第12話 前に見た時よりデカイんだけど……

 遠出することを伝えるために、宿へ向かう。以前オリガさんは連絡はいらないと言っていたが、かなり良くしてもらっているので伝えようと思う。


 サマシ苔が何日くらいで集まるかわからないし、もうすぐ先払いした宿泊分も終わる。宿に着いたのが、ちょうど昼食のピーク終わりだったので話すことが出来た。


「オリガさん、今日から依頼で何日か戻りません」


「あら、わざわざ教えてくれるなんて律儀だねえ」


「めちゃくちゃお世話になってますから、黙って行きたくなかったんですよ」


「お前ら、遠出の依頼か? ちょっと待ってろ」


 レナードさんが話しかけてくれた。厨房から出てきて、数枚のメモと食材が入った革袋を渡された。


「これ持ってけ。遠出なら野営もするんだろ? 飯作れんのか? 料理が苦手でも、簡単に作れるレシピと食材だ」


「え!? レシピなんて良いんですか!? 食材まで……」


「レシピとは言ったが、そんな大層なものじゃない。誰でも出来る家庭料理だ。食材の分は、そうだな……またフォレラビでも狩ってきてくれ」


「ありがとうございます。本当に、お世話になりっぱなしですね……。料理のことも、お見通しでしたし。ユキ、フォレラビ宜しく頼むよ」


「かしこまりーです」


 宿への挨拶を済ませて出発する。この世界に来て、初の遠出と野営だ。ゴミから錬金した魔道具達が、役に立ってくれるはずだ。


◇◇◇◇◇


 町を出たのが午後だったので、休まず歩いても到着するのは夜中になる。無理する必要もないので、ゆっくり目的地まで旅をする感覚で良いだろう。


「フルールに来て初めての遠出だから、ゆっくり行こうと思うんだけど良いよね?」


「はいです。もし急ぎたくなったら、あたしが運ぶです」


「いやいや、運ぶってオンブしてダッシュでもするの?」


「違うです。これなのです。獣変化けものへんげ!」


 そう言うとユキは、大きな白い狐に変化した。以前俺を探して走ってきた時とは、サイズが全く違う。


「うわっ。獣変化!? てか、前に見た時よりデカイんだけど……」


「はいです。前のは可愛い子狐だったです。今回は、かっこいい白狐びゃっこ女王じょおうなのです……ドヤア」


「そんなドヤ顔されてもなあ……。獣変化って、大きさ変えられるんだね」


「はいです。でも、獣人全員が出来る訳じゃないのです。強さ、賢さ、カリスマ性など、何かが優れた者のみが出来るのです……ドヤア」


「……ドヤ顔うざいから、チョップ!」


「はうっ! また、おでこです……イテテ」


「じゃあユキは強さがあるから、その獣変化が出来るんだね」


「なんとっ! あたしは、強さと賢さとカリスマ性があるのです! 特に可愛いという圧倒的なカリスマ性は、正に可愛いは正義といわんばかりの━━━」


「……おりゃ!」


「はうっ! 調子に乗ったです……メンゴ」


「メンゴって……。とりあえず、一回乗ってみて良い?」


「はいです。風よりも速く走れるのです!」


 ユキの今の大きさは、馬よりもさらに大きなサイズである。伏せをした体制になってくれて、何とか背中に乗ることが出来た。乗馬のように、手綱や鞍、足を乗せる鐙もないので、しがみつくしか出来ない。ゆっくり動いてもらって、徐々に走ってもらう。最初は怖かったが、慣れると爽快感が半端ない。


「ヤマトさん、どうです?」


「凄い速いのに慣れたら怖くないし、風が気持ちいいよ! 揺れも少ないし、落ちそうな感じもない!」


「良かったのです。そう感じるのは、魔法で守られてるからなのです」


 獣変化は一種の魔法だと、以前ユキに教わった。風の抵抗も魔法で和らいでいて、めちゃくちゃ速いのに、とても快適だった。揺れの少なさや、落ちないようにしてるのも魔法の補助があるのだろう。


