第6話 ゲームのような可愛らしさは、ないんだなあ

 窓から朝日が差し込み、清々しい一日の始まりだ。


「うーん。よし!」


 目が覚めて一つ伸びをして、気合いを入れてから起きる。今日からは、この世界で生きていく為にも、仕事をしなくてはならない。気合いを入れて起きたはいいが、もう一つのベッドでは、だらしない姿の相棒がまだ寝ていた。


「うー、フェリシア様ごめんなさいですう。反省してるですう……すう、すう、すぴー」


 何とも気が抜ける……。夢の中でも説教されているようだ。


「ユキ。朝だよ。今日から仕事だよ」


「すぴー、すぴー、ですう……」


「……えいっ!」


「いたっ! な、何奴です! あっ、ヤマトさん。おはようです」


 全然起きないユキのおでこに、チョップをくらわせてやった。これから毎日、俺が起こすことになるのだろうか……。とりあえず身支度を済ませて、一階へ朝食を食べに向かう。


「二人とも、おはよう。眠れたかい?」


「おはようございます。ぐっすりでした」


「おはようです。まだ眠いのです……」


 朝から元気な女将のオリガさんに挨拶をして、朝食を食べる。今日から冒険者ギルドで採取系の依頼を受けて外出をする予定だと伝えると、帰りが遅くなっても良いし、帰って来なくてもお代の分は部屋を取っておくからと言われた。冒険者は急に何日も帰って来なかったり、そのままフラッといなくなることもあったりで、慣れているとのことだ。あと、遅く帰って来たら食事は準備出来ないからとも言われた。自由な冒険者相手の仕事だからか、お代さえ払っていれば部屋の確保は対応してくれるようだ。


 食事が終わり、部屋に戻って出かける準備を終わらせる。冒険者ギルドへ向かおうと宿を出ようとしたら、オリガさんに声をかけられた。


「これ持って行きな。サービスだよ」


 そう言って渡された物は、パンと干し肉だった。その時に初めて、宿の主人にも話しかけられた。普段は厨房にいるので、まだ話したことはなかった。


「お前ら、新人冒険者なんだろ? 干し肉を多めに入れてあるからな。干し肉は割りと日が持つから、冒険者には必須だぞ。準備出来てたか?」


「あっ、食料とか全然考えてなかった……。教えてくれて、ありがとうございます」


「これから、色々と覚えれば良い。無理しないで、無事戻ってこい」


「ありがとうございます」


「ありがとうです」


「うちの旦那のレナードよ。元冒険者だったの。でも料理の方が向いてて、すぐに辞めたんだけどね。だから、あんたらみたいな新人冒険者をほっとけないの。そうでしょ? レナード」


 レナードさんは何も言わず、軽く笑顔になって振り返り、手を振りながら厨房に戻って行った。


 二人とも、本当に良い人達で良かった。冒険者なんて異世界もの知識で準備万端だ、なんて思っていたが、実際に動くとなると忘れていることだらけだった。知識は過信せずに、やっていこうと気合いを入れ直したのだった。


◇◇◇◇◇


 冒険者ギルドに到着し、まずは依頼の確認をする。掲示板でGランクの採取系を探す。


Gランク 常設

ヤック草の納品 1本

採取品のランクにより鉄貨1枚~銅貨3枚


Gランク 常設

チュワ草の納品 1本

採取品のランクにより鉄貨2枚~銅貨6枚


 昨日ユキが言った通りに、採取品のランクで買い取り価格が変わるようだ。今の冒険者ランクで受けられる依頼はFランクまでなので、こちらの常設依頼の採取系と討伐系も確認しておく。


Fランク 常設

アワセだけの納品 1本

採取品のランクにより鉄貨5枚~銅貨8枚


Fランク 常設

ゴブリン討伐 討伐証明 右耳

1体 鉄貨8枚


Gランク 常設

スライム討伐 討伐証明 コア

1体 鉄貨3枚


 受けることが出来る採取系と討伐系の常設依頼は、以上だった。もし魔物に遭遇しても、ユキがいるので大丈夫だろう。常設依頼の魔物なら、稼ぎにもなるのでチェックしておいた。


