第13話 ……俺の緊張感を返して

「うーん。朝かあ」


 どうやら無事に朝を迎えたようだ。隣には、いつもの光景があった。


「すぴー、すぴー、ですう……」


「うん。いつも通りの朝だな。正に無問題モーマンタイ


 いつものようにユキを起こして、朝食の準備をする。今日は昨日とは違うスープを、レシピを見ながら多めに作ってみた。もう一品はフォレラビ肉を焼いて、野菜と一緒にパンに挟んでみた。これはレシピではなく、惣菜パンのようになるかと思い、自分なりに作ってみた。


「ユキ出来たよ。食べようか」


「はいです。いただきますです」


「じゃあ俺も、いただきます。……うん。美味しく出来た。良かった」


「これもレシピです?」


「スープはね。パンは俺のオリジナルだよ。って言っても、肉焼いて挟んだだけだし」


「ヤマトさんオリジナルも、美味しいのです!」


 ユキも気に入ってくれたみたいで良かった。ユキが洗い物を済ませてくれて、俺はバッグにしまっていく。最後にテントのスイッチを押すと、自動で小さく折り畳まれた。全てをバッグにしまって、忘れ物を確認して出発だ。昨日決めた通りに、ユキに獣変化けものへんげしてもらい背中に乗せてもらう。


「じゃあ、ユキ頼むね」


「かしこまりーです」


◇◇◇◇◇


 ユキに乗るのは二回目だが、本当に快適だ。歩くと8から9時間かかる道のりを、1時間ちょっとで到着した。ユキ曰く「まだ速く走れるのです」だそうだ。到着と言ったが直接洞窟に大きな獣が近づくと、詰所の人達を怖がらせてしまうので少し手前である。そこから歩いて洞窟の詰所へ向かう。


「あれが洞窟と詰所だな。ユキのお陰で助かったよ」


「あたしは、これからも役に立つのです……キラリ」


(もし俺一人で転生してたら、今頃どうなってたんだろなあ……。町に着くのも怪しかった? 着けたとしても、まともに生活出来なかった? ホント相棒のお陰だなあ。言ったら調子に乗るから、絶対に言わないけど!)


「ヤマトさん、どうかしたです?」


「何でもないよ。もう少しで到着だ。依頼達成のためにも頑張らないと」


「はいです」


 詰所まで歩くと、守衛が話しかけてきた。


「止まってくれ。今回の依頼を受けた二人か?」


「そうです」


「すまないが、確認の為ギルドカードの提示を頼む」


 ギルドカードを確認してもらい、洞窟へ入る許可をもらった。詰所で休むか聞かれたが、そのまま洞窟に入ることにした。何日かかるかわからないが、詰所に戻らずに洞窟に滞在することも伝えた。詰所には必ず起きている人が居るから、夜中だとしても戻ってきて良いと言ってくれた。


 入る前に洞窟の説明をしてくれた。ここは元々ただの洞窟で、サマシ苔が群生していたことから、薬師ギルドで管理するようになった。


 地下は無く1階のみだったのだが、急に地下への階段が出来てダンジョン化が判明した。1階は魔物は一切出ないが、採取出来る素材が育たない状態だそうだ。地下1階からがダンジョンで、地下5階まである。階層が増えて採取出来る数も増えたが、Aランク品が取れなくなって今回の依頼になったとのことだった。


「なるほど。説明ありがとうございます。では、早速いってきます」


「採取、宜しくお願いします。無事のお帰りを」


 洞窟の1階に入ると、ある程度の明るさがあった。薬師ギルドで管理されている場所なので、所々に明かりが設置してあるようだ。


 まずは検索にサマシ苔を入力する。マップで確認すると、守衛が言っていた通りに全く反応がない。1階はダンジョンではないので、まずは階段を目指す。階段は地形ということなのか、すでにマップに表示されていた。


 この洞窟の造りは広さや高さが異なる道や、広場などで構成されていた。行き止まりになっている場所もある。


 途中で苔らしきものを見つけたので、錬金用に採取してバッグに入れる。名前はミーズ苔という、特に薬効は無い一般的な苔だった。ミーズ苔をある程度採取しつつ、地下への階段へ到着した。


