県大会
「本日の県大会は、開催に決定しました」
8時になる前にラインで連絡が入った。
「やった! スキーだ!」
準備万端で待機していた明日香は、すぐに箱館山のゴンドラ乗り場まで送ってもらった。すでにみんな集まってきている。
「どきどきだねぇ。滑れるかなぁ」
千夏がうきうきした顔で寄ってきた。
スキー競技の全国大会出場メンバーを決めるんだから、絶対に雪上ですべきだ。県内が無理なら遠征してでも。という意見と、積もらなかったらローラースキーで。という意見と、先生方と県の連盟の人たちの間でも議論はあったらしいけど、突然の積雪のおかげで雪上で出来ることになった。
雪の上を滑れるのは嬉しい。楽しそう。だけど、いきなり県大会というのは……。1年生はみんな初めて雪の上で滑る。はたしてちゃんとしたレースになるのか? 先輩たちは、絶対に雪上の方がよかったはず。男子は2、3年生もたくさんいるから、6位入賞は先輩たちに決まってる。でも女子は。2、3年生合わせて4人。残り2人は今日初めて雪の上で滑るメンバーが入ることになる。それでいいのか、滋賀県。と言いたいけど、雪が降らなかったのはどうしようもない。
明日香は、とりあえずその2枠をに入ることを目標にした。
ゴンドラを降りて板を履く。小学校のスキー教室でアルペンの板を履いたことがあるから、平らなところに立つだけはみんなへっちゃらみたいだ。
クロカンのコースは一番奥って聞いていたけど、思っていたよりも遠い。しかも圧雪されていない。先輩たちがすいすい滑っていく後ろをよろけながら1年生が滑って追いかける。
「かろうじてレースはできるけれど、圧雪車が入れるだけの積雪量がありません。練習しがてら、みんなの足で圧雪します」
「えええ!?」
「マジで!?」
中井先生の言葉にみんながどよめく。
「コースも、例年のコースは使えません。小山と奥の坂方面はなしになります」
「え? じゃあ、アップダウンなし?」
「ラッキー。小山と壁を登らんでええんやったら楽やん」
男子の先輩が浮かれた声を出す。
悠希兄に聞いていた話では、箱館山のコースは公式A級の認定コースらしい。結構急こう配の小山をぐんぐん登り、S字を描いたカーブを降りてきた後、グラウンドの反対側の奥にある傾斜は緩いけど長い坂を登る。そこからぐるりとアップダウンを繰り返して坂の上に戻り、一気に下りおりてグラウンドを半周してゴールする。これは女子のコースで、男子は奥の長い坂登った直後、壁と呼ばれるかなり急こう配の坂を登り、さらにゆるゆると登り続けて戻ってきたあと、女子と同じアップダウンの方へ進むという過酷さらしい。
「どんなコースになるん?」
「ここヒュッテの前からゴンドラ方面に進んで、リフトに行くまでのところにコーンを置いてるからそこでUターン。ここまで戻ってきて、ヒュッテの右手を登って行って降りて戻ってくる。それからグラウンドを超えて奥の坂の途中でUターンして戻ってくる。それを女子は2周。男子は3周。
「登りはここと、奥の坂の途中までってこと? 楽勝やん」
男子の先輩たちがケラケラ笑って騒いでいる。
「さ、練習始めるよー」
2時間ほど練習すると、みんななんとか滑れるようになった。先輩たちと1年生の差は歴然としたものだったけど。
明日香は1年生の中ではうまい方。2枠を狙えるかも? という感じだ。問題は体力。3キロの距離を同じように滑り続けらるかどうか、だ。
千夏がすい~っと近づいてきた。
「見てみて~。だいぶ上手になったでしょ」
勝敗に興味がない千夏は、自分の上達ぶりにはしゃいでいる。うん、気負わずにいこう。
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