第66話 世界を繋ぐ

~~これは、地球を救うために手を繋ぎ合う仲間達の物語である~~



≪ビッビー……ビッビー……ビッビー……ビッビー…………≫


湖路奈ころな!通信位置につけ!……ビデオパネル、スイッチON!」


 所長の指示通り、湖路奈はモニターのスイッチを入れた。そこには、乾燥しきって、砂が舞う赤茶色の大地が映し出されていた。



『Hello!taiyo, I apologize for surprising you……』


「湖路奈、同時通訳回路に繋げ!」


「了解!所っ長ょぉ~!」








『……わるい!びっくりしたろ?』




「いや、構わんよ。……ところで、だいぶ広がったな~」




『ああ、今の映像は、2日前俺達で撮影して来たんだ…………我が懐かしの故郷カリフォルニアだ』



「そうか、もうそんなところまで、迫っているんだな……」








 通信の相手は、地球温暖化研究所アメリカ支部のジョンだった。

 夏野なつの所長と同じように、地球の温暖化に立ち向かっている仲間がいるのだ。それぞれの国で“研究所”を運営しながら、環境の悪化を記録している。






 ≪ビッビー……ビッビー……ビッビー……ビッビー…………≫




「すまん、ジョン。南極から連絡が入った。また、後で連絡する」


『おお!がんばれよ、ナツノ!』


「thank you!」












『ナツノ、ナツノ……聞こえるか?こちらは、南極支部のナンシーよ!』




「おお、ナンシー。久しぶりだな!しばらく連絡がなかったが、どうしたんだ?」



『少し調査範囲を広げたの。

 ……南極大陸を一周してきたわ!ちょっと暑かったけど、サイコーのバケーションだったわ!』




「おお、そりゃ良かったなあ…………ところでさぁ~…………それ、何とかならんか?ビデオ通話なんだけど…………」





『はあ?

 …………あーあ、ごめんごめん、いいじゃん別に、減るもんじゃないし……。

 とにかく南極も暑いんだよ!

 南極も2年前から冷水ミストが無きゃ生きていけなくなったからな……みんな水着よ!

 あたしなんか、水着もめんどくさくてさ……まあ、下は履いてますから“安心してください!”……なんて、100年も前のギャグじゃ、笑えないか。あははははは…………』




「(まあ、とんでもなく豪快なお姉さんで、まるで“おやじ”なんだけど、これが美人で若いから、ちょっと困るんだよなあ~)…………ナンシー?それで、他に何かあったのか?」






『ああ……、うん。…………南極大陸が広がったわ!』




「広くなったんだ!良かったじゃないか。

 赤道付近に住んでいた人達が、南極へ移住したんだろ?もう、南極は、住宅密集地になったって聞いたぞ!高層ビルもいっぱいできたって……」





『バカか、お前は!

 ……大陸が広くなったっていうのは、海水面が下がって陸地が見えてしまったということよ!』



「あ!そっか!……それで、どのくらい下がったんだ!」



『そうね、ここ50年で、100メートルってとこかな?最近では、1年に10メートルは下がっているわよ!………このままいけば、海の水が無くなってしまうわ!』



「そっか、分かった。……情報をありがと……また、何か分かったら、頼むよ!」



『まあ、適当にやるわ!あなたも、がんばりすぎないでね!……Au revoir……』








「所長、海の水って無くなるんですか?……です?」


「今は、なんとも言えないなあぁ。

 どんなに地球が暑くなっても、水は循環しているんだ。まあ、蒸発して宇宙空間へ抜けて行ったら、どうかわからんが……」







 その後も夏野所長は、世界各地の状況を通信で受けていた。






「所長、いつも思ってけど、こんなに世界からよく情報を集められるの事ですね?」


「ああ、これも布礼愛のお陰なんだ。

 今、世界で“地球温暖化研究所”を開いているのは、何を隠そう虹ノ森高校の“温暖化研究室”の卒業生なんだ。

 布礼愛ふれあは、僕らが入学する以前の研究員を探し出し、協力を呼びかけたんだ。


 そして、地球規模の研究室が完成間地かな時だったんだ…………布礼愛が亡くなったのは…………」





 その時、湖路奈ころなの目からは、大粒の涙がこぼれ出していたのだが、夏野なつの所長は気が付かなかった。



(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る