第3話 あっ、やっぱりユキなんだ……

 やっとのことで、俺のスキルの設定が終わった。ユキのステータスとスキルも設定した。


ユキ 15歳 狐獣人族

スキル

獣変化けものへんげ

斥候職 Aランク

女神の加護

 ・幸運 Cランク

 ・短剣術 Bランク

 ・生活魔法 Bランク


「フェリシア様。ユキのスキルも説明してもらえますか?」


『もちろんです』


 まず、ユキは狐獣人族という獣人族の中の一つの種族である。獣人族には、猫獣人族、犬獣人族、兎獣人族など他にも沢山の種族がいる。フルールでは人族の次に人数が多いのが獣人族で、色々な獣人に会うことだろう。


 そして獣人は必ず『獣変化けものへんげ』のスキルを持って生まれる。獣変化とは、その種族の動物に変化できるスキルで、元々身体能力が高い獣人が、更に強くなるという強力なスキルだ。ランクは存在しないとのことだ。


 斥候職のスキルは複合スキルで、気配察知、隠密、罠知識、解錠、などの冒険者向きのスキルである。他のスキルとランクについても、バランスを取って設定した。


『という感じですが、これはあくまでも身分証明の為の設定で、ユキは他にも色々なことが出来ますので、その都度聞いてみて下さい』


「わかりました。じゃあこれで、全部の準備が完了ですか?」


『そうですね……あっ。あとは、転生後のことですね』


 まず、転生後はステータスと唱えるとパネルが出てくるので、ランクなどがおかしくなっていないか確認をすること。パネルは、この星の者は誰でも出せるが本人にしか見えない。錬金袋などのスキルの操作も、パネルを使うことで出来る。


『ステータスに問題がなければ、あとのことはユキに聞いて下さい』


「はい。わかりました」


『ユキ。ヤマトさんのこと、しっかりサポートを頼みますよ。そして色々な経験をして、今後の修行に活かして下さい。遊びではありませんからね!』


「は、はいです!」


『ヤマトさん。改めまして、この度はユキが申し訳ありませんでした。その後も色々と、すみませんでした』


「いえいえ。新たな人生を、楽しんでみますよ。フェリシア様、ありがとうございました」


『そう言って頂けると救われます。ありがとう。それでは、転生を始めますね。ヤマトさんお元気で』


 フェリシア様は、呪文のようなものを唱え始めた。俺は徐々に意識が薄れていった……。


◇◇◇◇◇


 だんだんと意識が、はっきりしてきた。どうやら、仰向けに寝ているようだ。ゆっくり目を開ける。綺麗な青空と太陽が、とても眩しく感じる。


「よいしょっと」


 上半身を起こして、周りを見渡してみる。どうやら、草原にいるようだ。ゆっくり立ち上がり、両腕を上に伸ばし一つ息を吐く。


「うーん、ふう。本当に転生したのかあ。ネット小説の転生ものを、まさか自分で経験するとはなあ。……あっ、そうだ。ステータス」


 フェリシア様に言われていたことを思い出して、ステータスと唱えてみた。目の前には半透明のパネルが現れた。


「おお、これがステータスパネルか。とりあえず、偽装が問題ないか確認しなきゃな」


 ステータスは、偽装で作ったものになっていた。間違ってもSランクだということは、知られてはならないのだ。


 スキルも確認してみる。まずはマップだ。パネルに周辺の地図が表示された。


「完全にゲーム画面じゃん。俺的には使いやすさ抜群かも」


 マップを見ながら性能の確認をする。真ん中の光る印が自分だろう。あとは青色と黄色の印が複数ある。少し離れた場所に、青色が固まっている。多分これは、町か村かだと思われる。


「なるほど。青色は人だろう。てことは黄色は魔物だな。とりあえず近くには、人も魔物もいない。……あっ、ユキもいない!?」


 周りに人はいない。ユキもいなかったことに、今更気がついた。


「マジかあ……。ユキがいないと、これから何処に行けば……」


 マップを見ながら考える。青色の印が固まっている、町か村であろう場所を目指そうかと考える。しかし今は周りに人も魔物もいない。闇雲に移動する前に、錬金袋のスキルも確認することにした。パネルの錬金袋をタップすると、バッグがたすき掛けの状態で現れた。


「うわっ、いきなりバッグが出てくんのか。ビビったわ。てか、袋っていう名前なのにバッグが出んのかい!」


 残念ながらバッグの中身は空だった。パネルでも中身の確認が出来るようだ。同じく錬金もパネルで出来るらしい。もう一度パネルの錬金袋スキルをタップすると、バッグは消えた。


 他に持ち物は無いかと確認する。腰に小さなバッグがついていた。中には革袋があり、複数枚の硬貨と思われる物が入っていた。


「これは多分、お金かな? だとしても、どのくらいの価値かも、わからんし……。やっぱり、ユキを探さないと始まらないかなあ。とりあえず、町っぽいとこを目指そうか。ユキの居場所が、わかれば良いんだけど。……ん? そういえば、マップに検索っていうフェリシア様も知らない機能があるって言ってたっけ」


 すぐにマップを確認する。パネルにはスマホにあるような、文字を入力するところと、マイクのようなマークがある。タップすると、まさにスマホのように文字が打てるようだ。マイクをタップすると、音声入力が出来るらしい。


