第90話 湖路奈の苦悩
~~これは、地球が爽やかさを取り戻した勇敢な人達の記憶である~~
「……分身か……そうだな。
あの時、火災の事故現場で、布礼愛を助けて逃げようとした時、彼女は『湖路奈を助けて』っと、必死になって僕に言ったんだ。
その時、僕は湖路奈を見て、びっくりしたんだ。だって、布礼愛そっくりだったんだ。
火災の現場を抜け出した時、布礼愛は息を引き取ってしまった。
その後…………僕は、湖路奈だけを連れて逃げた…………湖路奈も狙われていたんだ。
ま、そのことが分かったのは、しばらくしてからだったんだけど…………。
僕は、湖路奈を置いて行けなかったんだ。…………だって、そこに布礼愛がいるように思えるからね…………でも、すぐに布礼愛じゃないことに気づいたんだ。
…………だから、見た目だけでもと想い猫耳を付けた。
…………僕は布礼愛の顔を見ているのが辛かったんだ」
夏野室長は、そこまで言うと、力なく膝から崩れてしまった。
ところが、そんな室長の傍に寄り沿ったのは、話題の人物……いや、アンドロイドのコロナちゃんだったの!
コロナちゃんは、室長をしっかり支えて、話の続きをし出したわ。
「ウチは、この猫耳が大好きよ、です。この猫耳のお陰で、ウチはコロナに成れるんだもん、です。
ウチはね、作ってもらっている時から、フーちゃんととっても仲が良かったのよ、です」
そっか、“フーちゃん”って呼ぶくらい布礼愛さんのこと、理解してるのね。そう言えば、コロナちゃんを作る時、Aiから先に作っていたって、前に室長が言っていたような気がするわ。
「フーちゃんね、何でも話してくれたの。妹ちゃんのことも、大好きな夏ちゃんのこともね…………ウチね、ちょっと妬けちゃった!
だって、フーちゃんとっても幸せそうだったし、みんなもフーちゃんのこと、大切に思っていることが分かったんだもん、です。
それからね、研究のことも、いっぱい話してくれたの…………け、け、けけけけけけ…………ツーーーーープチッ………………」
「え?コロナちゃん?コロナちゃん?……どうしたの?」
ミー先輩が、支えていたあたしを振り切って、すぐにコロナちゃんのところに駆けつけたの。それだけ、お姉さんのことが気がかりなのね。
あたしも、すぐに追い掛けたわ。
「いやあ……すまない。
湖路奈は、布礼愛の研究について、ほとんどのことを知っていると言ってもいいんだ。だから、私は湖路奈の記憶回路を調べて、布礼愛が研究していたウィルス説や“氷の結晶”のことも知ったんだ」
そっか、だからミー先輩が書いた研究論文に興味を持ったのね。だって、ミー先輩だって、布礼愛お姉さんの研究を引き継いだんだもんね。
「“氷の結晶”を集めて、その“冷却エナジー”を抽出し、それを地球の“冷却ポイント”に送り込むことまでは分かったんだ!
そのポイントは、今、BELの観測員が常駐している。
…………でも、でもなんだ…………どうやってその“冷却エナジー”を“冷却ポイント”に送ればいいかが分からないんだ!
湖路奈に聞いても、今みたいにバグを起こしてしまうんだ。記憶回路を探っても、何も見つからない!…………だけど、だけど、布礼愛はきっとその方法も突き止めているはずなんだ」
「……ウィィィィンーー…………おはようございます!です。…………ウチは、話したいけど、話せない……です。この研究は、とっても大事…………話せるのは、フーちゃんだけなの、です!」
自動で再起動したコロナちゃんが、また話し出したんわ。でも、なんだか少し寂しそうに見えるのは、あたしの気のせいかしら?
(つづく)
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