第7話 ピクルス事件
料理長の協力を得る事ができた。こんなに心強い事はない。
まずはいきなり献立をガラッと変える事はできないから、数品だけ私が考えた物をお出しして見ようという事になった。
「う〜ん、悩むなぁ」
いつもの食事にも合う物で健康面を改善できる物。
しばらく考えて、いくつか思い付いたので料理長に相談すると、あっさりオッケーを貰った。そして試作を行い二人で味見を繰り返す。
「よし! 明日お出ししてみよう」
「はい!」
仕込みは準備万端! 明日いくつかお出しして、その中から陛下が1つでも気に入ってもらえたなら嬉しいな。少しワクワクした気持ちで、眠りについた。
だけど、結局陛下にお出しする事は出来なくなってしまった。次の日、厨房に行くと、私の仕込み食材だけゴミ箱に捨てられていたのだ。
……なんで? 誰がこんな事を。
私が唖然としている横で、料理長は冷静に口を開いた。
「カンナ、今は犯人探しをする時間はねぇ。もう陛下にはお前の料理を出すと言ってしまった。今更、取り消せない。急いで、何か考えろ!」
「マジですか……」
……どうしよう。陛下には野菜を沢山食べて欲しくて、野菜料理をいくつも準備していた。それを今日出すつもりだったのに。しかも保管庫に行って確認したが、もうあまり野菜は残っていなかった。
「どうしよう、他に何か食材残ってないかな……」
厨房内の食材を探し回ったけれど、いい食材は見つからない。
「…………あ」
その時、1つの物が脳裏に浮かんだ。
「あ、あれなら、陛下にお出しできる」
私は料理長に了承をもらい、それの準備をした。
食事の時間になり、侍女がその一品を運んで行くのを流し場で皿を洗いながら何度もチラ見する。
緊張する。陛下は好き嫌いは無いそうだが、食べてくれるだろうか。
30分後、片付けや仕込みでバタバタしている中、何やら厨房の外が騒がしくなった。窓から覗いて見ると、衛兵達が厨房の入り口にいた。
一体どうしたのだろう。
そして衛兵の一人が厨房に入ってくると声を張り上げた。
「料理長とカンナという女はいるか? 食事の事で大臣からお呼び出しだ!」
「えぇ!」
…………とっても行きたくないんですけど。
料理長をチラッと見ると、溜息付いてました。絶対に私のせいだ、ごめんなさい!!
私と料理長は、陛下や大臣達がいつも食事している大広間に連れて行かれた。到着すると陛下はいなかったが、代わりに顔を真っ赤にして怒って近づいて来るおじさんがいた。
「お前だな! こんな貧相な物を出したのは! 我々を馬鹿にしているのか?」
その人は私が作った一品を指差した。
ひどいなぁ、貧相だなんて。
「それはピクルスです」
「は?」
「ですから、ピクルスです。野菜を酢で漬けた物でとても身体にいいのですよ」
私がにっこり営業スマイルをして答えたが、余計に怒らせてしまった。
「ふざけるな! 今すぐ破棄しろ、こんな見っともない食べ物初めて見たわ! 今すぐだ」
「お言葉ですが大臣、これはカンナが陛下のお身体を考えてお出しした物です。陛下もご理解されるかと思います」
料理長がすかさずフォローしてくれる。でも大臣は怒りが収まらないようだ。
実はこのピクルスは、昨日余った野菜を捨てるのが勿体無くて、自分用に作った物なのだ。まさか、陛下にお出しするとは思わなかったけど……それでも、味は美味しいんだけどな。
でも味なんて、このおじさんには関係ない。なぜなら野菜は安くて簡単に手に入る庶民の食べ物だから。
一方貴族は普段野菜をほとんど食べない。平民がなかなか食べれない肉や魚を食べるのだ。
私にはさっぱり理解できないが、ようは貴族のプライドを私がぶち壊してしまったから怒っているのだ。まぁ怒るのは当然と言えば当然か。
私が何と返答しようか考えていると、大臣は衛兵達に向かって叫んだ。
「こいつらを地下牢に連れていけ!」
「えぇぇぇぇぇ!!」
でた! 地下牢! 勘弁してくれぇぇ! ピクルス出しただけなのに〜!
衛兵の人達も微妙な顔をしているが、仕事だと気持ちを切り替えたのか、私と料理長に近づいて来た。
「何の騒ぎだ」
遠くから低く澄んだ声が響いた。
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