第5話

 二人に連れられて部屋を出た。

 甲板に出ると、初めて見た光景だ。

 甲板の至る所に船員たちがそれぞれ仕事をしていた。

 船員の多くが身軽であったり、薄手の格好をしている。腰には海賊がつけている剣・カトラスを携えていた。人によっては頭にバンダナを巻いている。

 いかにも海賊の船員だ。

 多くは男の船員で、彼女のような女海賊もチラホラ見受けられる。男の海賊たちはかなり屈強な体つきをしていた。あり得ないぐらい筋肉隆々だ。

 女海賊は船長である彼女のようにかなり露出度が高めだ。

 どれだけ船の上が国の船に乗るとなれば、暑かろうと長袖・長ズボンのクソ暑い制服をしなければならない。

 上を見上げてると、船の帆が目に入った。

 そこには海賊の象徴とも言えるドクロが描かれている。

「本当に海賊船なんだな」

「言ったでしょ」

 実際にこういったものを見たことで実感が持てる。

「全員集合!」

 彼女の一声に甲板や船内にいた船員たちが集まってくる。

 二十人ぐらいかな。

 メアリーさんはいないのか。

「姉御、この人目を覚ましたんですかい?」

「姉御って呼ばれているのか」

「船長って呼べって言ってるんだけど、みんなその呼び方を気に入ってるらしくてね」

「あの状況でよく生きてましたよね」

「よかったじゃねぇか。あんちゃん」

「無事でよかったぜ」

「あ、ああ。助けてくれてありがとう」

「礼には及ばねぇよ」

「そういうことをするのは俺たちの信条だからな」

「本当に海賊か?」

「だから海賊だって。何回言わせるの?」

「だって、海賊を名乗ってる割にいい奴らすぎるだろ」

「俺たちが海賊みたいにひでぇことをしてたら姉御たちにしばかれるって」

「ああ。しばかれるどころかマジでやられそうだ」

「上下関係しっかりしてるな………」

「それでわざわざ俺たちを集めた理由ってなんですかい?」

「今日付で彼が私たちカモメ海賊団に入団することになったから。みんな仲良くしてね」

「よ、よろしく…………」

「ほう〜」

「新入りですかい……」

「それはそれは………」

 やばっ。なんか目線がすごい怖い。

 新入りいびりでもするんじゃないだろうな。

 戦えばなんとかなるかもだけど、肉弾戦だと俺負けるよ。こんな屈強な男たちに身一つだけだと勝てる気がしないっての。

 騎士団長を務めていたからわかるもん。

 強いよ、この人らさ。

 頼むからお手柔らかにしてくれよ。

「あんちゃん………名前は?」

「マーチ=アステルだけど」

「そうかい………」

「なるほどな」

 何がなるほどなんだ?

