第7話 そういうキャラだったわ……

 そろそろ帰ろうかとユキと話していたら、ユキが魔物の気配を察知した。


「ヤマトさん。近くに魔物です。でも、これは弱い奴なのです」


「弱いの? マップに名前が出て無いから、俺が知らない魔物だね。弱いなら見に行っても平気?」


「はいです」


 魔物に近づいてみる。どうやら兎の魔物のようだ。しかし地球サイズの倍はある。


「あれは、フォレストラビットです。名前が長いので、通称フォレラビなのです」


「フォレストラビットね。検索に登録しとこう。あれは常設依頼の魔物じゃないから倒しても、お金にならないな。でも異世界知識的には、美味しい肉だったり、皮が売れたりするんだが……。ユキ、その辺りどうなの?」


「それは、あるあるです? フォレラビの肉は美味しいし、皮も肉も売れるのです」


 売れるなら、何匹か狩ろうということになった。早速、目の前の1匹をユキが素早い動きで仕留めた。


「ここで解体するです? ギルドに頼むと有料でやってくれるです。中型くらいまでなら、あたしが解体出来るのです」


「じゃあ、ユキに頼もうかな。ちょっと、怖いもの見たさもあるし」


「かしこまりーです」


 ユキは近くの木の下に行き、枝にフォレラビをロープで吊るし血抜きを始める。魔法を唱えて地面に穴を掘り、そこに血が溜まるようにし、手際よく肉と皮と魔石に分けて、いらない内臓部分を穴に捨てる。また魔法を唱えると水が出てきて、フォレラビと手の血を洗い流し、最後に魔法で穴を塞いで解体は終了した。


 初めての解体は、適応力のお陰で見ていることが出来た。ゴブリンの耳や魔石を取るのとは違い、肉と皮を傷つけないことが大事で技術が必要だと思う。これからも、ユキに頼むことにしよう。それよりも、気になることがあったのだ。


「ユキ、さっきの魔法だよね? 初めて見たんだけど!」


「はいです。生活魔法のホールとウォーターです」


「魔法がある世界なんだよなあ。やっぱり見たら、実感湧いたわあ」


 魔法に感動していたが、あまりゆっくりしていると日が暮れてしまう。あと2匹狩って、1匹はギルドに買い取りに出して値段を調べることにした。もう1匹は宿の夫婦にお土産にしようとユキに話したら、了承してくれた。


 今解体した1匹はバッグが時間停止なので、いざという時の食料としてしまっておくことにした。


「ヤマトさん。錬金袋のバッグは、入り口より大きいものは入らないのです。なのでフォレラビを、更に解体するのです」


「そうなの!? このままは、入んないのかあ。……えいっ!」


 フォレラビは、バッグに吸い込まれた。


「あれ? 入ったよ」


「なんとっ! どうして……あっ! たぶんSランクだからなのです……スゴイ」


「そっかあ。これもSランクの力かあ。また秘密が増えた……マジカ」


 バッグの入り口より大きいものが入るのは、高価なマジックバッグだと可能なので、Gランク冒険者が持っているのは目立つのだ。結果としてフォレラビを細かくする作業はなくなったが、他の人にバレたくないものが増えたのだった。


 気を取り直してマップでフォレラビの場所を確認したら、割りと近くに2匹いるのがわかった。その場所に向かって、ユキに狩ってもらう。先ほどは素早く倒したが、今回は普通に歩いて近づいていく。しかしフォレラビはユキに気がつかないのか、逃げようとしない。真横にユキがいても逃げない。ユキは静かに2匹を仕留めた。


「ユキ、今の何!? 何でフォレラビ逃げないの?」


「今のは隠密のスキルです。フォレラビには、あたしの存在が見えていないのです」


「凄いスキルだなあ。ガチ暗殺者じゃん」


「暗殺者!? それならターゲットに近づく為に、色仕掛けも必要なのです。セクシーユキにならねばなのです……ウフン」


「ソウデスネ」


「めっちゃ棒読みなのです……ガーン」


 今仕留めた2匹のうち1匹を解体してもらい、もう1匹はバッグにしまおうとしたらユキに「肉まで売るなら血抜きだけはするのです」と言われたので2匹とも任せた。その間俺は暇なので、近くの採取品を回収していた。バッグに錬金前のヤック草、チュワ草、アワセ茸を入れていく。これらは今回の納品には使わずに、バッグに入れておくことにした。


