第9話 お宝になりましたあ!

 何とか長い話の合間を縫って、ゴミ運びをすることを伝えた。依頼人は、まだ話し足りない感じだったが、ゴミを片付けるのが目的なのだ。仕方なしといった感じで、家の外に荷車が用意してあることを教えてくれた。ひたすら家からゴミを運び出すと、その荷車に山積みになる量だった。


「それではゴミ捨て場に行って、また荷車を返しに来ますね」


「宜しく頼むよ。帰ったら、また魔道具の素晴らしさを話してあげよう!」


 苦笑いで軽く会釈だけして、ゴミ捨て場に向かう。二人で荷車を引きながら、さっきの長い話の中にあった重要なことをユキに話す。


「長い話だったなあ。仕事前に疲れちゃったよ。でも、面白い話が聞けた」


「あたしも疲れたのです。面白い話なんて、あったです?」


 あの長い話の中には、俺にしかわからないだろうことがあったのだ。あの依頼人が開発中の魔道具で、その名前は『魔石燃料発射筒』と言っていた。名前だけでは意味不明なものだが、内容を聞いてわかったのだ。


 この魔道具は、魔石を筒にセットして指一本で引けるレバーを引くと、魔石に衝撃が加わり、魔石のエネルギーが筒から発射されるという。魔石は数回で壊れるらしく、壊れたら自動で次の魔石がセットされる仕組みもついている。


「これが、面白い話なのです? 全然わからないのです」


「この魔道具は、地球に似たものがあってね。地球では銃って言うんだ」


「じゅう? 便利な魔道具なのです?」


「違うよ。武器なんだ」


「なんとっ!」


 立ち止まり、バッグから二つの魔道具を取り出す。


「ジャーン! 大きさが違うタイプの壊れた魔道具を二つ見つけたから、キープしときましたあ! ちなみに、魔力感知に反応ある?」


「……はいです。二つとも微かにあるです。短剣を見つけた時みたいです。これが錬金で直ったら……」


「そう! 色々な能力付きの武器になるかもと思ってね」


「なるほどです。でも、危なくないです? この壊れかたは……。大怪我しそうなのです……コワイ」


 確かに壊れかたは、なかなか激しい。一つの見た目は地球でいうショットガンのような形だと思う。思うと言ったのは、銃口と思われる辺りから半分が爆発して、捲れた感じになっているからだ。もう一つは小型でハンドガンだと思う。これも同じく銃口が吹き飛んでいた。これではユキが怖がるのも仕方がない。実際に直ったとしても、俺も使うのが怖いと思ってきた……。


 それでも、もし銃のように使えたら、俺も戦えると思ったのだ。今から剣術や槍術などを覚えるより、ずっと良いと考えた。 実際に銃を撃ったことは無いが、ゲームの銃コントローラーなら経験アリだ! 海外なら本物の銃が撃てる施設もあるようだが、何せ俺は貧乏リーマンなのだ……グスン。


 とにもかくにもまずは依頼を終わらせて、もう一つの目的であるゴミ漁りをしなければ始まらない。二人で荷車を引き、ゴミ捨て場を目指して歩く。


「ねえユキ。このゴミ、バッグに入れた方が楽だよね?」


「はいです。でも駄目なのです。空の荷車でゴミ捨て場に行ったら目立つです。ヤマトさん、力一杯引くのです……ガンバ」


「マジかよ……キツイ」


 黙々と二人で荷車を引き、ゴミ捨て場へ向かう。町の東側から西側までの、長い道のりだ。それでも身体能力強化Sランクのお陰で、きついけど何とか荷車を引けている。


 徐々に西側の壁に近づくと、町の壁とは別の壁が見えてきた。どうやら、ゴミ捨て場を囲う壁があるようだ。一ヶ所だけ門があって、守衛が立っていた。ここで出入りを見張っているのだろう。


「止まれ。見ない顔だな」


「依頼を受けた、新人冒険者です」


「そうか。利用カードの提示を」


 カードを提示して、ゴミ捨て場の利用方法を教えてもらった。ゴミにも種類があり、革や布などの燃えやすいものと、武器、鎧などの鉄関係、それ以外の薬品や魔道具の三ヶ所に分けられるらしい。これは溜まったゴミを燃やすことで処理する為で、燃えやすいものだけ集めて低レベルの魔法で、燃えにくいものは、中レベルの魔法で処理する為らしい。魔道具や薬品は特別で、一気に灰にしないと何が起こるかわからないので、高レベル魔法で処理するらしい。ちなみにゴミ捨て場が有料なのは、この魔法で処理する人の報酬に充てる為でもあるようだ。


「教えてくれて、ありがとうございます。では、捨てて来ます」


「ちょっと待て。守衛が一人同行するのが決まりだ。ゴミの分別を見るからな。あくまでも見るだけで、手伝いはしないからな」


(見張りが付くのか……。これじゃゴミ漁り出来ないなあ。仕方ない、ぶっちゃけるか)