「ヤマトさん、ここからは罠があるかもなので、あたしが先を歩くです。サマシ苔がマップに出たら、道案内をお願いするです。魔物もいると思うので、注意するのです」


「了解だよ。ユキ頼むね」


「はいです」


 ユキに言われた通りにマップを注視しつつ、階段を降りていく。すると、階段の途中が踊り場になっていた。講習で階段がセーフゾーンと教えられたが、階段で野営なんて出来るのか? と思っていた。ここの踊り場は広さも10メートル四方ほどあり、野営するのに十分だった。


 踊り場に入ると、マップは踊り場、上り階段、下り階段だけに表示が変わった。ダンジョンに入ると、自分がいるフロアのみがマップに表示されるようだ。


 洞窟に入った時点では、まだダンジョン内では無かったので、洞窟内部と周りの森や詰所など普段通りのマップ表示だった。ダンジョンに入ると、ダンジョン内部以外の表示がなくなる。この辺の仕様も、ゲーム画面を見ているようだ。


 そして、本格的なダンジョンである地下1階へと足を踏み入れる。この世界に来て初めてのダンジョンだ。緊張とワクワクした気持ちが混ざっていた。


 地下1階に着くと、ここもある程度の明るさがあった。特に明かりが設置されているわけではないようだが、ユキに聞くと「ダンジョンは、だいたいこんな感じなのです」とのことだった。


 マップには、魔物とサマシ苔が幾つか表示された。このフロアも1階と同じような造りだった。魔物はスライムが殆どだが、名前が表示されていないものもいる。ユキにそのことを伝え、サマシ苔の場所を指示する。


 ユキは罠を確認しながらで、普段より少しゆっくり歩いている。そして、最初のサマシ苔を発見した。ユキが近くに罠が無いことを確認したので採取する。バッグに入れると、サマシ苔Dランクだった。確認のため、すぐにミーズ苔と錬金するとサマシ苔Aランクが出来た。


「よし。ミーズ苔でサマシ苔がAランクになったよ」


「やったです。このまま、このフロアのサマシ苔を採取するのです」


 次のサマシ苔の場所は、広場になっている。スライムと名前の表示がない魔物がいる場所だ。広場に到着すると、そこにはスライムと大きな蜘蛛がいた。ユキが素早く広場にいた魔物たちを殲滅する。倒された魔物は姿が消えて、ドロップ品が現れる。ユキがドロップ品を回収して戻ってきた。


「おお、これがドロップ品かあ。本当に魔物が消えて、出てくるんだな。マジでゲームじゃん」


「ヤマトさん、前にも言ってたけど、げーむ、って何です?」


「地球にある遊ぶものだよ。俺の趣味だったんだあ。今みたいに魔物を倒すとアイテムが出たりして、最後は魔王を倒したりするんだよ」


「なんとっ! ヤマトさんは魔王を倒したのです!?」


「ゲームでだよ。俺自身は、そんなこと出来るわけないし」


「うーん……よく、わかんないのです」


「だよね……。この世界で説明するのは、時間がかかるかなあ。今度、野営の時にでも説明するよ」


「はいです。地球の話は楽しみなのです!」


 ひとまずゲームは今度ゆっくり説明することにして、ドロップ品をバッグに入れる。スライムは魔石ばかりで、大きな蜘蛛はスパイダーという、そのまんまな名前だった。ドロップ品は、スパイダーの魔石とスパイダーの糸だった。この糸で作る布は、丈夫なものになるようだ。


 検索にスパイダーを入力すると、このフロアの魔物はスライムとスパイダーだけだった。広場のサマシ苔を複数採取して、次の場所を目指す。途中でスパイダーがいたので、今度は俺がハンドガンで攻撃したみたが、問題なく一発で倒すことが出来た。


 次のサマシ苔は行き止まりにあり、到着すると別の嬉しいものも発見した。宝箱があったのだ。ダンジョンは制覇されて、徐々に力を失っているので宝箱はもう出ないと思っていた。ユキもビックリしていた。


