第14話 くそっ! やってやるよ!
「うーん。朝かな? ダンジョンだと朝日がないから、わかりにくいなあ」
この世界にきてから、冴える体内時計で朝だと感じていた。隣で爆睡する相棒は、しっぽを握って起こすことにする。
「えいっ!」
「うきゃ! あたしのしっぽを狙うとは何奴! やっぱりヤマトさん、おはようです」
「やっぱりって……。自分で起きる気は、ないのかねえ……」
いつものルーティンである、ユキを起こすことから一日が始まる。身支度を済ませて食事の準備だ。今日もレシピを見ながら、料理を多めに作ることにする。
バッグには、かなりの量の保存食が出来た。作る余裕がない時や、疲れている時は、この温かい保存食を食べる予定だ。屋台の料理もストックしてあるので、以前買った鍋や食器も減ってきた。イベリスに戻ったら、また色々と買い物が必要だ。
朝食と片付けを終えて、今日からは地下3階の探索である。順調にサマシ苔も集まり、折角のダンジョンなので宝箱に期待しているのだが、一つ見つけたきりである。
「そういえば、このダンジョンは、何階まであるんだろ?」
「ん? 5階じゃなかったです?」
「制覇してダンジョンコアを破壊したから、階層が減ってきてるって言ってたからさ」
「あっ、そうだったのです。もし3階まで無くなっていたら、そこの階段も消え始めているはずなので、3階はあると思うです」
「なるほど。先へ行く階段があれば、とりあえず次のフロアはあるってわかるんだね」
「はいです」
地下3階へ降りてマップを確認すると、まだ消えてはいないことが確認出来た。サマシ苔も数ヶ所の印があるので、このフロアでも複数の採取が出来そうだ。
魔物も確認すると、スライムがいなくなり、スパイダーとゴブリンに変わっていた。今のところ名前が不明な魔物は、いないようだ。
昨日と同じようにユキが先頭を歩き、俺がサマシ苔の場所を指示する。今日も順調にサマシ苔の採取と、魔物のドロップ品を手に入れる。
ゴブリンのドロップ品は魔石と武器だった。武器と言ってもゴブリンの石斧と、ゴブリンの木槍で、強い武器ではない。売っても安そうなので、錬金用になるだろう。
次のサマシ苔を目指す途中で、念願の宝箱がマップに表示されているのに気がついた。サマシ苔の印ばかり見ていて、見落としていたようだ。あんなに宝箱を欲していたのに、見落とすとは……。しかし、その宝箱の場所がおかしいのだ。
「うーん……。これ、どういうこと?」
「どうしたのです?」
「この壁の中に通路があって、宝箱があるんだけど、道が何処からも繋がってないんだよ……」
「マップスキルの表示なら、間違いないのです。何処かに隠し通路があるかもです。でも隠し通路は一方通行「隠し通路かあ。……うわっ!」だったり人数制限が……ヤマトさん!?」
壁に手を触れると、その中に吸い込まれてしまった。マップで見ると壁の中の通路にいる。
「ビックリしたあ。やっぱり隠し通路があったんだな。……あれ? ユキ何してんの? 何で来ないのさ」
ユキが隠し通路に入って来ない。マップでは、壁越しにウロウロしているユキのマークがある。
「仕方ない、一回戻るか。……あれ? ……何で!?」
入って来た壁に触れても、何も起こらない。
「ヤバイ、戻れない……。ユキ! 聞こえるか? ユキ!」
ユキの話の途中だったが、一方通行って言葉が聞こえた気がする。俺は罠にかかってしまったようだ。壁のすぐそこにユキはいるのだが、声は聞こえない。俺の声も届いていないのだろう。
「やっちまった……。ユキの話をちゃんと聞かないからだろ。馬鹿だな俺は……」
どうにかして、ユキと合流するしかない。まずはマップを確認すると、通路に魔物はいない。突き当たりに宝箱があるのみだ。バッグからハンドガンを取り出し、もしもの時に備える。
「まずは、宝箱まで行くしかないか。俺、罠探知出来ないからなあ……。ん? もしかすると……」
今の隠し通路が罠だったとしたら、現物を見たことになる。検索に罠と入力してみると、マップに表示された。
「やっぱり! ……てか、宝箱が罠マークなんですけど……」
罠とわかりながらも、ここには宝箱しかない。他に罠は無いようなので、まずは壁、床、天井を調べることにした。しかし、何処にも仕掛けなどは見つからず、やはり罠宝箱が脱出に繋がるものなのだろうか……。
「やるしかないか……。何とか脱出して、ユキに謝らないとな……」
罠宝箱に近づく。Sランクスキルのお陰で状態異常無効なので、即死さえしなければ大丈夫だと思う。それでも罠とわかっていて開けるのは、かなり怖い。
「……よし、やるぞ! 即死だけは勘弁してくれよ! えいっ!」
恐怖からか、やけに大きな声が出ていた。意を決して宝箱を開ける。
「……え? 空っぽ?」
ガコンっ
「は? うわあー!」
宝箱を開けると、地面が開いたのだ。そう、俺は落とし穴に落ちたのだった……。
◇◇◇SIDE ユキ◇◇◇
え!? ヤマトさんが、壁に吸い込まれたです!