「あのー、捨ててあるゴミって、貰っても良いですか?」


「は? ゴミを持って帰るのか? まあ構わないが、それで怪我したりゴミに埋もれても知らんからな」


「はい。これでも一応冒険者なんで、自己責任で大丈夫です」


 守衛の許可も得て、これで堂々とゴミ漁りという名の宝さがしが出来る。まずは魔道具などが集めてある場所へ、ゴミを捨てに行くことにする。ゴミを捨てる場所は大きな穴が開いていて、穴の壁に沿って螺旋のスロープがついていた。荷車を引きながら底を目指して下りていく。中心にあるゴミの山の前まで行き、ユキに話しかけた。


「このゴミは俺が捨てておくから、ユキは何か気になるもの探してきて」


「かしこまりーです」


 俺はゴミを荷車から、どんどん降ろして行き、ユキはゴミの山を駆け巡っていた。何とかゴミを捨て終わると、ちょうどユキが沢山のゴミを持って帰ってきた。守衛が見ているので、バッグには入れずに荷車に乗せることにした。その後、他の二ヶ所のゴミ山も漁って、結局持ってきたゴミと同じだけ荷車に山が出来ていた。


「……お前ら、ゴミ捨てに来たんだよな?」


「……はい」


 守衛に呆れられていたが、これはゴミではなく宝の山なのだ。……そのはずだ。ひとまず人気がないところを探して、幾つかバッグに端材と壊れた装備品を入れてみる。予想通りに、端材でも錬金可能と出た。しかし『量不足』という表示も出たのだ。


「あれ?」


「え!? もしかして、錬金不可だったです?」


「いや、錬金可能なんだけど量不足なんだって。どういうことだろ?」


「ん? 端材の量を増やすとかです?」


「そっか。やってみるわ」


 端材の量を増やすと、量不足が消えて錬金可能となった。色々な装備品で試してみたところ、目算だが直すものに使われている素材の十分の一くらいは端材が必要なようだ。


 今までは草や果物など、同じくらいの大きさの物で錬金していたので、このルールには気が付かなかった。以前に錬金はしなかったが、試しにセットだけしてみたユキの革のリュックと革袋は、大きさは違ったが量が足りていたので量不足の表示がされなかったのだろう。


 流石にSランクといえど、革の鎧を直すのに小さな切れ端1枚とはいかないようだ。ある意味、ぶっ壊れ要素が一つだけ減り、少しホッとしたのは何故だろう……。 それでも、十分凄いスキルなのだが……。


「ユキの言った通りで正解だった。錬金可能だよ。この山はゴミじゃなくて、お宝になりましたあ! でも、ちょっと怖かった。これで駄目だったら、悲しくなるじゃん……」


「はいです……。無意味な時間になるところだったです……ヒエー」


 周りに人が居ないことを確認しつつ、荷車の元ゴミたちをバッグに全て入れていく。荷車が空になり、依頼人の家に荷車を返しに行き、依頼完了のサインをもらう。その時に魔道具の話を、また熱弁されそうになったが、ギルドに急がなくてはならないと言い訳をして、その場を脱出した。


◇◇◇◇◇


 ギルドの受付に、依頼完了のサインとゴミ捨て場の年間使用カードを提出して報酬を貰い、宿に帰ってきた。ここからは、錬金検証の時間だ。


 端材を使って、どういう錬金が可能か調べてみた。鉄の短剣に鉄屑は可能だった。革の切れ端や布は不可だったので、やはり素材が一緒ということが基本のようだ。


 鉄の短剣に、ユキが見つけてきた壊れた鉄の盾をセットすると可能だった。鉄の短剣に採取用のナイフも可能だった。これは、盾もナイフも鉄製なので素材が一緒である。しかし、ナイフは刃物という分類が一緒という可能性もある。モーモとアプルが錬金出来たように、違う素材でも分類が同じなら錬金は可能なはずだ。別の素材の刃物も検証したいところだ。


 そこで、思い出したことがある。ユキが見つけてきたもの以外にも、俺が気になるものも幾つか拾ってきたのだ。その一つが黒くくすんだナイフだった。バッグに入れて鑑定したところ『くすんだ銀のナイフCランク』だったのだ。これで、違う素材の刃物と刃物で確認が出来る。鉄の短剣に、くすんだ銀のナイフは錬金可能だった。くすんだ銀のナイフに、鉄屑は不可だった。


 同じ素材なら、短剣でも盾でも錬金可能である。素材が違っても刃物、果物、と分類が同じなら錬金可能である。ちなみに食べ物と分類出来ないか、パンと干し肉も試したが駄目だった。干し肉はフォレラビの生肉とは可能だったので、肉という分類はあるようだ。


 食べ物以外の分類も探してみて、革と皮も同じ分類のようだ。フォレラビの皮に革の切れ端や革の装備品が錬金可能だったのだ。今回試した革の装備品が、全てフォレラビ素材の可能性がゼロではないのだが……。これからは、色々な分類を考えることも必要かもしれない。


 一応錬金可能の基本的なルールが見えたので、ここからは、ゴミをお宝に変えていく時間だ。

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