「マーチか……」

「言いづらいからあんちゃんと呼ぼう」

「そうだな。なんか堅苦しいし」

「あんちゃんの方が言いやすい」

 あ、そういうことでのなるほどか。

「あのさ、それ船長である私を呼んでることもならない?」

「姉御をちゃん付けで呼ぶほどの度胸は俺たちにはねぇですぜ」

「姉御は姉御ですぜ」

「ちゃん付けで呼んでいいのはリーファの姐さんだけだ」

「私はみんな呼んでもいいと思うけど?」

「姐さん、そんなことをしたら俺たちは海の藻屑になります……………」

「そんなことで海に帰るのはごめん被りやす」

「そうそう」

「確かにね。だったら姉御呼びがいいよね」

「それもどうなんだよ………」

「あんちゃん、よろしく頼むぜ」

「あ、ああ……………」

 俺はあんちゃん呼びかよ。

「姉御、ちなみに序列はどうしますか?」

「ちゃんと決めるまではあんたらと同等にしておいて。後日ちゃんと決めるから」

「何言ってるんだ?俺が一番下だろ」

 自分で言うのもなんだが、騎士としての実力は示すまでもなく経歴で証明できる。

 それなりの地位に一発で行くことも不可能ではないのかもしれない。

 しかし、海賊としての俺は赤子だ。

 一番下から始めるのが筋ってもんだ。

「何言ってるのはこっちだけど」

 おかしなことを言っている、という表情を彼女はしていた。

「海賊での序列は海賊団ごとに決めるの。決め方もそれぞれある。うちにも序列を決めるための決め方がある。それをしてからどの序列になるのか決める」

「でも俺は海賊初心者だぞ」

「その辺とか考慮したやり方で決めるから」

「じゃあ、今決めようぜ」

「船の上だとできないやり方なの」

 船の上ではできないやり方か。

 勝ち抜き戦みたいな形をするのかもしれないな。どれだけの人数を倒したかで序列を決めるみたいな感じか。

 純粋な実力勝負で序列が決まるのはいいな。

「と言うわけで報告終わり。みんなくれぐれもいじめとかしないように」

「「「「「「「「アイアイサー!」」」」」」」」

「じゃあ、解散!」

 それを聞いた船員たちはそれぞれの持ち場に戻って行った。

「海賊の割にいい人たちばかりだな」

「当然よ。私たちカモメ海賊団にクソみたいな人間は必要ないわ」

「カモメ海賊団っていう名前なのかどうしてその名前にしたんだ?」

「さあ?私のお父さんがつけた名前だから」

「おたくの父君も海賊だったのか」

「そうよ。船員の半分はお父さんの時から使えていた海賊の家系の人たちなのよ」

「海賊でも後継ぐのか」

「別にそういうわけじゃないだろうけど、冒険者でも同じことあるじゃない?」

 冒険者でも確かにあるな。

 親が冒険者で、いろんな話を聞いた子供が冒険者を目指すというのはよくある話だ。

 彼らを見てみても嫌で海賊をしているような人は見受けられない。

 全員自分自身で海賊になりたいと思っていて、海賊になっている。

 だからあれだけ生き生きとしているんだな。

 騎士の時の俺はきっとあんな顔はしてなかったな。

「この船ってどこに向かっているんだ?」

「ここから先に小さな小島があるんだけど、その周辺では巨大モンスターが船を襲っているそうでね。あたしたちはそれを討伐するの」

「いかにも冒険者らしいな」

「まあね。大抵の冒険者に海の仕事は務まらない。私たちだからこその仕事」

「じゃあこういう仕事は多いのか」

「多い、というか依頼の半分はモンスターの討伐。あとの半分は船の護衛だよ」

 海を縄張りとする海賊だからこその仕事ということか。

モンスターの討伐と船の護衛。

「モンスターを討伐したらどうするんだ?」

 陸だと討伐した後、解体して換金できそうな部位を取り出す。それも冒険者の重要な収入になっている。騎士が討伐しても同じことをする。その際に取り出した部位は王宮に献上する。武器や薬を作る材料になるのだ。

「海でも解体するのか」

「解体はするよ」

「やっぱりか」

「食べるために」

「あ、そっちなんだ」

「巨大モンスターは腹一杯食べられるし」

「食うのか?」

 モンスターを食べるという概念はない。あくまで倒す対象としか捉えていない。

「海のモンスターは陸上のモンスターと比べて美味しいんだよ」

 リーファはそう言った。

「そうなのか?」

「陸上だと雑食性なのが多い。しかも人の食べ物食べたりするから美味しいのは必然的に限られる。でも海のモンスターはそういうものを食べる機会は滅多にないし、雑食性のものは限られる。だから美味しんだよ」

「へぇ〜」

 美味しいのか。

 食べてみたいな。普通の魚みたいな味がするのかな。

「討伐と言ったが、依頼主は誰なんだ?」

「海の仕事を依頼するのは商会連合がほとんどね」

 商会連合。国内の大手商会によって構成される組織で、商売において互いの利益になるよう協力する集まりと組織された。

「商会連合の至上命題は輸送だって聞いたことがあるな」

「海上輸送をいかに安全に届けることは彼らが利益を出す上で必要なこと。荷物が届かなければ利益は上がらない。でも海上で実力を有するのは現状海賊のみ」

「だから海賊に依頼するということか」

 各国は海軍を持っていない。

 基本持つ必要性がないからだ。巨大な大陸だと海路より陸路の方が近く、安全性も高い。わざわざ軍を海に当てるほどの利益がないのだ。

 しかし海上輸送の必要性は当然ある。

 小さな島でしか採取できない貴重なアイテムなどもある。島々の集まりの国もある。そういう国は貴重なアイテムの採掘場を持っている。

 商人としては是が非でもそれで商いをおこなたい。

 だから海賊に海での安全性を担保してもらおうということか。

「商会が海賊にか。ありがちっぽいな」

「他の海賊に頼んだりするだろうけど、荒くれ者の海賊たちにモンスター討伐や護衛なんて務まると思う?」

「ないな」

 陸地における商人の護衛を山賊がやるようなものだな。

 山賊が大人しくしてるわけがない。

「それに冒険者と違って依頼主はお金持ちの商人たち。一度の依頼でかなりの報酬をもらえる。商人の羽振りはいいからね」

「ちなみにいくらか聞いても?船長さん」

「そうね〜ざっくりと金貨……………五千枚ってところかな」

「五千枚⁉︎」

 その金額は一般貴族の半年分の収入に該当するものだった。

「そんなにもらえるのかよ」

「まあね。私たちも海という場所での仕事。命もかかるし、船の整備とかで経費もかかる。これぐらいは貰っておかないとこっちも利益は出ないわけ」

「シビアだな」

「この何倍も商人たちは稼いでるんだからいいじゃない?」

「それもそうか」

冒険者に負けず劣らず、夢の膨らむ話だな。一攫千金みたいなものだな。

 討伐できたらの話だけど。

 まあ、俺がいたらどんなモンスターでも討伐できるだろうけど。

 俺ちゃんと強いわけだし。

 早くモンスターと戦いたいな〜。

「そう簡単に姿は現さないと思うよ」

 彼女に心を読まれてしまったか。

「いや、なんとなく考えていることが分かっただけだから」

 そうか。

 そうなのか?

「そう簡単にモンスターなんて表れないし、航海はしばらく続く。慌てなくてもそのうち現れるから」

「だったらいいな。早く戦いたいもんだ」

「そうしたいのなら、船室で休むことをお勧めするよ。体は万全じゃないだろうし」

「体自体は動くから仕事はできるぞ」

「陸上と海の上を同じにしたら痛い目に見るよ。ここはアンちゃんの言うように休んでた方がいいよ」

 リーファさんが俺を諭してきた。

 でも確かに休んでいた方がいいか。船旅の経験者の言葉だ。素直に従っておいた方がいい。

「じゃあ、休ませてもらうわ」

「ええ。そのうちきっとあなたが待ち望んでいるワクワクするものがやってくるから」

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