第6話 寺子屋

「寺子屋……ああ、こっちで言うところの学校か。そこに通えば良いんじゃないかって事か?」

「その通り! 都から先生は一人来てるけど、中々教えるのが大変みたいでさ。だから、ハルが早く勉強を覚えて俺達に先生の代わりとして教えてくれたら先生も助かるだろうし、俺達も早く勉強を覚えられて良いと思うんだ」

「なるほど……」



 たしかに歳が近い教師がいれば生徒の気持ちには沿いやすいし、俺も他の奴と話しながらこの世界について学びやすい。真樹の考えは結構Win-Winかもしれないな。



「けど、そんなすぐに通える物なのか? まずその先生に話を通す必要はあるだろうし」

「それは昼飯の後すぐに行けば良いって。それに、手習草紙《てならいぞうし》ならまだ家にあるし、それ使えば良いからな。都とか他の町から新しい奴が来るなんて良くあることだし」

「それなら良いけどさ。因みに、寺子屋に通ってる生徒の数ってどのくらいなんだ?」

「10人足らずだ。俺と紅珠を含めてだから……今は他に7人くらいじゃないかな?」

「それなら覚えやすそうだ。先生は一人だけなのか?」



 真樹は笑いながら頷く。



「そうだ。天風あまかぜっていう妖狐の先生なんだけど、前に都でも寺子屋の先生をしてたらしくて、教え方も上手いのかすごく覚えやすいし、俺達に対しても優しく接してくれるから俺も紅珠も先生の事は大好きだ」

「それに加えて、月に一回各家庭を訪問してくれる先生だから私達も大した先生だと思っているよ。まあこういう人数の少ないところだからこそ出来る事だとは思うけどね」

「そうですね」



 俺がいた世界でも家庭訪問というのはあった。そしてその際に先生はウチの家庭が少し変だという事は感じていたようだけど、流石に家庭内の話には深くまで首を突っ込めないから何かあったら話をしてくれと言われていた。


 それだけ家庭訪問というのはやっぱり必要だし、それを月に一回という短いスパンでしっかりとしてくれる天風先生は本当に良い人なんだろう。



「それじゃあ寺子屋には行ってみるとして……天風先生はいつでもいるのか?」

「いるはずだ。寺子屋は天風先生の家と繋がってて、今日みたいに休みの日は一人で掃除をしてるみたいだからな」

「なるほど、普通の学校というよりは個人経営の塾みたいな感じか。けど、月に一回家庭訪問をして、休みの日には寺子屋の掃除をしてるならいつ自分の時間を作ってるんだろうな? 寺子屋の時以外で天風先生の姿って見た事あるか?」



 真樹と紅珠は首を横に振る。



「ないな」

「わ、私もない、です……」

「そっか……」

「まあ流石に自分の時間くらい作ってるだろうし、何か相談されたら俺達も考えれば良いんじゃないか?」

「……それもそうだな。よし、それじゃあ寺子屋に行って天風先生に挨拶をするためにもまずはしっかり食べるか」



 ご飯が盛られた茶碗と箸を持って再び食べ始めると、それを見た真紅さんはクスクス笑った。



「本当に子供が一人増えたようですね」

「その場合、俺が兄貴でハルが弟だからな。まあもっと大きくなってハルと紅珠がねんごろな関係になったら本当に兄弟になるわけだけどな」

「お、お兄ちゃん……!」

「……真樹って本当にそういうのに抵抗ないんだな。俺はまだ出会って全然時間経ってない奴なんだぞ?」

「そうだな。けど、紅珠が別に怖がってないからな」

「怖がるって?」



 俺の疑問に対して真樹は頷いてから答える。



「紅珠は内気な上に人見知りが酷くて、同性であっても慣れてない奴とは本当に話も出来ないし、異性なんてそもそも顔を見る事も出来ないんだ」

「けど、俺はそうじゃなかった、と」

「そういう事だ。だから、ハルさえ良かったら紅珠とは本当に仲良くなってもらいたい。こういう変わった兄妹的な関係でもそうだけど、異性としてもな」

「真樹……紅珠は良いのか? 真樹はこう言ってるけど」



 紅珠は顔を少し赤くしながら頷いた。



「は、ハル君だったらたぶん大丈夫だと思う……私も不思議なんだけど、ハル君相手だとあまり恥ずかしくないっていうか……」

「そっか。まあそういう事なら仲良くしていこう。俺もここに住まわせてもらう以上は全員と仲良くしたいし、していくつもりだからさ」

「う、うん……」

「もちろん、俺とも仲良くしてくれよな!」

「もちろん。皆さん、改めてこれからよろしくお願いします」



 頭を下げてから言うと、紅珠以外は微笑みながら頷き、紅珠は少し恥ずかしそうにコクコクと頷いた。


 突然の出会いが二つ重なったけれど、その出会いは決して悪いものではなく、シンが言っていたようにこれからの俺の価値観を変えそうな物ばかりだった。だからこそ、この出会いを大切にしよう。この出会いはきっと価値観だけじゃなく未来だって大きく変えてくれるはずだから。



 そう思った後、俺は真樹達と寺子屋に行くために再び昼ご飯を食べ始めた。

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