 後ろを振り返ると、もう町は殆ど見えない距離まで来ていた。マップを見ると、もう少し行ったところに森があったので、そこまでユキに走ってもらうことにした。


◇◇◇◇◇


「あっという間だったなあ。ユキ凄いじゃん」


「あたしは役に立つのです……エヘン」


 途中の森までユキに乗せてもらった。今は人に戻って、しっぽを振っている。森には元々寄るつもりだった。少しだけ採取や魔石集めをしたり、周りに人が居なければ銃を試したいと思っていたのだ。


 採取するのはいつものヤック草などの他に、枝などの焚き火に使えるものだ。魔道具のランタンやコンロがあるので、明かりや調理の為の火は必要ないが、魔石が燃料なので無くなってしまった時の為に準備しようと考えてのことだ。バッグに入れておけば、邪魔にもならない。


 今まで散々準備不足が目立っていたので、予めの準備だ。先回りしてやったぞ的な慢心は、しっぺ返しをくらいそうなので、口にはしないでおこう。ユキに、めちゃくちゃつっこまれそうで怖い……。


 周りに人も居ないので、銃で魔物を仕留めてみようと思う。ちなみに、誰かに銃を鑑定されるとヤバイので、ランクをAランクにしてヤマト専用装備を消す偽装をしてある。銃が使えなかった時の為に、ユキには隣で待機してもらう。


 ヤック草や枝を集めつつ、魔物がいる方に近づいて行く。まずは、動きの遅いスライムの表示に近づいていた。


「スライム発見。まずはハンドガンを試す。ユキ隊員は隣で待機」


「らじゃー、なのです」


 ばっちり敬礼を決めたユキと、以前に地球の話をしていた時に教えたをやってみた。馬鹿らしくて何だか楽しい。俺はスライムにハンドガンを構える。


パシュっ


「うわあ。音も反動も無い。一応狙ったけど、一発で当たるとはなあ。命中補正か」


 スライムを一発で仕留めることが出来た。魔石とコアを回収し、スライムを倒しまくる。


パシュっ パリン


 6発撃ったら魔石が壊れた。ハンドガンは銃でいうグリップの部分に、魔石が3個まで入れられる。魔石が壊れると自動で次の魔石が装填されるようになっていて、銃でいうマガジンの仕組みだ。フル装填で、ハンドガンは18発撃てるようだ。


「フォレラビ発見。次はショットガンを試す。ユキ隊員は待機」


「らじゃー、なのです」


 今度はショットガンで、フォレラビに狙いを定める。


ドンッ


「マジかあ……」


「……ヤマト隊長。フォレラビが……。フォレラビが……」


「……ユキ隊員落ち着け。ショットガンは、大ピンチ以外は封印とする……」


「……らじゃー、なのです」


 ショットガンは凄すぎたのだ。フォレラビと周りの木が、粉々になったという表現で良いだろうか。詳しく話すと、フォレラビがピーしてピーになってピーーーーー。自主規制とさせて頂く。


 弾数を確認するために、木が無い場所の地面を離れたところから狙ってみた。地面がえぐれた……。ショットガンは2発で魔石が壊れ、フル装填は魔石3個で6発だった。性能面は、威力は凄まじく、反動はややあり、音もある、といったところだ。


「見つけた時の壊れた状態を思い出すと、確かに納得の威力だな……。あの依頼人は、なんちゅうものを開発してんだ! この魔道具が、製品化されないことを祈ろう……」


「祈るです……あーめん」


 ユキに地球のことを教えて欲しいと言われて、間違った方向に教えてしまったかもしれない……。でも地球出身は、この世界に俺しか居ないので良しとしよう。


 俺は基本的には戦わないが、メイン武器はハンドガンでいこうと思う。それでも狩りはしようと思うので、フォレラビをハンドガンで仕留めていく。命中補正もあって、ヘッドショットを高確率で決められるようになった。これで、もしユキが戦えない状態などがあっても、俺も少しは戦えるだろう。