 ユキの作業が終了したので、大きな革袋に血抜きした解体前のフォレラビを1匹入れる。もう一つ大きな革袋に、解体済みを1匹入れた。普通の革袋を三つ用意し、納品するAランクの採取品を、それぞれにまとめて入れた。


 これらをギルドでバッグから直接出すと、高価なマジックバッグだと思われてしまうので、革袋に入れた状態で持ち込むのだ。結構な荷物なので、周りの人に見られない辺りまではバッグに入れていくことにする。


「これで準備完了だね。今度こそ帰ろうか」


「はいです」


 予定外のフォレラビ狩りと解体で、少し遅くなった。それでも、夕方前には町に戻れるだろう。ある程度町に近づいたところで、バッグから革袋を出して持ち歩く。


 無事に門に到着し、守衛にギルドカードを提示して町に入り、冒険者ギルドへ納品に向かう。ギルドに入ると、受付にマリーさんがいたので声をかけた。


「マリーさん。戻りました」


「ヤマトさん、ユキさん、お帰りなさい」


 マリーさんに常設依頼の納品と討伐、フォレラビの買い取りが出来るかを聞いてみた。すると、納品や買い取りは別の受付だと教えてもらった。買い取り受付へ行くと、カウンターに人族の男性がいたので声をかける。


「すいません。常設依頼の納品と討伐、あと買い取りを、お願いします」


「はいよ。見ない顔だな」


「はい。初めての納品です。昨日ギルドに入ったばかりで」


 お互いに自己紹介をした。男性はバルディさんという買い取り担当の職員だった。有料の解体もバルディさんがするらしく、かなりムキムキの男性だ。採取品と討伐証明部位、それとフォレラビをカウンターに出す。


「この量の採取が出来るとは、新人では凄いことだぞ。フォレラビの血抜きもしっかりしてあるし、肉も買い取り可能だな。討伐もしたとは、二人とも頑張ったようだな」


 ユキがフォレラビを血抜きしたのは、正解だったようだ。採取品はランクを調べる魔道具があって、量があるので少し時間がかかると言われた。


 ギルド内の休憩スペースで、買い取り査定を待つことにした。暫くすると、バルディさんがギルドの二階に走って行くのが見えた。何やら忙しいようだ。そのまま待っていると、マリーさんに声をかけられた。


「ヤマトさん、ユキさん、買い取り査定が終わりました。一緒に来てもらえますか?」


「あれ? バルディさんのところで、貰えるんじゃないんですか?」


「普段は、そうですが……。今回は別の場所で、お願いします……」


「ん? ……わかりました」


(さっきバルディさんが走って行ったのは、何か問題があったから? 錬金袋のマジックバッグも使ってないし、そもそもバレないように革袋に入れてきたし、Sランク品は作ってないし……ミスしてないよな。じゃあバルディさんが忙しいだけか? でもマリーさんの様子が変だよな……)


 マリーさんの様子から、何か問題があったようだが全く思いつかない。とりあえずついて行くと、二階の部屋の前に止まりノックをしてドアを開けた。


「ヤマトさん、ユキさん、どうぞ。ギルドマスターがお待ちです」


「「え!? ギルドマスター!?」」


 部屋の中に入ると、人族の男性が椅子に座っていた。その隣には、バルディさんが立っている。男性に話しかけられた。


「ヤマトと、ユキだな。俺はイベリス冒険者ギルドのギルマス、ゴルディだ。弟から報告があって、二人に来てもらった」


 ギルドマスター、通称ギルマスのゴルディさんと、買い取り担当バルディさんは兄弟だったようだ。確かに二人は似ている気がする。ギルマスは、バルディさんほどムキムキではないのだが威圧感が半端なく、かなり怖い……。ギルマスが話を続ける。


