第8話 これって……何ですか?

 納品やらかし事件から、数日が経過した。


 あの日以降も、常設依頼の納品や討伐で稼いでいる。次の日からは納品の量を減らし、ランクもB、Cを少し混ぜるようにした。それでも、Aランクは多めにしてある。いきなりAランク無しというのも、怪しまれると思ったからだ。


 この数日間で、お金も貯まってきた。ユキと相談して、二人の装備品を買うことにした。俺は前衛で戦う予定は無いが、ユキが対処出来ないことが起きた時や、バラバラの行動をすることになった時など、装備品も必要だろうということだ。 


 今日はギルドに行くのを止めて、装備品を扱う店を探す。以前マリーさんから聞いた店も含めて何軒か回って、装備して使い易そうなものを何点か試してみた。その内の一軒で、中古品や破損品を取り扱っている店を見つけた。そもそも、破損品なんて買う人はいるのだろうか?


「ユキ、この中から選ぼうよ」


「はいです。ヤマトさんの考えは、お見通しなのです……ニヤリ」


 ユキも気づいたようだが、破損品を安く買って、同じ分類の安い素材で錬金しようと思う。しかし、一つだけ疑問があった。中古品や破損品にランクはあるのだろうか。


 例えば、破損品Aランクとは? 壊れているが品質は良い? 錬金しても結局は修理が必要? ユキに聞いてみた。


「なるほどです。うーん……。やっぱりヤマトさんのスキルは、試してみないとわからないのです。どれか一つだけ買って、試してみるです?」


「そうだね。そうしようか」


 破損品の中から、探してみることにした。するとユキが、1本の短剣を手に取った。先の部分が折れて、全体的に刃が曲がっている。こんなものでも、買う人はいるのだろうか。短剣をカウンターに持って行き、店主と少し話してみた。


 中古品とは、冒険者が買い換えやダンジョンなどで新しく手に入れたりして、予備にも使わなくなったものを売りにくるものだそうだ。品物自体は悪くないので、そこそこ需要があるようだ。やっぱり異世界だけあって、ダンジョンもあるんだなと、少しワクワクした。


 値段は新品を揃えるよりは安く済むのだが、誰かが使っていたものなので、当たり外れがあるらしい。きちんと目利き出来ないと、すぐに壊れてしまう可能性もあり、結果的に修理や買い換えで高くついたなんて人も、中にはいるようだ。


 破損品とは、冒険者が壊してしまったもので、新しく買う時に下取りしてあげて、少しでも冒険者に贔屓にしてもらおうと始めたサービスらしい。試しに店に並べたら、売れたそうだ。


 破損品を買う人は、装備品が壊れたり失ったりしてしまったが、修理や買い換えるお金が無い人が多いようだ。買った破損品を、自分なりに修理して使っているらしい。しかし、こういう客は二回目は来ないのが殆どだという。そういう奴は冒険者に向いていないから、辞めたんだろうとのことだった。


 破損品を扱っている意味もわかり、何だかスッキリした。ユキが選んだ破損品の短剣を買い、バッグにしまう。店を出て近くの広場に移動してから、錬金検証タイムだ。


 錬金画面を確認すると、壊れた短剣Eランクと出た。今持っているアイテムで、錬金可能なものを探してみると、採取用に買ったナイフが可能と出た。素材が同じなのだろうか? 分類的に刃物だからだろうか? 採取用のナイフなら高くないので、錬金してみることにした。出来上がったのは、鉄の短剣Aランクだった。しかも、重量軽減(小)の能力が付与されていた。バッグから短剣を出して持ってみる。


「さっきより軽い!? てか、直るんだ……。これは普通に装備品を買うより、かなり節約出来るよな。ユキ持ってみて」


「出来たです? ん? 綺麗に直ってるです。しかも、さっきより軽いです?」


「うん。何か重量軽減能力が付いた」


「やっぱり、あたしの目利きは正しかったのです……キラリ」


「何となく選んで、たまたま当たりだったんでしょ?」


「違うです。あたしの魔力感知に、微かに反応があったのです」


 ユキは適当に選んだわけでは、なかったようだ。バッグに入れて鑑定した時に、能力は無かった。付与能力も壊れていたということだろう。錬金で直ることで、元々あった能力も戻ったということだろうか。


 それなら、ユキに気になるものを選んでもらった方が、何かしらの能力付きのものが買えるかもしれない。ユキに頼むのが良さそうだ。


 あとは、錬金用に素材を少し手に入れたい。もし、革の装備を買ったら、安く買える革袋などを錬金するのが良いだろう。他に何かあるだろうか?


