地下7階も、順調にサマシ苔の採取が出来ている。時折ウルフが複数で襲って来るので、ユキは俺の方にウルフが来ないような立ち回りをしてくれている。何だか申し訳ない。


 なので、最初に俺がショットガンを撃って数を減らし、撃ち漏らしをユキが仕留めることにした。ユキが戦っているところに銃を使うのは、巻き込む確率が高過ぎて怖いのだ。1発撃った後は、ユキの戦いを見守るという形が今の俺達の戦い方である。ボアは一匹のことが多いので、ユキがサクッと仕留めている。


◇◇◇◇◇


 地下7階の探索が終わり、今は地下6階への踊り場で休んでいる。もう夕食の時間が近いので、今日はここで野営にすることにした。


「このフロアは、サマシ苔が17個も取れたよ! 下のフロアの方が、取れやすいとかあるの?」


「違うと思うです。地下5階より下は、あたし達が初めて入ったはずなので、採取されていなかったから、だと思うです」


「そっか。地下5階までだと思われてたんだもんなあ。でも下の階があったお陰で、サマシ苔の目標数は無事達成だ!」


「ボーナスゲットなのです……チャリン」


 このフロアの分も併せて、全部で41個のサマシ苔が手に入った。目標数に達したが、出発前に薬師ギルドの人が沢山欲しいと言っていたので、地上を目指しながら採取は続けるつもりだ。


 それから、ウルフとボアのドロップ品も手に入った。それぞれの魔石が多数、ウルフ肉が9個、ボア肉が5個、ウルフの皮とボアの皮が多数、ウルフの牙とボアの大牙が少々、といった感じだ。


 夕食を済ませて寝る準備をしていたら、ユキがいつもより近くで寝ようとする。ほぼ真横だ。ユキは寝相が悪いので、いつもならチョップで撃退するところだが、今日は色々あったので、そのまま寝ることにした。

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