第3話
「くそ!」
ギルドを出てから俺は酒場で飲み続けた。
酒を飲まないとやっていられなかった。
「なんで俺が冒険者になれないんだよ」
イメージが悪いだと。知ったことじゃねぇよ!
理解できるけどな!でもそんなことで俺が冒険者になれないのはとことん納得いかん!
俺がどれだけ国に尽くして来たと思ってるんだよ!
馬鹿みたいに仕事を押し付けられて、それを誰かに任せることもできずに一人粛々と仕事をこなし続けていたんだぞ。
貴族や大臣たちが楽しんでる時も俺は仕事の日々だ。警備もしないといけないし、事務処理もしないといけない。
やりたくもないことをひたすら続けていたってのに。
他国が侵攻してきたら、常に最前線に送られて常に命懸けで戦わないといけなかった。
こっちはさして王国に愛着もないのに。
安全な場所で悠々と戦況を眺めていた国王や大臣どものために戦ってるんじゃないってのによ。
命令を破るな?ふざけんじゃねぇよ!それだけで一体どれだけの部下が死んだと思ってるんだよ。国境沿いの人たちも死んでるんだぞ。
死ぬ仕事なら、冒険をしてて死にたいわ。
俺たちのために何かをしてくれない奴らのためにこの命を無駄にしたくないんだよ。
そうやって王国のために頑張っていたのに。
百歩譲って王宮を追放されたのはいい。
それはいいが、冒険者になれないってどう言うことだよ。
冒険者だぞ。自由の象徴的な存在だぞ。
どうして王国に仕えていた騎士が冒険者に転職できないんだよ。
いいじゃんかよ。冒険者になったってよ!
イメージが悪いのはわかるけど、それをこっちのせいにするなよ。王国側のせいだろ。
何より既得権益者どものせいで俺が冒険者になれないのはマジで気に食わん!
ふざけんじゃねぇぞ!
まじでふざけるな!
そういう奴らよりも俺の方が絶対に冒険者として活躍できるってのに。
「あ〜考えれば考えるだけ腹が立ってくる」
呼吸をするように酒を飲む。
一体どれぐらいの時間飲んだのか、どれだけの量を飲んだのかはわからない。
それぐらい酒を飲み続けている。
「まだまだだな。もっと飲まないと。怒りが収まらない」
イライラが止まらない。
酒で紛らわそうとしているのに、全くイライラが収まってくれない。
もっと酒を。
もっと酒を飲まないとな!
飲み続けた俺は流石に酒場を出て、夜の街を歩いていた。
まともに歩くことはできない。千鳥足でふらふらとしながらなんとか歩いている。
「ちょっと酔いを覚ますか」
俺は海の方に向かうことにした。
海は潮風が吹くから心地よくかつ冷たい風が吹くから酔いを覚ますのに適している。
歩いて十数分で、港に辿り着いた。
「おお………」
海からの風が気持ちがいい。
少しイライラが収まってきた気がする。
「海って広いよな」
そんな言葉が口から漏れる。
「海も自由の象徴だとされているよな。どうせ俺には自由はないんだ。冒険者になれない。だったらいっそのことこの真っ暗の海になったら自由になれるかもな。そうだよ。俺は海になればいいんだ!そうすれば自由になれる。未練も残すことはないぞ!」
酔っていて理性が効いていない俺は海の方へと近づいていく。
足元なんて見ていない。
目も空状態だ。
どこまでが陸地なのかわからない。
だからいき過ぎると足場は無くなるのだ。
足を置く陸地がなかった。そうなるとどうなるかは酔っていてもわかった。
そのまま真っ暗な海へと落ちてしまった。
酔っているから体はまともに動かない。
冷たい海の中に入ったことでようやく酔いが覚めた。
自分がどれだけ愚かなことをしたのかも理解する。
必死に海面から出ようともがくが、アルコールの回った体は思った通りには動かなかった。服が海水を吸い、それがお守りとなっていて、それがまた浮上を妨げる。
脱ごうとしても冷静にできるほどの余裕もなかった。
人が溺れているが、夜も遅いから誰かが海に落ちたとしても気がつく人はいない。
流れていた流木があった。
俺はすぐにそれに捕まった。
よかった。これで溺れることはない。
「あれ…………」
俺の体が流木ごと沖の方へと向かっていっていた。
「離岸流かよ………」
流木に捕まりに行くために少し沖の方へと泳いでしまってのが仇になった。
「助けてくれ!助けてくれ!」
必死に叫んだが、周りに人は見えない。
誰にも聞こえていないらしい。
死を覚悟した。
この状況で海に流れれば、死ぬのは明白だ。
ああ。俺、このまま死ぬんだ。
こんなとことで死ぬのか。
これまで必死に頑張ってきた結果がこれかよ。
身に覚えのない濡れ衣を着させられて騎士を辞めさせられた。
憧れていた冒険者になろうと思ったのに、なることができなかった。
そんな人間の最後が酔っ払って、海に落ちて、流される。
滑稽もいいところだ。
こんなことになるんだったら家を飛び出して冒険者になればよかったな。
そうすれば後悔をしなかったかもしれない。
冒険者として冒険の最中に死ぬことは構わない。
こんなことで死ぬなんて後悔しか残りはしない。
あ〜あ。
俺はこんなとこでか……………。
少しずつ意識が薄れていく。
海になれば自由になれるとか、未練が残らないとか口にしたけど、そんなことない。
そう言ってしまったことを後悔する。
なんであんなことを言ってしまったのか。
神様が俺の願いを叶えてくれたのかもしれないが、それは俺の本当の願いじゃないんだ。
本当は死んで自由になることはないし、未練なんて残るんだよ。
だが、もう遅かった。
もうどうすることもできない。
ぼんやりとした意識のみが残っている。
「ん?」
そのぼんやりとした意識の中で俺は見た。
近くに船が来たことを。
あり得ないのに、船が見えたと錯覚。それに安心したのか、俺の意識はプツンと切れた。
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マーチは錯覚で船を見たと思っている。
それこそが錯覚だった。
実際に船は近くにあった。
そして彼はその船の船員たちによって助け出されることになる。
「こんなところで人が流されているなんてね」
その船の船長はそう言った。
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