最後の人類

Grisly

最後の人類

R氏は、最後の人類だった。

最後の1人。

と言っても、人類が滅亡したわけではない。




20✖︎✖︎年、体を機械にすることが

当たり前となった世の中で、

皆どんどん機械化を進めていった。


ところが、いつの時代も、

保守的というのか、伝統的というのか、

時代遅れというのかは人それぞれだが、

時代の流れに迎合しない

偏屈な人間はいるもの。


R氏が、その最後の1人という訳だ。




親からもらった体をなんだと思っている。

軟弱な者達だ。

俺は人間でいたい。


時代が変わっても、守り続けたい物。

彼には、人間らしくいたいという

確固たる意志があった。




そうは言っても、

彼以外は全員、体が機械になっている。

そっちの方が当たり前の世の中なのだ。


もちろん彼の意志は尊重すべきだが、

皆が体を機械にし、

死の概念を超越した世の中においては、

これを認め続けて良いのか

という問題になる。


彼の行動は、ともすれば

自殺行為とも取れないこともない。

今の安楽死の問題に近いものだろうか。


彼の主張を認め続ければ、

せっかく克服した死を懐かしみ

自殺をする者達が増え、

ひいては地球の秩序の悪化に繋がりかねない


しかし、彼の意志は尊重すべきだし、

自然な生き方、死というもの。

そもそもの人間らしさ。

そこに立ち返ってみれば、

他人がどうこう言うのはいかがなものか…




議会での果てしない議論は、

10数年程続き、

ようやく結論に至った。

そして、R氏のもとに職員が訪ねて来た。


「こんにちは。R様。

 ようやく議会での結論が出ました。

 あなたには、体を機械にしてもらう。

 

 例外は認められない。

 これが議会の出した結論です。」


「いや、待ってくれ、

 何度も何度も言っているが、

 私は、この体で生まれ、死んでいきたい。


 時代が変わっても、

 私は人間らしくあることを

 大事にしたいのだ。」


職員は答える。


「はい。その点について、

 議会の方では散々議論がされました。

 裁判所にまで持っていかれ、

 議論は尽くされた。

 

 そして、結論に至りました。

 



 服を考えてみて下さい。

 周りの動物は、冬、春と生え変わりますが

 その程度だ。

 

 人間は、その必要がない。

 服があるからだ。



 食べ物を考えてみて下さい。

 多くの動物は、肉食、草食、

 大きく分かれている。

 

 これこそが、彼らの生息域が広がらない

 原因となっている。

 

 どこへ行っても、何でも食べられる。

 これこそ人間の強みだとは思いませんか。




 人間らしさとは何であるか、

 散々議論した挙句、

 私達は、

 どんな環境にでも適応していく力だと

 結論づけました。

 

 古来より、

 おそらく受け継がれて来たであろう

 特殊能力。

 

 あなたがずっと守ろうとして来た

 人間らしさこそ、そこにあるのでは。

 

 さぁ、行きましょうよ。

 新たな人類のスタートへ。

 

 いや、むしろ、

 古来からの伝統というべきかな。」

 

 



 







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