「ヤマトさん! 大丈夫です!? ヤマトさん!」
ヤマトさんが隠し通路の罠に、かかってしまったです。これは一方通行で人数制限ありの罠だったみたいで、あたしは入れないのです。壁の罠に、気付けなかったのです……。
声は聞こえないけど、ヤマトさんの気配はあるのです。でもヤマトさんのマップスキルでは、道が繋がってないって……。ん? ヤマトさんが動き出したです。ひとまずは無事のようで、良かったのです。でも、どうやって助けたら良いか、わからないのです……。
ガコンっ
「なんです!? え!? ヤマトさんの気配が下に? 凄く速く移動しながら、下に行ったのです……落ちた? ……うそっ!? 何で!? ヤバイ!? と、とにかく下に行くです!
◇◇◇SIDE ヤマト◇◇◇
「うわあー! なんだよ、これはー!」
俺は今、すべり台を滑っている……。落とし穴に落ちた先は、すべり台だったのだ。しかも、かなり長くて全然終わらない……。やっと、出口だろう明かりが見えてきた。
ドサッ
「うわっ、イタタ。お尻を強打しちゃったじゃないかよ! ……ん!?」
ふと気配に気付き、周りを見る。
「マジかよ……。俺、まだ死にたくないんですけど……」
滑り落ちた先は、大きな部屋の中だった。そこには多数のゴブリンと、初めて見る魔物が二種類いた。大きなゴブリンと人型のブタの魔物だ。異世界知識的には、ホブゴブリンとオークだと思う。こいつらも複数いる。俺は、念のために装備していたハンドガンを構える。
「ギャーキャキャ!」
「ブヒブーヒ!」
「グオーーーーー!」
魔物たちが叫び、俺を獲物と認識したようだ。
「これモンスターハウスってやつ!? ハンドガンじゃ無理! くそっ! やってやるよ! 死んでたまるかよ!」
バッグにハンドガンをしまい、ショットガンを取り出す。全身が震えているのが、自分でもわかる。
「うおおおーーー!」
ドンッ ドンッ パリン
ドンッ ドンッ パリン
無我夢中で魔物の群れにショットガンを撃つ。狙いなんて、あったものじゃない酷い撃ち方だが、命中補正のお陰で一度に複数の魔物がドロップ品に姿を変える。
さらに2発撃って、ショットガンは弾切れになった。急いでバッグから魔石を取り出すが、手が震えていて落としてしまう。一旦ショットガンからハンドガンに持ち替え、魔物の数を減らす。
移動しながら魔物との距離を保ち、ハンドガンを撃つ。ハンドガンでも、そこそこ魔物を減らすことが出来た。
ハンドガンを撃ちきり、もう一度ショットガンに持ち替える。魔物たちに囲まれないように、移動しながら魔石のリロードを試みる。また何個も落としながら、やっとリロードが完了し4発撃ちこんだ。
「はあ、はあ、はあ。くそっ! めっちゃ怖い! でも、あとはお前だけだぞ! ブタ野郎!」
ゴブリンとホブゴブリン、オークを倒して目の前にいる魔物は、あと一匹だ。よく見ると、倒した数匹のオークより明らかにデカイ。
「は? よく見たらお前、ただのオークじゃないよな? 最初から居たか? 何処に居たんだよ、って話が通じるわけないか……」
「グオーーーーー!」
「あぶなっ!」
デカオークが棍棒を振り下ろす。右に避けてショットガンを撃つ。
ドンッ
「グアアアーーー!」
頭を狙ったが左腕で防がれる。しかし左腕は、地面に落ちた。また棍棒を振り下ろしてくる。バックステップで躱しショットガンを構える。棍棒が俺の前の床を捉える。
ドゴンッ
「痛っ! あっ!?」
砕けた床が飛んできて、ショットガンに当たり吹き飛ばされてしまった。振り下ろした体制の棍棒で、今度は突きを狙ってくる。俺は難なく横に避ける。
「グオ」
「は? 今、笑ったのか?」
背筋に冷たいものが走った。頭で考えた訳ではなく、体が勝手に動いた。俺はバックから鉄の盾を取り出し構える。その瞬間、盾に衝撃があり俺は壁まで吹き飛んで激しく衝突し、その場に座り込んだ。
「ぐはっ、いってえー。血が出てんじゃん……。こりゃ、左腕終わったかな……。てか全身ボロボロだし、クラクラするし、動けねえ……」
あの突きは、俺を横に避けさせるためのものだった。その後の、薙ぎ払いが狙いだったようだ。まんまと引っ掛かった俺に、デカオークは笑ったのだ。
デカオークは勝利を確信し、また笑いながらゆっくり俺に近づいてくる。そして俺の前で棍棒を振りかぶった時、俺は構えたままの盾の上にショットガンを乗せて撃つ。
ドンッ パリン
デカオークの頭を吹き飛ばしていた。
「はあ、はあ……。幸運Sランク舐めんなよ。吹き飛んだ先に、ラスト一発入ったショットガンがあったわ。笑って余裕ぶっこいてるからだ! ざまあみろ! ハハハッ、ゲホッ、ゲホッ。……ヤバイ、回復ポーション飲まなきゃ。……くそっ、もう指一本動かん……。俺、死ぬのかな……」
何とかデカオークを仕留めることが出来たが、体が全く動かない。俺は絶望しながら、デカオークがゆっくり消えていく姿を、ただ見つめていた。
「ユキに謝れなかったなあ……。気にしてなきゃ良いけど……。全部俺が悪いんだからさ……」
絶望の中で考えたのは、沢山助けてくれたユキへの謝罪だった。
「死んだらフェリシア様のところに行くのかなあ……。ユキは凄く助けになったって伝えなきゃ……。でもユキに地球のこと色々教えて、若干キャラが変わってるんだよなあ……。説教されるのは嫌だなあ……はははっ、ゴホッ、ゴホッ……。ふうー」
俺は、ゆっくり目を閉じた。
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