第83話 希望の目覚め!

~~これは、地球を救うために手を繋ぎ合う仲間達の物語である~~




「こ、これは…………」




 夏野なつのキャップに連れられて、みんなは隣の研究室に入った。

 そんなに広い部屋ではないが、やはり窓はなく、壁は様々な計器が埋め込まれていた。


彼らの目を引いたのは、計器だらけの壁に沿って置かれたベッドで、仰向けに寝ている湖路奈ころなだった。




「うん、そうなんだ。

……湖路奈ころなだけは、幾ら充電しても、目が覚めないんだ。点検も行ったし、自動修復システムも正常に機能している…………だけど、一向に目を開けない」




 湖路奈ころなの横たわっているベッドからは、たくさんのコードが延び、壁の計器に繋がっている。しかも、いくつかのコードは、湖路奈ころな自身にも接続していた。










 上杉南中子うえすぎ みなこは、静かにベッドに近寄り、湖路奈ころなの頬に手を添えながら、話しかけた。


「…………どうしたの?……なぜ、目を開けないの?……」










「なあ、南中子みなこ君……。

君は、あの時、湖路奈ころなに向かって……どうして“お姉ちゃん”と呼び掛けたんだ?」


「え?……なぜ、キャップはそれを……」




「あ、いや……

 助けに行った時、僕は湖路奈ころなの無線を傍受していたんだ。

 ……状況が少しでもわかればいいなあと思ってね…………そしたら、君の声が聞こえたんだよ」




「…………はい…………

 私は、あの時、もうダメだって思ったんです。…………でも、お姉ちゃんの声が聞こえたんです!“がんばれ”って………………


 確かに、あれはお姉ちゃんです。


 でも…………私が手を握ってもらっていたのも、歯を食いしばった時見えたのも、コロナちゃんでした…………お姉ちゃんの声は、コロナちゃんから聞こえたんです!」





「そうか…………

 僕もそんな気がして、湖路奈ころなの記憶を調べようとしたんだ。

 …………ところが、そのとたん湖路奈ころなのAiにブロックが掛かってしまって、機械的にもコンタクトが出来なくなってしまったんだ…………僕が余計なことをしたばっかりに…………」


 夏野なつの研究室長は、湖路奈ころなの右手を握りながら、ベッドの横に膝をついて泣き崩れてしまった。




「……大丈夫です!夏野なつのさんのせいじゃありませんよ…………お姉ちゃんは、夏野なつのさんが大好きでした…………だから、きっと恥ずかしかったんですよ」


 南中子みなこは、湖路奈ころなの左手を握り、やはり膝をついて顔を近づけ、優しく続けた。






「お姉ちゃん……

 コロナちゃんを返して……

 コロナちゃんは、夏野なつのさんのために一生懸命頑張ったのよ…………

 お姉ちゃんは、私だって、助けてくれたじゃない…………だから、お願い、コロナちゃんも助けて…………」





 南中子みなこがそう言って、握っていた手に力を込めた時、湖路奈ころなの頬を一筋の涙が流れたのである。



 それを見た南中子みなこは、必死に呼びかけた。


「コロナちゃん!コロナちゃん!」




 周りにいる人達も、口々に呼びかけた。


「「「「「コロナちゃん!コロナちゃん!」」」」」





 すると、次の瞬間、湖路奈ころなに繋がっていた壁の計器の針が、どれも一斉に動き出した。計器盤がブルーに輝き出し、針が示す数値も上昇を続けた。




 暫くすると、ベッドの上の湖路奈ころなまぶたが勢いよく開いた。そして、ゆっくり上半身を起こして、いつものように



「みなさん、おはようございます」



と、一言だけしゃべった。






 周りのみんなは、はち切れんばかりの声を上げ、喜びに舞い上がった。もちろん、夏野なつのキャップと南中子みなこ部長も、涙を流して、湖路奈ころなに抱き着いていた。



(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る