第11話 Gランクのド新人にですか?

(……ん? 顔が痒い? むずむずする?) 


 昨日は色々な作業で疲れて、あの後すぐに眠りについた。ぐっすり眠っていたが、何故か顔がむずむずして目が覚めた。


「うわっ! 白い? うっ、金縛りか!?」


 目を開けてみたら、目の前が真っ白だった。体は動かず、ただただ白い何かを見つめていた。よく見ると、その白いものは右に左にと、ゆっくり動いている。時折、顔に触れてむずむずするのだ。


「……これ見たことあるよなあ。褒められて喜んだら、めっちゃ動くやつだよなあ。金縛りかと思ったら、俺に何か乗ってるし……」


 俺に乗ってるものを降ろすと、やっぱりユキだった。俺の上半身に十字になるようにうつ伏せで覆い被さり、プロレスのフォールをされていた感じだ。


「別のベッドに寝てたのに、何で俺のベッドで寝てるんだよ。まったく、どんな寝相なんだか……」


「すぴー、すぴー、ですう……」


「人のこと、しっぽで起こしておいて爆睡とは良い度胸だ……。これでもくらえ!」


「うきゃ! あたしのフサフサしっぽを狙うとは何奴! あっ、ヤマトさん、おはようです」


「おはようです、じゃないよ。なんちゅう寝相してんのよ。ここ、俺のベッドだよ」


「なんとっ! ついにヤマトさんが、あたしの魅力に気づいて手を出そうとしたです……イヤン」


「……えいっ!」


「はうっ! チョップです……イタイ」


 朝から謎の不思議体験での目覚めに、軽く疲れてしまった。とりあえず、ユキのおでこにチョップしておいた。


 朝食を済ませて、出かける準備をして宿を出る。ギルドへ向かい依頼の確認だ。今日は銃の性能を試すのと、魔道具や銃の燃料になる魔石集めをする予定だ。


 ギルドに到着して掲示板を確認していると、マリーさんに話しかけられた。


「ヤマトさん、ユキさん、おはようございます」


「マリーさん、おはようございます」


「おはようです」


「ギルマスが、お呼びです。来て頂けますか?」


「え!? ギルマスが……。わかりました」


 納品やらかし後は、特に目立たずにいたはずだ。何故呼ばれたのかわからないまま、また二階のギルマス部屋に連れていかれた。


「ヤマト、ユキ、来たか。まあ座ってくれ」


「は、はい」


(やっぱり、ギルマスは怖いな……。威圧感が凄すぎるよ……)


「今日呼び出したのは、二人に指名依頼があるからだ」


「指名依頼!? Gランクのド新人にですか?」


 指名依頼とは、その人、そのパーティーに対する依頼である。とりあえず、ギルマスの話を聞いてみる。


 今回の依頼は、薬師ギルドからの依頼である。薬師ギルドが所有している洞窟が一部ダンジョン化してしまい、その洞窟で採取出来る素材が低ランクしか取れなくなってしまったようだ。ダンジョン化したのは20日ほど前で、これも冒険者ギルドに依頼がきて、ダンジョンは無事に制覇されたようだ。


「そこで二人に依頼だ。その洞窟と、まだ残っているだろうダンジョンでサマシ苔Aランクを採取してきて欲しい。それも沢山な」


「Aランクですか。だから俺達に……。ん? まだ残っているダンジョン?」


「ああ。ダンジョンは初めてだよな? その辺りも後で詳しく説明するから、心配するな」


 納品やらかし事件で二人とも幸運スキル持ちだとわかったから、今回も幸運に期待してるってことだろう。


 もう少し詳しく話を聞くと、サマシ苔とヤック草で薬師は風邪薬を作るらしい。高熱の患者にはAランクの風邪薬が必要なのだが、今回のダンジョン化でサマシ苔Aランクが不足していて困っているようだ。そこで、冒険者の中には採取に強い者も居るだろうと、冒険者ギルドに依頼がきたようだ。


