県大会 女子

「5秒前、4、3、2、1、ゴー!」

 明日香は合図と同時に飛び出した。……つもりだった。気持ちの上では。でも実際は、先輩たちのようにスタートからスピードは出せない。それでも徐々にスピードが出てきて、なんとかすい~っすい~っと滑りはじめた。

「うわっと」

 雪面の凸凹に何度も足をとられる。自分たちの脚で圧雪したから全然平らじゃない。顔は前! と思うけど、前方に意識をむけると足元がおろそかになりバランスをくずす。練習の時より速く滑ろうと思うから余計にそうなるのかもしれない。

 落ち着いて。落ち着いて。と自分に言い聞かせながらUターンして戻ってくる。男子と先生、保護者の声援が飛ぶ。3方向へ行っては戻るコースだから、みんなのいるところへ何度も戻ってくることになる。クロカンは出発してしまったらぐる~っとコースを周るから、そんなに何度も応援の声はないって悠希兄が言ってたけど、今回は違うみたいだ。応援は、力になる。……みんなも同じだろうけど。

 本来のコースと比べたら、アップダウンはほとんどない、と先輩たちは喜んでいたけど、初心者の明日香にとっては十分な登りだ。それでも登りはまだいい。がんばれば進めるから。下りは……怖い! アルペンで考えると全然急な下りではないけど、板の幅が全然違う。コースはS字で狭い。エッジもない。ひゃぁ~っと心の中で叫びながらひょろひょろ下る。運動神経はいい方だと思ってる明日香でも怖いくらいだ。他の子たちは大丈夫なのかな。いや、人の心配なんてしてる場合じゃないか。

 下り終わってみんなの前を通り過ぎると、グラウンドまでは本当に緩い下り。ここはへっちゃら。凸凹も少なくてそのまま奥の坂の下まで一気に滑り抜ける。奥の坂を登って降りてくるのも思ったより楽だった。直線の下りだから、アルペンの直滑降と同じ! とイメージして、滑りきった。

 2周目に入って、前の人が疲れてきたのか、少しずつ近寄ってきたいた距離が急に縮まった。上り坂の半ばで追いつきそうだ。

 あ、そうだ。なんて言うんだっけ、追い抜くとき。えっと、えっと。

 がんばってスタート前の説明を思い出す。

「あ、バンフライ!」

 ちょうど真後ろに来たとき、ふっとひらめいた。

 右側に寄ってくれるんだよね。と進路を少し左にとって追い抜こうとすると。

「え!?」

 彼女も左に寄ってきて、明日香の声に驚いてか転倒してしまう。

「ごめんなさい!」

 と追い抜こうにも、進路をふさがれてしまった。少し下がって右側から彼女を避けて……と思ったら、圧雪していないふかふかの雪に右板先がつっこんでしまい、明日香も転倒。新雪にささった板は簡単に抜けず、もたもたしてしまう。

 なんとか先に抜け出して、残りの坂を登った。今ので何秒ロスしただろう。私が追いついたというより、彼女が遅れてきたと考えたら他の1年生と比べて早いことにはならない。ロスした分がんばらないと。

 2回目の下りは、さっきよりスムーズに下りれた。そこからグラウンドへ向かって後は奥の坂を登って帰ってきたらゴールだ。最後の気合を入れてグラウンドの半ばまでいったところで急に雪が降りだした。奥の坂まで向かい風が続く。雪が顔面に吹きつけてくる。

 天候~! こんなのもあるんだ! でも、あともう少しだ。

 坂を登りきって、Uターンして下り。向かい風は追い風に……なんでならないの~? また前から吹いてる気がする。巻いてるのかな。ああ、もうわかんないや。グラウンド抜けて、あのゆるい坂を登ればゴールだ。

「ラスト~!」

「ガンバ~!」

 みんなの声援が前から飛んでくる。

「ラストラスト! 最後まで頑張れ!」

 声に力をもらってゴールをきった明日香は、そのまま突っぷした。先にゴールした先輩もまだ転がっている。

「ゴール、したぁ~」

 ひっくり返って肩で息をしていた明日香は、少しずつおさまってきた息の下で、小さくつぶやいた。

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