「検索あった。周りに人もいないし、音声入力してみるかな。マイクをタップして、ユキの居場所を検索。……これで良いのかな?」


 マップを見ると、画面の下の方にマークが出た。マークには、ユキと書いてある。


「何か出た! 画面の端っこかあ。確かマップSランクは半径1キロメートル。ゲームとかなら、この表示のされ方は範囲外かな? 範囲内になれば、表示も変わるでしょ。とりあえず歩くか」


 ユキのマークに向けて歩き出す。周りは平原で、少し離れた場所に森があるようだ。マップを確認しながら、魔物に注意しつつ歩く。


 暫く歩くと、マークが画面内に入り、だんだんと近づいて来ているのがわかった。俺が歩く速度よりもマークの移動の方が、かなり速い。多分ユキが俺に気付いて、走って来てるのだろう。何の障害物もない平原なので、すぐに遠くの方から向かってくるのが見えた。


「あれユキだよな。めっちゃ速いんだけど……。てか、引くぐらい速い……」


 目視で確認出来る距離まで、あっという間に近づいてきた。よく見ると俺に向かってくるのは、真っ白な獣だった。マップを見てもユキで間違いない。間違いないはずなのだが、もし魔物だったら? マップスキルを信じて良いのだろうか? と急な不安が押し寄せる。ここから離れようと、走り出していた。


「ちょっと、ヤマトさーん! 何で逃げるですー!」


「あっ、やっぱりユキなんだ……」


 あっさりと追い付かれて声をかけられて、この獣は本当にユキだったんだとわかった。


「やっと見つけたです! 何で逃げたです?」


「マップスキルではユキだってわかってたけど、走って来てるのが本当にユキか魔物かわかんなくてさ。ビビって逃げちゃったよ。転生前の、人の姿じゃないのは何で?」


「これは獣変化のスキルで、可愛い子狐になった姿なのです。この姿だと気配察知のレベルが格段に上がるので、ヤマトさんを見つけられたです」


「とりあえず可愛いってのはスルーして、まずは人に戻りなよ」


「ぐぬぬ。スルーは良くないのです。でも戻るです。無事で良かったのです」


 人に戻ったユキと、転生してからのことを話す。ユキは転生直後に俺を探したが全く気配が見つからずに、途方に暮れていたようだ。数時間探し、やっと気配をつかみ走ってきたようだ。


「は? 数時間? 俺起きてから、まだ1時間も経ってないよ」


「……え? あたしは朝から探してたです。今は昼前くらいです」


「……俺、魔物がいる世界の草原で、何時間も寝てたのかな……」


「寝てても気配はわかるです。もしかしたら、転生された時間がズレたかもです」


「そうなの!? なら良かった……のか? やっぱり俺の存在は、この星のイレギュラーなんだろうなあ。だから時間がズレたとか?」


「そうかもです。本当に無事で良かったです。いきなり魔物に襲われてたら、ヤマトさんなら一発アウトだったかもです」


「マジかあ……」


 転生初日で気がつかない内に、大ピンチだったらしい。気を取り直して、俺の転生してからの行動を話して、これからのことを話す。


「スキルや持ち物の確認は出来たようなので、これから町に向かうです。そこで身分証明のカードを作って、あとはヤマトさんの自由行動です。あたしは可愛いボディーガードなのです」


「可愛いはスルーして、町に行こうか。マップで見たけど、あっちでしょ?」


「ぐぬぬ。またしてもスルーです……ショボン。その方向で合ってるです」


 二人で町に向かって歩き出す。町のことをユキに教えてもらう。町は魔物に襲われないように、高い塀で囲われている。入り口は数ヶ所の門があり、そこで守衛のチェックを受けてから入ることになる。その町の住人以外は、入る時にお金がかかる。但しギルドに所属している人は、ギルドに会費や手数料などを払っているので、その一部が町に還元される為、無料で入ることが出来る。


「異世界あるあるだなあ。やっぱりギルドに所属するのは、マストかなあ。稼がないとならないし」


「あるあるって何です?」


「地球では、ここみたいな異世界に転生とか転移しちゃう物語が沢山あるんだよ。その中に町に入るのはお金がかかるとか、よく出てくるんだ。複数の話の中に、同じようなことが出てくると、あるあるって言うんだよ」


「なるほどです。じゃあ地球では、町に入るのは無料なのです?」


「無料だよ。てか、ユキは地球に遊びに来てたでしょ? その辺は知らなかったの?」


「遊びに行く星のことは、あまり詳しくないのです。しかも地球は、あの時に初めて行ったです」


「マジか。初めて来て、俺は巻き込まれたと……。どんな確率やねん!」


「うっ……。それは本当に申し訳ないのです。反省してるのです。だから、あまり言わないで欲しいのです……ツライ」


「ごめんごめん。責めてないから! 死んじゃったのは悲しいけど、今は転生出来て、これからが楽しみだから! だから、宜しく頼むよユキ!」


「はい! 頑張るでしゅ! あっ、噛んだです……ハズイ」


 地球のことなども話しながら、異世界での最初の目的地である、町を目指すのだった。

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