「ダンジョンは制覇されているから、魔物は減っているし、強い魔物も居ないはずだ。それでも採取に集中してもらうために、戦闘用の冒険者を数人付ける。どうだ? 受けてくれるか?」


「……Gランクごときが申し訳ないんですが、その依頼を受けるには条件があります」


「ほう。条件か……。言ってみろ」


「えーっと……」


 Sランクスキルや、使うかわからないが銃のこともあるので、ユキ以外の人との行動は避けたい。とりあえず、条件とか言ってみたものの何も思いつかない……。俺が困っていることを察したのか、ユキが話し始めた。


「ヤマトさんと、あたしの二人だけなら採取出来るです。他の人がいると、Aランクは採取出来ないのです」


「ん? どういうことだ?」


 ギルマスは、怪訝そうな表情をする。ここからユキの誤魔化しは加速した。


 まだ村に居た頃に数人で採取に行ったら、全然Aランクが採取出来ないことがあった。次の日に二人だけで採取に行ったら、Aランクばかり採取出来た。予想だが幸運スキルが無い人が一緒に居ると、幸運スキルの恩恵が少ない、もしくは無くなるのかもしれない。幸運スキルは珍しく、まだ解明されていないことも多いので、これはあくまでも一例で正解かはわからない。それでも経験上、二人だけの方がAランク採取の確率は上がると思う。


(流石ユキ! 二人だけで動けるように、一瞬でこれだけの作り話が出来るとは……。この前の誤魔化しといい、やっぱりユキは誤魔化しスキルSランクを持ってるのだろう……マチガイナイ)


「経験上か……。そう言われると、無理に人は付けない方が良いか……」


「二人だけで行けるなら、もう一つお願いがあります。俺達はサマシ苔を知りません。現物か詳しく書かれた絵が見たいです。わからないものは採取出来ないので」


「そうだな。用意しよう」


(よし! これで検索も使えるし、二人だけで行動出来そうかな?)


「こちらからも条件がある」


「え!? 条件返しですか……」


「まあ聞け。お前達からの条件だけを許可すると、お前達は特別だとみられて、他の冒険者から目をつけられたりすることがあるんだ。冒険者にもバカな奴は居るもんでな。絡まれるのも面倒だろ? そこで、お互い条件を出したなら問題無いってわけだ」


「なるほど。何処にでも面倒な人は居るんですね」


「そこで条件だが、ダンジョンの説明を受けてもらう」


「え? さっきダンジョンの説明をするって言いませんでした?」


「そんなこと言ったか? 最近は物忘れが多くてな。これで、お互い条件を出したから問題無いな」


「……ありがとうございます。ギルマス優しいんですね」


「冒険者を守るのも、ギルマスの仕事だ。それに俺も冒険者だからな。周りにグダグダ言われずに、活動させてやりたいんだよ」


 ギルマスは見た目は怖いが、俺達みたいな新人冒険者のことも、ちゃんと考えてくれる良い人だった。


 その後、報酬の話をしてサマシ苔Aランクの買い取りは、普段の倍の銅貨6枚。30個納品でボーナスの銀貨2枚がでる。ボーナスを併せると日本円で20万円になる。新人冒険者には破格の報酬だ。この金額を見てわかるように、納品やらかし事件はこの倍以上の額だったのだ……。ちゃんと考えて行動しなければ、と改めて反省だ。


 ギルマスの部屋を出て、二階の別の部屋でマリーさんのダンジョン講習を受ける。


 ダンジョン内で魔物を倒すと、魔物は消えてドロップ品が現れる。この魔物はダンジョンが作り出したもので、森などにいる魔物達と姿形は一緒でも別物である。毎回ドロップするわけではなく、ドロップする品も同じ魔物で数種類あるものもいる。


 ダンジョン内の魔物は、基本的に別フロアに移動したりダンジョン外には出ないが、ごく稀に魔物が溢れ出すスタンピードという現象が起こることがある。これはダンジョン内で魔物が増えすぎることや、成長過程でのイレギュラーで起こると考えられているが、定かではない。