 常設依頼の確認が終わり、昨日マリーさんに言われた初心者講習を受ける為に受付へ向かった。数ヶ所受付があるが、今日もマリーさんが居たので、宿の情報のお礼も兼ねて声をかける。


「マリーさん、おはようございます。昨日は宿を教えてくれて、ありがとうございました」


「あら、ヤマトさん、ユキさん、おはようございます。宿は気に入ってもらえましたか?」


「凄く良い宿なのです! 特に名前が良いのです!」


 急にテンションの上がったユキは、しっぽブンブン状態だ。俺に当ててくるがスルーして、初心者講習をお願いした。するとマリーさんは、冊子を取り出して説明してくれた。


 そこには常設依頼での採取品や、討伐対象の簡単な絵が書かれていた。採取の仕方や討伐した魔物の魔石の場所、討伐証明部位など、初心者にはありがたい情報だった。


「この冊子は差し上げますので、参考にして下さい。わからないことがあったら、いつでも声をかけて下さいね。初心者講習は以上です」


「はい。ありがとうございます。では、いってきます」


「お気をつけて。無事のお帰りを」


 こうして、冒険者としての最初の仕事に向かうのだった。


◇◇◇◇◇


 門に向かうと守衛がいて、カードの提示を求められた。出る時もカードは必要らしい。早速、作ったばかりのカードを提示する。


「確認した。昨日カードを作りに来た二人だよな? 冒険者になったんだな」


 そう言われて守衛の顔を見ると、昨日町に入る時に応対してくれた守衛さんだった。


「はい。俺達のこと覚えててくれたんですね」


「初めてカードを作りに来る者は、そう多くないからな。昨日見ていたからわかると思うが、冒険者には危険がつきものだからな。気を付けろよ」


「ありがとうございます。気を付けます」


 町を出て歩き出したが、目的地を決めていなかった。


「ユキ。何処に行けばヤック草とかあるのかな?」


「やっぱり、森だと思うです」


「生えてる場所がわかれば楽なのになあ。……もしかしたら」


 ユキを探していた時を思い出した。マップの検索である。早速、採取品の名前を検索する。


「出たあー!」


「うわっ! 急にビックリするです」


「ごめんごめん」


 ユキに検索を説明したら驚いていた。マップには、ヤック草、チュワ草、アワセ茸、の名前が複数表示されていた。ユキの予想通りに、森の中に印が幾つも表示されている。


「やっぱり、森の中みたいだわ。東の森に向かおう」


 森に向かって歩きながら、ユキとマップの検索を検証してみる。検索した採取品など今日初めて知った名前だし、見たこともない。この世界にある物ならば、何でも検索可能なのだろうか? 


 試しに、俺が知らない見たこともない物の名前を、ユキに聞いて検索してみる。表示されなかった。マップ内に無い物だから、表示されなかったのだろうか? でもユキを検索した時は、マップ外でもマークは表示された。ちなみにユキが教えてくれた物は何処にでもある物で、すぐ足下にもあるとユキに言われて、それを目視した瞬間マップに沢山の印が表示されたのだ。


 ユキが教えてくれたのは、ペンぺぐさという雑草だった。ここまで検証して出した答えは、名前と現物(絵でも良い)が一致した時に、検索が可能になるのではないか。もしかしたら、まだ条件があるかもしれないが、今回の検証は以上にする。


「とりあえず、こんなところかなあ。一応の検索のルールもわかったし、もうすぐ森に着くし」


「また、わからないことがあったら検証するです」


 森に到着し、ヤック草、チュワ草、アワセ茸を集めていく。そして果物の錬金でわかったことで、同じ分類の物は錬金出来る。なので、ペンぺ草と名前も知らない茸も集めていく。


