第39話 共同作業へ

==これは、地球を救うヒーロー達の日常に密着した物語である==



▲▽▲▽▲▽▲▽10年前の夏野太陽……


 夏野は、初めの頃、研究室での会話はほとんどしなかった。しないというより、緊張のため自分から話し掛けられなかったのである。布礼愛に対して。


 それでも、布礼愛はそんな夏野のことをよく気に掛けていた。同じ歳なのに、どう見ても夏野が弟のような感じに見えた。(これは、後にウィルスから解放された厚着校長が感想として漏らしていた)



「夏野君、一緒に学食へ行ってお昼ご飯食べましょう!」

「夏野君、今日は体育の授業に出てみない?バスケットボールだって!」

「夏野君、図書室に一緒に本を借りに行きましょ!」

「夏野君、一緒に帰りましょ!」

 ・・・・・・・・・・・・・・・など、ただ、返事はいつも


「……うん。……ああ。……はい。」

 だけっだった。



 夏野は、布礼愛が嫌いな訳ではなかった。むしろ、大好きだった。

 …………だから、話せなかった!



 それでも布礼愛は、いつも笑顔で夏野に話し掛け、夏野を誘い、夏野と一緒に過ごした。



 夏野が、最初に布礼愛に話し掛けたのは、半年もたってからだった。

 冬だというのに、その日も暑かった。

 朝、学校へ行くと研究室の冷水ミストが故障していたのだ。

 午前中は、選択している授業は無く研究室の作業を予定したが、ちっとも捗らない。2人とも研究室での作業は無理と考え、手を止めてただひたすら暑さに耐えていた。

 そんな時、夏野はいきなりどこかへ飛び出して行った。



 暫くして夏野は、ハンドスプレーを持ち帰ってきた。中には、氷と冷たい水が入っている。


「……布礼愛さん?……この冷水、掛けてもいいですか?」

 目の前に、右手のスプレーを差し出した。


「ええ、お願いします」

 布礼愛は、ニッコリ微笑んで夏野にお願いした。


「…………気持ちいいわああ………あたしも掛けてあげるわ!貸していただける?」


「あ、はい……どうぞ……」


 夏野は、その時のことを今でも“天に上る気持ちだった”と話すことがある。




 それからだ。夏野が少しずつ話をするようになったのは。








「……布礼愛さんの論文は、最優秀賞でしたよね……どんな内容なんですか?」


 ようやく1年も過ぎようとしていた時、初めて夏野は論文のことを訪ねた。


 というのも、夏野と布礼愛は、特別進級のため日常の授業は選択で受けている。学年や教科を問わず、自分の研究の為になると思えば、何を選択してもいいことになっている。


 だから、ほとんど学校にいても、二人は同じ授業は受けていない。

 時々、布礼愛が気を利かせて、夏野を同じ授業に誘った時だけは、同じ教室で授業を受けるのである。




 2人が研究室に来るのは、大抵は放課後の時間であった。ただ、次第に2人が話せるようになってからは、研究室にいることの方が多くなってきた。


「わたしの論文は、地球温暖化の原因についてまとめたのよ。

 ……検証方法はいろいろあるんだけど、一番の原因はウィルスじゃないかと思っているの。

 人間もウィルスに侵されると、発熱するでしょう!……地球規模ぐらいになると、その発熱期間がとてつもなく長くなると予想したの!

 そして、そのウィルスを退治すれば、地球の熱も冷めるんじゃないかと考えたのよ」



「す、すごいですね!……ボクのは、単なる発明品についての論文だ。しかも、この温暖化を認めたうえでの単なる対策品だもんなあ」


 夏野は、自分の論文に引け目を感じているようだった。それでも、布礼愛を羨むとか、妬むとかは決してしなかった。






 それどころか、次第に夏野は全面的に布礼愛を手伝うようになった。2人の研究は、すべて地球の温暖化を止める方法に集約していったのである。





(つづく)

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