 宝箱にも罠がないことを確認してもらい開けてみた。中には、ポーションと銅貨25枚が入っていた。ポーションはバッグに入れて鑑定すると、回復ポーションDランクだった。


「初お宝ゲット! まあ、浅い階層だしこれでも良い方なのかな?」


「1フロア目で宝箱はラッキーなのです」


 マップに他の宝箱が表示されないか検索してみたが、表示されなかった。現物を見たことで、検索条件は達成しているはずだ。このフロアに宝箱は、もう無いのかもしれない。別のフロアでは宝箱が表示される可能性もあるので、検索の履歴はオンのままにしておく。ちなみにだが、今まで登録したものは全てオンにしてある。


 残りのサマシ苔を採取しながら、次のフロアへの階段を目指す。魔物はユキが倒してくれた。新しいドロップ品で、スパイダーの鋼糸というものを手に入れた。これは一つしかドロップせず、レアドロップ品だと思う。鑑定によると、防具などに使われるかなり丈夫な糸だそうだ。


 こうして無事に地下1階の探索は終わり、地下2階への階段の踊り場に到着した。


「今は昼前ぐらいかな? このまま、次のフロア行く?」


「ここで、お昼ご飯にするです。次のフロアが、めちゃくちゃ広い可能性もあるです。休める時に、休むのが良いのです」


「なるほどね。じゃあ、ご飯の準備するよ」


「はいです」


 昼御飯は、初めて作ったスープを多めに作って保存しておこうと思う。今は一から作る余裕があるが、この後どうなるかわからないので作り置きだ。


 パンにチーズを挟んだものと、スープを食べた。片付けも終わり少し休憩してから、次のフロアに行くことにした。その間にサマシ苔を錬金して、全部でAランク品が7個になった。


「全部で7個かあ。ダンジョン内でも採取は順調だし、このまま目標達成出来そうかな。魔物も弱いし余裕だね」


「ヤマトさん! ダンジョンは、何があるかわからないのです! 気を抜くのはダメダメなのです!」


「……そうだった。緊張感を持ってないと駄目だね。ユキが強いから、つい余裕ぶってしまった。イカンイカン」


「可愛いなんて照れるですう……エヘヘ」


「……俺の緊張感を返して」


 休憩も終わり、地下2階へ降りて行く。地下1階と造りも似ていて、魔物もスライムとスパイダーだけだった。残念ながら宝箱は表示されなかったが、サマシ苔は12個も手に入った。これで合計19個だ。


 探索に慣れてきたのか、地下2階の採取も順調に終わり、今は地下3階への踊り場で休憩している。


 夕食までは、まだ少し早い時間だ。地下3階も探索しようと思ったが、初日でサマシ苔がかなり手に入ったので、無理はせずに今日は休むことにした。


 時間があるので、レシピやオリジナル料理の作り置きをして、バッグにしまうことにした。洞窟に来る前の森で解体したフォレラビを、ユキに頼んで料理用に細かく解体してもらった。


 そのフォレラビも使いつつ料理をしていると、あっという間に夕食の時間になり、そのまま食事を済ませた。


 この世界に来てから時計を見ていないが、やたら体内時計が働くようになった。今はダンジョン内なのでわからないが、外は暗くなってきている頃だろう。ユキに聞いても、そのくらいの時間だと答えた。ちなみにユキは「あたしは、腹時計が完璧なのです!」だそうだ……。


 野営の準備をして寝るまでテントで、ユキにゲームの説明をした。テレビやゲーム機を魔道具として説明して、一応伝わったようだ。


「ヤマトさん。げーむ面白そうなのです! あたしは暗殺者げーむが良いのです」


「ゲームの暗殺者だから、セクシーにはなれないよ」


「元からセクシーなので、もーまんたいなのです……ウフン」


「さて、そろそろ寝る時間だな」


「ぐぬぬ。あたしのウフンを躱すとは……ヤルナ」


 こうしてダンジョン初日は、無事に終わった。緊張感を持ってと言ったが、もう少しで目標達成だし余裕だろう。


 そう思ってしまったのが悪かったのか、地下3階で俺は最悪な目に遭うのだった……。

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