第3話 珠樹との出会い

「おう、旅の旦那じゃねぇか! 今度、ウチの店寄っていってくれよ!」

「ああ、また今度な」

「黒眼鏡の兄さんじゃないか! 珍しいのを連れてるけど、どっかで拾ってきたのかい?」

「旅先でな。まあ、近い内に話すさ」



 歩いている最中、シンは町人達からそんな風に話しかけられていた。



「色々な呼ばれ方されてるけど、ここの人にも名前は話してないのか?」

「ああ、これから会う知り合いくらいなもんだ。けど、別に困らねぇしどうでも良いけどな」

「困らないのもおかしい気はするけど……そういえば、旅の旦那って呼ばれてたけど、シンは旅人なのか?」

「旅人って言うかは、毎日やる事がないからフラフラしてるってだけだ。だから、こんな事も出来るんだぜ?」



 そう言うと、シンはニヤリと笑いながら指先に火を点してみせた。



「えっ、それ本物の火なのか!?」

「本物だ。お前の世界にも行ったように俺の旅先は色々な世界なんだ。だから、魔法も使えるようになって魔導書も召喚出来るし、妖術や霊能力だって使える。ハル、お前も覚えたいか?」

「お、覚えてみたい……!」

「それじゃあまた今度だな。魔力や霊力は誰でも持ってる物だが、それを扱えるかは人それぞれで、素養があるかどうかだしな。それを測るのにも少し準備が必要なんだよ」

「あ、ああ……!」



 目の前で本物の魔法を見せられて俺は珍しく興奮していた。妖もそうだが、魔法も物語の中にしか無いと思っていた物だからこそ実在するという事に嬉しさとわくわくを感じていたのだ。



「妖もいて魔法もある……それじゃあ神っていうのもいるのか?」

「……神、か。まあいる事はいるが、そんなに良いもんでもないぞ」

「そうなのか?」

「そうだろ? 神がいてソイツらが良い奴ならお前は自分が嫌いな家族なんかと暮らしてない。少なくとも、俺はそう思うけどな」

「そんなもんか……」

「そんなもんだ」



 シンは静かに言い、俺達はそのまま歩き続けた。そして数分が経った頃、一軒の家に着いた。その家はごく平凡そうな見た目の木造の家屋だったが、ここにシンが会わせたいという相手がいる事で俺は心からドキドキしていた。


 そしてシンが木の扉をトントンとノックすると、扉がゆっくりと開き、青い着流し姿の男性が姿を現した。



「なんだ、ジョウじゃないか。一体どうした……って、人間の子供……か?」

「そうだ。これからお前達一家の家族としてよろしくな、珠樹たまき

「よろしくなって……はあ、本当に突然だよな、お前って」

「そんなもんだろ、いつも俺は」

「それ、自慢出来る事じゃないって」



 珠樹さんは呆れたようにため息をつくと、俺に視線を向けた。黒い髪をいわゆるちょんまげにして青い着流しで少し華奢そうに見える体を包んだ珠樹さんは穏やかそうな雰囲気を醸し出していたが、相手が妖だと事前に知らされているからかどこか油断出来ない雰囲気も漂わせているように感じられた。



「あの……シンっていつもこうなんですか?」

「シン……? ああ、君はジョウをそう呼んでるのか。そうだよ、少なくとも私が初めて出会った時からこんな風にどこか適当で突然何らかの縁を結びつけてくるんだ」

「そのお陰でお前は結婚も出来て二人の子供にも恵まれてるんだから感謝してほしいもんだ。何だかんだで俺はお前の事を気に入ってるから柄にもない事をしてるだけだしな」

「それは感謝してるよ。それで、この子はどこから連れてきたんだ? まさかとは思うけど、人攫い紛いのような事をしてきたんじゃないだろうな?」

「しっかりと合意の上で連れてきてる。それはそうだろう」



 シンの言葉に珠樹さんは小さくため息をつく。この様子を見るに時には本当に人攫いみたいな形で誰かを連れてくる事があるのだろう。


 そんな事を考えていると、珠樹さんは優しく微笑みながらまた俺に顔を向けた。



「とりあえず中に入ってから君の話を聞かせてくれ。妻や子供達もそうしたいと思うだろうから」

「わかりました」

「おや、さっきから珠樹には敬語使うんだな、お前って」

「シンにはタメ口で十分だろ」

「同感だが……まあ良いか。とりあえず二人とも中に入ってくれ」



 珠樹さんの言葉に頷いた後、俺達は珠樹さん達の家の中へと入っていった。

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