第45話 南中子の涙

==これは、地球を救うヒーロー達の日常に密着した物語である==




 『今回は、楽しい食事になるはずだったのに』…………南中子みなこの中には、そんな言葉が繰り返し浮かんで来た。

 そして、知らないうちに、彼女の目には涙が溜まっていたのだった。


「そう言えば……あの時も、わたしは泣いちゃったんだ………」








▲▽▲▽▲▽▲▽10年前の上杉家……


「ねえ、お姉ちゃん、もう中学校へは行かないの?」

「ん?ナッちゃん……どうしてそんなこと聞くの?」

「だって、お姉ちゃんが中学校へ行かないと、わたしと一緒に登校できないじゃない」


「そうね、今度私が通う虹ノ森高校って、バスで行かなきゃならいのよね」

「ほら、わたしの小学校は、歩いて行くのよ!……一緒に行けないじゃない!」



 

 姉、布礼愛が論文の受賞を契機に虹ノ森高校への特別進級をすることになった。そのことが南中子にとっては、嬉しいことでもあり、少し離れてしまったような寂しいことでもあった。




「そうね~、それは仕方のないことなの。

 でもね、今度はナッちゃんに、勉強も教えてあげるわ!……今までより一緒にいられるわよ。ナッちゃんも、もうすぐ3年生になるんだから、頑張らないとね!」


 小学2年の妹に寂しい思いをさせないようにと気を使う姉であった。ところが、妹はお姉ちゃんに、違うお願いをしてきたのだった。



「お姉ちゃん、勉強はいいの……わたし、お姉ちゃんの研究が知りたい。わたしは、お姉ちゃんと一緒に研究がしたいの!だから、お姉ちゃんの研究を教えて!」



「………………そう…………うん、分かったわ、ナッちゃん!一緒にやりましょう」


「ありがとう、お姉ちゃん。わたし、頑張るからね!」



 それから、姉は自分の論文のこと、高校へ入ってからの研究のこと、すべてを優しく丁寧に妹へ伝えていった。

 もちろん、高校の研究室に入ってから考えた“温暖化ウィルス説”の元になる研究も伝えた。そればかりではなく、このウィルス説をどうすれば証明できるかの道筋も伝えていたのである。



「お姉ちゃん、この“平均気温”の“平均”って、何のこと?」


 小学2年生の南中子にとって、気象現象の言葉や仮説立証のための考え方は、並大抵の難しさではなかった。

 それでも、姉は根気強く、しかも丁寧に優しく教えて行った。



 もちろん、南中子の努力も凄まじかった。

 学校の教科書は自分で読んで先の学年まで進んで勉強した。自分より上の学年の教科書は、すべて姉が使ったものを活用した。姉が書き留めたノートも残っていたので、自分の勉強の役に立てようと、真似して書き写したりもした。


 難しい本もたくさん読んだ。

 小学生のうちに、学校図書館にある気象や自然に関する本は、すべて読みつくしてしまった。










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(そう言えば、わたしは、姉の特別進級を聞いた時、ふと、こんな質問をしたんだ)

「お姉ちゃん、新しい高校へ行くから、今までの友達とは会えなくなるよね。寂しくない?」


「うーん、寂しいかな~…………でもね、私にはやらなければならないことができたのよ。

 わたしね、一人でも頑張る!

 …………そして、あなた達が幸せに暮らしていける地球を取り戻すわ!

 ……………あ、でもね今度の高校にはね、私と同じ特別進級の子が来るんだって。夏野君っていったかな。

 私ね、とっても楽しみなのよ!えへっ!」



「ふーん、頑張ってね、お姉ちゃん!

 ……(楽しそうに話してくれた姉だったんだけど、なんとなく顔を見ていると、無理をしているような、頑張り過ぎているような…………


 …………なんか悲しい気持ちになって、涙が出たんだ。

でも、涙なんかお姉ちゃんに悪いと思って、私はすぐにお姉ちゃんから離れて、一人でお風呂に入った)」




▲▽▲▽▲▽▲▽現在の上杉家……


「(あの時、あんな涙を流したから、わたしは頑張って…………

 お姉ちゃんの頑張りに負けないように頑張って…………

 勉強を続けたのかもしれない)


 ……そう、わたしは泣いている場合じゃないんだわ」




(つづく)

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