 魔物はフロアの移動をしない為、階段はセーフゾーンになる。また、フロアの中にもセーフゾーンが存在する場合もある。


 フロアによってはボス部屋が存在し、一度入るとボスを倒すまで出られないことが殆どなので、注意が必要である。また、ボスは一定期間経過すると復活する。


 ダンジョン内で死亡すると遺体はダンジョンに取り込まれて、ダンジョンの栄養になる。罠なども存在する為、いつも以上に注意が必要である。ダンジョンは、宝箱やドロップ品で冒険者を集めて、魔物や罠で倒して栄養にして成長していく。


 ダンジョン最下層のコアを破壊すると、ゆっくり力を失い魔物や罠、宝箱も徐々に出現しなくなる。コアがあった最下層から時間をかけて、フロアが消えていく。最下層までの階層は、ダンジョンの成長によって様々である。階が進むにつれて、魔物が強くなり罠も凶悪になる傾向がある。


 しっかり管理がされているダンジョン以外は、ダンジョンコアを破壊することが望ましい。


(ドロップ品とか、完全にゲームじゃん! 楽しそうだなあ。……でも、ゲームと違って死んだら終わりだし、浮かれすぎはイカン)


「これが、ダンジョンの説明です。何か質問はありますか?」


「何故、セーフゾーンなんて冒険者に有利な場所があるんですか?」


「冒険者を集める為、と考えられています。あまりにも不条理すぎると、ダンジョンにとっての栄養である人が集まらないから、と言われています」


「ダンジョンコアを、破壊しないこともあるんですか?」


「はい。管理がされているダンジョンは、コアを破壊することを禁止しています。そういうダンジョンは入り口に受付があるので、わかると思います」


「今回のダンジョンは、コアが破壊されているんですよね? 攻略されてから、何日くらい経ったんですか?」


「5日ですね。徐々に力を失ってきているはずですが、まだ数フロアは残っている状態だと思います」


「ドロップ品とか宝箱の中身は、貰っても良いんですよね?」


「もちろんです。これぞ冒険者って感じですよね。でも、ダンジョンが危険なことは間違いないので、十分注意してくださいね!」


「はい。気をつけます!」


 マリーさんのダンジョン講習も終わり、ちょうどサマシ苔の現物が到着した。薬師ギルドの人が、持ってきてくれたようだ。苔というより、茸の傘が無いような形をしている。でも茸ではなく、苔が増えながらこの形になるらしく、分類は苔なんだそうだ。採取方法なども教えてもらい、薬師ギルドの人にAランク品を沢山納品して欲しいとお願いされた。


 再度ギルマスの部屋に行き、ダンジョン講習とサマシ苔の現物を確認したことを伝える。今回の目的地を教えてもらうと、町から北に歩いて半日ほどの距離らしい。薬師ギルドの所有洞窟なので、入り口に詰所があり数人常駐しているとのことだった。薬師ギルドからの依頼なので、その詰所を宿として使っても良いと言われている。ヤマト達が向かうことは、通信魔道具で連絡済みである。


(色々バレたらヤバイし、ダンジョン内で泊まりかな。ちょうど野営出来る魔道具も揃ってるし、食料だけ何とかすれば……。やっぱり、俺が料理担当だよなあ。ユキは戦ってくれるし……)


「わかりました。それでは、準備を整えたら出発します」


「宜しく頼む。無事に帰ってこい」


 ギルドを出て、色々買い出しをする。革袋や野営用の寝具、外套、鍋や食器類、さらに調理器具や調味料、食材や屋台の料理など、今まで全然準備が足りてなかったことが、また浮き彫りになってしまった。言い訳をするなら「遠出なんてする予定なかったし!」という感じだろうか……。


 昼食は、屋台で買い出しをしながら済ませた。どうせなら美味しい料理をバッグにしまいたいので、味見と称して色々食べた。気に入った料理を、沢山バッグに入れておいた。


 あとは宿の夫婦に、遠出することを伝えようと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る