第75話 導く者

~~これは、地球を救うために手を繋ぎ合う仲間達の物語である~~




 南中子みなこの笑みも薄れ、ただ視線も定まらず部屋全体を眺めるだけだった。


 湖路奈ころなに握られた手も握り返すこともせず、力さえ抜けたように見えた。















 暫くして、南中子は、ふと我に返った!


 一瞬、聞こえた気がしたのだ。湖路奈の手が覆っていた手に力が入った。そして、思わず握り返した。



「………………ようやく、気が付いたのね、南中子!……しっかりしなさいね!」



「お、おねえ、ちゃん?……どうして?……どこ?」


 南中子は、目の前の湖路奈をもう一度よく見た。





「しっかりしなさい、南中子!…………私は、ここよ!……」


「お姉ちゃんなの?お姉ちゃん…………」




 みんなが楽しく盛り上がっている、BELの大ホールの隅で、南中子は静かに湖路奈の手を握り、涙を流した。



「ごめんね、南中子…………あなたにばかり、負担をかけてしまって…………でも、もう少しだから頑張ってね…………あなたにしかできないのよ…………頼むわね……」


 

 いつもの湖路奈の表情ではなく、まさにあの頃の布礼愛ふれあの雰囲気を感じた南中子だった。

 喧騒の中で、二人だけの世界に入った南中子。















「南中子ちゃん!これはね、君のお姉さんのお陰なんだよ…………」


 夏野なつの所長が、部屋の片隅にいた南中子と湖路奈のもとにやって来た。そして、優しく慰めの言葉でも話すように続けた。

 まるで、所長は、南中子が姉のことを思い出し落ち込んでいることが分かっているような様子だった。



「お姉さん……いや、布礼愛ふれあはね、この研究室で研究をするだけじゃなくて、世界中の仲間とコンタクトをとっていたんだ。

 そして、あの時…………その仲間達とのネットワークがもうすぐ完成しようとしていた時…………あんなことが起きたんだ」





「え?それじゃあ、お姉さんは、もうあの時、今のような状況を思い描いていたの?」



「そうさ、彼女は、世界が協力しないと温暖化は止められないと分かっていたんだ…………でも、彼女は消えてしまった…………僕は彼女の研究を引き継いで、世界に散らばった仲間にもう一度声を掛け、集まってもらうのに、5年もかかってしまった」



「……………………」


 南中子みなこは、黙って夏野所長を見つめた。



「だから、頼む!南中子ちゃん、もう少し……もう少しだけ協力してほしい!今度こそ、僕は君達を守るから!…………それが、布礼愛の望みでもあるんだ」




「なっちゃん!頑張るの事ですよ!……ウチらが、オンダンVふぁいぶになって、この地球を元に戻すの事ですよ!」


 湖路奈の表情は、またいつもの元気いっぱいの顔に戻ってしまっていた。







(つづく)

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