第9話 中学1年生

春視点


再婚したのは私達だけど、お兄ちゃんの方が家から離れることになった。


「・・・春!!久しぶりに旅行に行こうと思うんだけど何処がいいかな?」


父がそう問いかけて来る。一度も旅行なんて行ったことはないんだけど・・・


「・・・お兄ちゃんの所」


「いい加減にしろ!!春!!お母さんを困らせるんじゃ無い!!」


明らかにキャラを作っている。


「・・・ごめんね。春ちゃん。あったのお母さんと話してもう会わない約束になってるのよ」


「・・・そうですか」


新しく再婚した母親はお兄ちゃんのお母さんと違って私のことをよく気に掛けてくれている。でも、私はお母さんに合わせること、この家族を成功させるより、お兄ちゃんのことの方が大事。


「・・・お兄ちゃん」


________


優視点


お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!待って!!お兄ちゃん!!


「・・・ッチ」


・・・忘れたい。


あんなことを春に自分から言っておきながら、嫌でも思い出してしまう。


お兄ちゃんは私を守る王子様になってよ


「・・・」 


「優!!アンタねぇ、さっきからムカつく顔をしてるんじゃないわよ」


「・・・うるせぇ、ゴミ」


「・・・っ母親に向かってそんな口を!!」


「母親??ゴミの間違いだろう??」


「・・・っこのぉ!」


ビンタをして来る手を、優は受け止めて


「いたたった、痛いたい!!辞めなさい!!」


「・・・辞めないよ。お前だって辞めないじゃん」


「痛い!はぁ??言いわけ、そんな態度とって??アンタのことを育てないわよ。今度、一切」


「いいぞ。なら俺は餓死寸前まで耐えてネグレクトで訴えてるやるよ」


「・・・痛い!!痛い!!ネグレクトって何よ」


「ご飯も与えずに、育児放棄していることだよ!!」


「はぁー!!私達はそんなことをしてなかったでしょ!!」


「それは赤ん坊の頃はだろう!!」


「痛い!!じゃあ与えているじゃ無い!!1円も返さないくせに、その時の恩を忘れたの?」


「お前、赤ん坊の記憶あんのかよ??あと食事を与えるのは義務だぞ。」


「・・・それが何よ!!私には関係ないわ!!」

優はどうして、ここまで自分勝手に生きることが出来るのだろうと考える。


ずっとお腹を空かせていた春・・・冬ちゃん、俺は二人を見て辛くて、辛くて苦しかった。平気でこれを放置する大人も、周りも嫌いだった。


「痛い・・・アンタのこと・・・アンタのことを産んであげたんだから感謝しないさいよ!!」


「・・・そうかい!!ならこれが俺の感謝だよ!!」


「きゃっ!!」


_______


春視点


「・・・お兄ちゃん今何をしてるのかな?」


春は中学生になって、憧れの制服を来て、憧れの中学生の教室に座っている。だけど、全くトキメキも、ワクワクもなく、ただずっとぼーと兄のことを考えていた。


「・・・ねぇ、春ちゃん」


「どうしたの?夏ちゃん?」

夏ちゃんは小学生の初めて出来た友達だ。


「・・・そのぉ、お兄さんとは連絡は取ってるの??」


「・・・」


夏は、お兄ちゃんのことが嫌いだった。いつも私と一緒に悪口を言っていたし、あの時に死ねとも言ってしまった一人だ。


「・・・取れてないよ」


「・・・そっか」


あの事件から、クラスメイトはお兄ちゃんへの態度を変えた。明らかに異常な服や匂いから傍目から見ても辛い環境に居るのは一目瞭然だった。そんな中で環境でさらに虐められており、悪口や数々の嫌がらせを受けても、決してやり返す怒らないお兄ちゃんがあの時全力でキレていた。そして、クラスメイトも私も知った。お兄ちゃんは怒れないんじゃなくて、怒らない優しい人間だったんだと・・・


「・・・ねぇ、お兄さんにとってあのカードはどんな物だったの?」


・・・たまに聞かれるこの質問、


「・・・私もわからない」


「・・・そうだよね」


そのそうだよねは・・・きっと知っていたらあんなことはしないよねと言う意味だ。



私は何も知らなかった。あのカードが形見であることも・・・それに、カードだったことも・・・


春はカードはお子様や恥ずかしい痛い子どもが持つものだと言う印象を持っていたことを自認していた。


_______


優視点


母親は俺に言うことを聞いてくれるようになった。完全に力と脅しで、


「・・・冬ちゃん」


優はボロボロになってテープで止めてあるカードを見つめる。


ーーーー


その日は、一度・・・経った一度だけ、冬ちゃんのためにお金を使った。


初めてカードの付きのお菓子を買った。


「・・・このカードくれるの?」


「うん、こんなのしかあげれないけど」


「・・・ありがとう!!お兄ちゃん」


冬ちゃんがそのカードに描かれたアニメのキャラが好きだったことは知っていた。


「私ね、ずっと・・・このアニメに憧れててね。」


冬ちゃんには、冬ちゃんとは違い大切に家族から育ててられている妹が居るらしい。その妹さんが見ているアニメを冬ちゃんも好きだった


「ずっとね、妹は着させて貰えるんだ。」


冬ちゃんは涙を流す。


「・・・なんで、冬ちゃんはダメなの?」


「私は・・・ブスだし、妹みたいに可愛いくないんだって」


「・・・そんなことはないよ!!冬ちゃんは可愛いよ」


優は本気だった。優からしたら冬は妹のように大切な存在だ。


「・・・ありがとう。お兄ちゃんが言ってくれるなら私は可愛いのかも」


「うん!!」

ーーーー


「これ、お兄ちゃんにあげる」


「え、これって」


優は正直に思ったこのカードのキャラをわからないと


「・・・今日、お兄ちゃん誕生日でしょ!だからこれあげる」


「ありがとう!!」


優に取ってはそれは分からないしただのカードでも嬉しかった。


「お兄ちゃんはこのヒーローみたいになって欲しい。そしていつか」


ーーーー


いつか、私を助けるヒーローに


「・・・冬ちゃん・・・」


俺はヒーローでも、王子でも、お兄ちゃんでもなんでもないよ。


________

妹視点


春は部活にも入らず、ずっとお金と四葉クローバーを探していた。


見つからない。全然見つからないなぁ。


「・・・あはは」

私もう、中学生なんだよ。あの時のお兄ちゃんは小学2年生なんだよ。



春の再婚相手からお小遣いは貰えてる。だけど私は今更になって兄の苦労を知ろうと思った。その為に必死に兄がしていたようにお金を探すが全く見つからない。


「・・・どんなに私の為に・・・」


春は探せば探すほど、見つからなければ、見つからない程涙が出て来る。


こんなに大変なのを毎日やったうえに水や雑誌などを毎日見つけて運んでくれていた優の大変さを実感していた。


________


優視点


俺はやっとシャワーも使えるし、シャンプーやお小遣いも使えるようになった。中学の制服も買わせた。


「・・・」


 お兄ちゃんに似合う??


「・・・きっと冬は似合うんだろうな」


そして、遅れてだが、やっと優も中学に通えるようになる。

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