第89話 湖路奈の役割

~~これは、地球が爽やかさを取り戻した勇敢な人達の記憶である~~




「まあ、待ってくれ…………順番に話そう…………。

 今、地球は謎のウィルスexに侵されている。このウィルスは、今から100年前に人類を脅かした“ウィルスoz”が変異したものではないかというのが、布礼愛ふれあの学説だったんだ。


 しかし、布礼愛は、その学説に基づいて、この“ウィルスex”に対する、ワクチンと特効薬の理論を開発していたんだ…………ところが………


 このワクチンと特効薬の製造に着手しようとした時、布礼愛は殺されてしまった…………あの時、僕がもっと布礼愛の研究のことを理解していれば…………


 このウィルスexの中には、意志を持ったものが現れていたんだ。そんなことに僕は全然気づかず、ただ毎日を無駄に過ごしていたんだ!」






「……ひ、ひょっとして、お姉ちゃんは、そのウィルスに殺されたの?」





 な、なんてことなの!ミー先輩のお姉ちゃん、布礼愛さんは、事故で亡くなったんじゃないのね…………


「ミー先輩!……」


 あたしは、思わずミー先輩に駆け寄ったの。もう、言葉はいらなかったわ。ミー先輩は、黙ってあたしの顔を見ると、しっかり両手を握ってくれたの。





「……直接、ウィルスexが手を下した訳じゃないんだ。

 …………でも、布礼愛の研究が自分達を脅かすということを理解したウィルスexは、何の関係も無い人間に憑りついて邪魔することを覚えたんだ」




 何?じゃあ、布礼愛さんを殺したのは…………え?うそ?……どうして?……




「そう、我々が…………。

 す、すまん……夏野なつの君、南中子みなこ君……ウィルスexに憑りつかれたとはいえ、すべては僕らの責任なんだ……」




 校長先生……そうだったのか……だから、校長先生はあんなに一生懸命に温暖化阻止に熱心だったんだ。自分達の罪滅ぼしの気持ちが………




「……う、うう……うううう…………あっちょ~~ん~~……」

「ああ、泣かないでおくれ、むっちょん…………これは、仕方のないことなんだ…………だから、僕はなんとか力になれるように、できることなら何でもやるから」



 横を見ると、教頭先生と事務長も泣き崩れているわ……きっと同じ気持ちなのね。









「みんな、泣かないでくれ!……君達が悪い訳じゃないんだ。

 ……そんなことは、布礼愛だって分かっているよ…………いや、彼女はとっくの昔に分かっていたんだ。

 …………だから、湖路奈を作ってくれたんだよ!」




「え?お姉ちゃんは、こうなることを分かっていたの?…………それが、どうしてコロナちゃんなの?」




 そうよね、自分が狙われていることが分かっていたなら……研究を止めて隠れるとか、逃げるとかすれば良かったのに……………………。

 あ!いや……あの布礼愛お姉ちゃんなら……絶対にそんなことはしないわ。


 あたしのお母さんが亡くなった時も、誰も責めなかったの…………。

 そして、いっつも楽しいことばかり言ってあたしを元気づけてくれたわ。

 …………あれは、あたしに前を見ることだけを教えていたのね…………振り返っても、決して自分の為にはならない、次のことを考えるのが大事なんだって……。





「夏野室長!……コロナちゃんって……布礼愛さんの分身なのね!」


 あたしは、今にも崩れてしまいそうなミー先輩を支えながら、布礼愛さんの顔をはっきりと思い出すことができた。



(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る