「装備品は、あの店でユキに選んでもらうわ」


「かしこまりーです」


「あと、錬金用に素材が欲しいんだけど、ナイフとか革袋とか買いに行こう。他に何か素材になる安いものあるかな?」


「ヤマトさん、提案があるです。その素材は、端材でも使えるか実験したいのです」


「端材? 布とか革の切れ端とかのことだよね?」


「はいです」


 確かに端材でも錬金が可能なら、いちいち製品を買うより断然安く済む。採取品を納品してそれなりに稼いだが、やっぱり節約は大事だ。端材は是非とも試してみたい。


「うん。実験する価値アリだね。それで端材は、何処で買えるの?」


「買わないです。拾うです」


「ん? どういうこと?」


「端材は商品じゃないのです。工房などで溜まったら、ゴミ捨て場に集められるです。そこから頂くです」


「ほう。ゴミ漁りをしろと……マジカ」


「昨日ギルドに、お手頃な依頼があったです」


 ユキは昨日、ギルドの掲示板にゴミ運びの依頼があったと教えてくれた。その依頼でゴミをゴミ捨て場に運び、そこから端材を手に入れようというのが提案だった。これなら、依頼も受けられて一石二鳥だ。これで端材でも錬金が出来れば、かなりの節約になる。そろそろ昼なので、食事を済ませてからギルドに行くことにした。


 今日は宿の食堂ではなく、目についた屋台で昼食を食べた。初めて食べた屋台の料理も、美味しい食事だった。この時、町にきてから決まった場所ばかり行動していたと気がついた。今度、色々見て歩くのも良いかもしれない。近い内に、この屋台を含め色々な料理を保存食としてバッグに入れておこうと思う。それを入れる皿や鍋なども、多めに揃えなければと思った。


 また出費が増えてしまうが、いつでも出来立ての保存食というのは魅力的なのだ。やっぱり、自炊も考えた方が良いのだろうか……。


◇◇◇◇◇


 ギルドに到着し、掲示板を確認する。一件ゴミ運搬の依頼があった。その紙を剥がして受付に行く。今日はマリーさんは居ないようなので、猫獣人の女性に受付をしてもらう。


 依頼人の家とゴミ捨て場の場所を、教えてもらった。それと注意事項があり、ゴミ捨て場の使用は有料とのことで、ゴミ捨て場に入るのにお金がかかる。今回はギルドが持っている、年間使用カードを持って行くことになる。大きな工房などは、町にお金を納めて自前の年間使用カードを持っているが、今回の依頼人は個人で製作をしている人のようだ。こういう人は、ギルドに報酬の他に幾らかの使用料を払って依頼をするそうだ。


 この年間使用カードを失くすと、めちゃくちゃ高いからと受付の人に念を押された。金額までは聞かなかったが、節約生活をしているGランク冒険者には、到底払えない金額なのだろう……。


 ちなみに、今回の報酬は銅貨5枚だ。駆け出しの冒険者にとっては、美味しい報酬なのかもしれない。他の冒険者との交流は無い(Sランクがバレないように避けている)ので、よくわからないのだ。普通なら常設依頼の採取も探すのが大変だろうし、魔物討伐も苦労するのだろう。しかし、マップ検索のお陰で採取は楽チンだし、魔物はユキが強いから問題ないし……。何か申し訳ない……。


◇◇◇◇◇


 受付を済ませて、依頼人の家へ向かう。町の東側の壁に近い場所だった。ゴミ捨て場は町の西側の壁に近い場所なので、町の端から端へゴミを運ぶことになる。


 教えられた場所に到着したが、壁に近い場所は少し寂れた印象だった。どの家も、お世辞にも立派とは言えない。しかし、スラムのような無法地帯な感じや、廃墟っぽさはなく、それほど悪い場所ではないと感じた。依頼人の家のドアをノックして話しかける。


「こんにちは。ギルドの依頼を受けて来ました」


「はーい。開いてるので、どうぞー」


 中から声がしたので、ドアを開ける。入り口から色々な道具で埋め尽くされていて、入るのに少し苦労したが、何とか依頼人のところにたどり着いた。依頼人は眼鏡にボサボサ頭の獣人族の男性だった。この世界にも眼鏡は存在するようだ。


 どの種族の獣人かがわからなくて、後でユキに聞いたら鼠獣人族だった。まだ獣人族の種族が、あまり判別出来ない。地球で例えると、見てアジア人とわかったとしても国まではわからない、そんな状態だ。


「物が多くてすまない。今回の依頼は、この辺の物をゴミ捨て場に運んで欲しいんだ」


 そう言って指差した先には、山積みにされた何かだった。


「……はい。ちなみに、これって……何ですか?」


 鉄屑や革の切れ端を想像していたが、全く違う物だったので素直に聞いてみた。今回の依頼人は魔道具製作をしているらしく、ゴミは壊れた魔道具が殆どだった。素材としても再利用が出来なくなったものが、山積みになっているそうだ。いつもなら、もう少し早く依頼しているのだが、今回作っているものに集中し過ぎてしまったらしく、ゴミの山が出来てしまったとのことだ。


 どんなものを製作中か聞いてみた。話が嫌いじゃないタイプの職人さんだったらしく、想像以上によく喋る。なかなか長い話の中に、面白い話があった。


(これ上手くいったら、凄いもの出来ちゃうじゃん! でも、危ないかな? てか、話長いなあ……)

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