依存性

全一話

　彼女はＢＬ（ビーエル）を摂取（せっしゅ）しすぎて、とうとう頭が腐ってしまった。

　そして、腐敗（ふはい）は体にも広がり、いつの間にか全身が腐って、腐乱死体（ふらんしたい）になった。

　そう、彼女は腐った死体。ゾンビになってしまったのだ。

　この身体は眠らなくとも、食事をしなくとも死ぬことはない。いや、もう死んでるのだから、これ以上は死ぬことはない。

　しかし、ＢＬが不足すると、禁断症状が出て、人を襲（おそ）いたくなるのだ。

　そして今宵（こよい）。

　昼間にＢＬ本を読み終えた彼女に、いつもの苦しみが襲ってきた。

「本……。ＢＬ……」

　こうなると、なにかＢＬ要素を摂取しなくてはおさまらなくなる。そうしなければ、彼女は苦しみもがくことになるのだ。

　そして、彼女は夜の街をさまよう。

「よこせ……。ＢＬ本……。電子書籍でもいいから……」

　彼女が近寄ると、酔っぱらいのおっさんが本を差し出した。

「これ！　こ、これを渡すから！」

　差し出された本を受取りページをめくると、それは紛（まぎ）れもないＢＬ小説だった。

　彼女は、その場で貪（むさぼ）るように読む。

　しかし、これだけでは、彼女の飢（う）えを満たすことは出来なかった。

「ＢＬ……。ＢＬをよこせ」

　声をかけられると、なぜか皆一様（みないちよう）にＢＬを持っていて、それを彼女に差し出す。

　これは、人々が考えた末に編み出した、彼女への対抗策だった。

　彼女は雑食なので、ジャンルも既読（きどく）の有無（うむ）も問わず、読了（どくりょう）すれば満足する。

　しかし、例えＢＬを渡しても、以前に自分が読んだ事がある話で、好みではなかった物を差し出されると、暴れ出して襲ってくる。

　そして、彼女に噛（か）みつかれると、ゾンビになってしまうのだ。

　人々は更（さら）なる自衛のために、ＢＬ本を熟読（じゅくどく）しなくてはならなくなった。老若男女問わず、皆、ＢＬを読みあさる。

　その結果、皆、ＢＬに犯され、頭が腐ってゾンビになってしまったのだった。