 マップを見ながら魔物に注意しつつ、なかなかの量を採取出来た。一旦休憩することにして、座って水を飲む。その間に検索を調べてみると履歴機能があり、個別にオンオフが出来ることもわかった。マップの表示が邪魔な場合は、オフにするのが良いだろう。


 今度は、常設依頼で見た魔物の名前を検索してみる。魔物の黄色い印に、名前が表示された。表示されない印もあり、俺が知らない魔物なのだと思う。


「割りと近くにスライムがいるみたいだから、ユキ倒してくれる?」


「はいです。いってきますです」


「待って! 倒すところみたい。てか、魔物を見てみたい」


「あっ、そうだったです。前に約束したです」


 近くのスライムに向かって歩いていく。この世界に来て、初めての魔物だ。見た感じは、水の塊が動いているようだった。


「これが魔物。ゲームのような可愛らしさは、ないんだなあ。地球では、あり得ない光景だよ」


「倒して良いです?」


「はい宜しく」


 ユキがスライムに近づくと、スライムは体を伸ばしてユキに攻撃しようとする。しかしユキは、それを難なく躱すと一撃で仕留めた。スライムは、水溜まりのようになり消えていった。そこには初心者講習の冊子で覚えた、魔石とコアが落ちていた。魔石とコアを回収し、もう少し討伐報酬も欲しいので、ユキに魔物がいる方向を指示する。もちろんユキも、魔物の気配がわかるので指示は不要なのだが、マップ機能の検証も含めてやっている。


 その間、俺は近くにある採取品を回収していく。回収をしていたら、ゴブリンが近づいて来ているのがマップでわかった。人型の魔物は初めてなので、少し緊張する。しかし、ゴブリンもユキの敵ではなく、簡単に倒していた。


 ここで俺は、ゴブリンの討伐証明の右耳と魔石の回収に挑戦してみることにした。人型の魔物にナイフを入れるのは抵抗があると思ったが、女神フェリシア様が魂に付与してくれた適応力のお陰か、あまり気分は悪くならなかった。これなら冒険者として、やっていける気がする。ただ、俺自身は攻撃力が皆無なので、ユキがいることが大前提なのだが。


 もう数体ゴブリンも倒して、今日の採取は終了することにした。森の外れ辺りまで戻り昼食にする。宿のレナードさんとオリガさんが持たせてくれた、パンと干し肉を食べた。パンは渡してもらった時と同じ温かさで、錬金袋Sランクの時間停止機能が活躍している。


「やっぱり料理とか入れておいたら、外でも出来立てが食べられるよなあ。買って入れておくか、作って入れておくか……。ねえ、ユキって料理出来る?」


「もちろん、出来ないのです! ……エヘン」


「ですよねえ。そんな気がしたよ……。俺も簡単なものしか出来ないしなあ。やっぱり買うかあ。でも、節約もしなきゃだし……」


 料理のことは一旦保留にしよう。昼食を終えて、ここからは錬金の検証だ。


「周りに魔物も人も居ないみたいだし、錬金しますかねえ」


「はいです。周りは、あたしが注意しておくので、ヤマトさんは錬金に集中するです」


 まずはヤック草に、同じ分類であろうペンぺ草を併せてみる。予想通りに、ヤック草Aランクが出来た。チュワ草も同じ結果だった。錬金用に集めた名前も知らない茸は鑑定され、ドークだけという毒茸だとわかった。それでもアワセ茸と錬金してみると、問題なくアワセ茸Aランクが作れた。


 納品する為の採取品を、全てAランクにした。錬金用のペンぺ草とドーク茸がバッグの中に残っているが、容量は無限なので入れておくことにした。


 魔石にはランクが存在せず、スライムの魔石、ゴブリンの魔石と名前が表示されていた。


 今回作ったAランク品は、ヤック草が33本、チュワ草が27本、アワセ茸が23本だった。検索のお陰で、沢山採取することが出来た。


 無事に錬金を終えたので、そろそろ帰り支度をしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る