 仕留めたフォレラビは、ユキが解体してくれた。バッグに入れておけば新鮮なままなので、宿の夫婦にお土産が出来た。


「さてさて、もう少しで日も暮れそうだし、野営の準備だな。どの辺りでやれば良いかな?」


「森からは離れて、道に方に戻るのが良いです。多分、他の誰かが使った野営の跡があるはずなのです」


「なるほどね。じゃあ、野営の跡を探そうか」


「はいです」


 森から道に戻り、野営跡を探す。暫く歩くと道の脇に焚き火跡を見つけた。ここで野営をすることにした。


 マジックテントをバッグから出して地面におく。魔石をセットしてスイッチを押すと、自動でテントが設置された。大きさは一人用サイズで小さいが、空間拡張のお陰で中は大人五人は寝れそうだ。


 魔物避けの機能は、テントの中に説明のメモがあった。テントから半径300メートルに魔物が嫌う波動が流れて、魔物が逃げて行くという機能だった。それでも近づいてくる魔物がいたら、半径150メートルでテント内に警報が鳴る機能まであるようだ。


「何か凄いテントなんだが……。何故これが捨ててあったんだろ?」


「魔道具は一度壊れると、修理が難しいのです。直すよりも、新しく買うか作る方が早いのです」


「そっかあ。じゃあ、俺が直せるとバレたら……」


「修理依頼が殺到するかもです」


「ですよねえ……。気をつけよう」


 テントは設置したし、あとは食事の準備だ。外に出ると暗くなってきたので魔道ランタンで明るくして、魔道コンロと買い揃えた調理器具を準備する。


 レナードさんに貰ったレシピで、料理を作ってみることにした。食材も貰っていたので、頑張って二品作ってみた。フォレラビを使った、スープと肉野菜炒めだ。調理の時に便利だったのは、魔道水筒だった。これも魔石が燃料で水が減ると水筒いっぱいまで戻るという魔道具で、水質も問題無く飲みやすい水だった。


 結果、拾ってきて錬金で直した魔道具たちは、どれも大活躍だったのだ。


「よし、完成! ユキご飯にしよう」


「はいです。でもヤマトさんって料理出来たです?」


「簡単なものなら地球の時も、たまにやってたんだよ。今回はレシピがあったから、助かったよ」


「宿のご夫婦に感謝なのです」


「本当そうだね。じゃあ食べようか」


「「いただきます」です」


 パクっ


「「う……うまーい」ですう」


 流石は料理人のレシピだ。手順が細かく書いてあって、俺みたいな素人でも美味しく出来たのだ。


 初めての野営での料理で心配だったが、美味しく出来て良かった。今回は失敗するかもしれなかったので、二人分しか作らなかった。これなら一回で多めに作ってバッグに入れておけば、何時でも温かい食事が出来るだろう。今度は多めに作ることにしよう。


 食事を終えて、調理器具や食器はユキが生活魔法を使って洗ってくれた。女神フェリシア様のところでの修行でやっていたらしく、得意だと言っていた。何となく俺が料理担当で、ユキが片付け担当になることが決まった。


「さて、明日は朝から歩いたら、何時間ぐらいかかるんだろう?」


「たぶん、8から9時間ぐらいだと思うです」


「そっかあ。寄り道したし、あんまり進んでないよな……」


「洞窟の近くまで、あたしが運ぶです?」


「そうだね。お願いしようかな」


「かしこまりーです」


 明日の予定も決まり、今日は休むことにした。野営では交代で見張りをするのが普通なのだが、テントの機能とユキ曰く野営でなら魔物の気配に気づいて起きる、という普段の爆睡を知っている俺からしたら、怪しすぎる言葉を信じてみることにした。実際、交代で見張りをしても暇で寝てしまいそうだし、いっそのこと二人ともテントで寝て良いかなと思った。


「じゃあ、寝ようか。寝てる間に何かあったら頼むよ」


「おまかせあれなのです」


「本当に大丈夫だよね? 寝てる間に魔物に襲われるとかないよね?」


「もーまんたい、なのです! 使い方合ってるです?」


「お、おう。無問題モーマンタイ


「良かったのです」


(余計なことばっかり教えたから、ユキが変なキャラになってる気がする……。でもまあ、何か面白いし良いかな!)


 この世界に来て、初めての野営は続く……。

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