「二人とも、昨日ギルドに所属した新人だそうだな。今日は常設依頼の納品をしたそうだが、新人にしては量が多く、しかも全部Aランクだというじゃないか」


「「……あ!」」


 何のミスもないのに何故ギルマスに呼ばれたのかと不思議だったが、やらかしていた。ユキも気づいたようだ。確かに全部Aランクとか目立ち過ぎる。今は稼がなければと思い、そこまで頭が回らなかった。ここは上手く誤魔化して、特殊なスキルのことがバレるのだけは避けなくてはならない。


「二人がギルドに登録したスキルも確認したが、特に採取に向いているスキルではないし、何故この量とAランクのものを揃えられたのか説明して欲しい」


(くそっ。稼ぐことばかり考え過ぎた。冷静に考えたら、目立ち過ぎだろ。どう説明すれば……。俺のスキルのお陰です! なんて絶対言えないし……)


「それは、ヤマトさんのスキルのお陰なのです!」


(は!? ユキ何言っちゃってんの!?)


 ユキの爆弾発言に、俺は声も出ない。ギルマスが続ける。


「ヤマトのスキル? マップと錬金袋で何か出来るのか?」


(終わった……。ユキめ! 俺があまりにも弄るから仕返しか! てか、こんなことしたらユキだって、ただじゃ済まないだろ!)


「違うです。女神の加護なのです。ヤマトさんは幸運Aランクなので、上手く採取が出来てラッキーだったのです。ちなみに、あたしも幸運Cランクなのです」


「……なるほどな。確かにヤマトは幸運Aランク。ユキもCランクか……。ヤマト、ユキ、呼び出してすまなかった。幸運スキル自体が珍しいスキルだから、考えに無かった。こちらの確認不足だったようだ。これからも依頼を頑張ってくれると、ギルドも助かる」


「は、はい。頑張ります」


 ユキの機転が利いた対応で、ギルマスも納得してくれた。その後、買い取りカウンターに戻り、バルディさんから報酬を受け取る。


ヤック草Aランク33本 銅貨99枚

チュワ草Aランク27本 銅貨162枚

アワセ茸Aランク23本 銅貨184枚

ゴブリンの討伐5体 鉄貨40枚

スライムの討伐7体 鉄貨21枚

フォレストラビット1匹 銅貨2枚、鉄貨5枚


 合計で銀貨40枚、銅貨47枚、鉄貨66枚だった。報酬の支払いは、一種類の硬貨で100枚までとルールがあると教えてもらった。今回の買い取りは日本円の価値で約45万円……やり過ぎたことは明白だった。明日からは気を付けようと思う反面、幸運スキルのお陰という言い訳が出来たので、気にしないのもアリかもと思う。


 何とか初めての納品も終わり、ギルドを出て宿に向かう。外は、徐々に暗くなってくる時間だ。


「ギルマスめっちゃ怖かったなあ。威圧感が凄かった……。ユキ、さっきはありがとう。助かったよ」


「はいです。誤魔化すのは得意なのです……ニヤリ」


「そういえば、そういうキャラだったわ……」


 珍しく褒められたユキは、しっぽを全開で振っていた。宿に帰るとオリガさんが、迎えてくれた。


「二人とも、お帰り。無事みたいね」


「はい。無事帰りました」


「おう、お前ら帰ったか」


「はい。干し肉とパンありがとうございました。美味しかったです。レナードさん、これお土産です」


「ん? フォレラビか。仕留めたのか? 血抜きも解体も綺麗に出来てるな。良い状態だ。お前が、やったのか?」


「いえ、仕留めたのも、解体したのもユキです」


「そうか。嬢ちゃん、たいしたもんだ。ありがたく頂くぞ」


「可愛いなんて照れるですう……エヘヘ」


「気にしないで下さい。褒められると、こうなるんです」


「お、おう」


「あははっ、やっぱりあんた達、面白いね」


 色々あって疲れる一日だった。この後の夕食に、レナードさんはフォレラビを使った料理を作ってくれた。とても美味しくて、疲れも吹き飛んだのだ。

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