第152話 おねショタというやつかしら

 梨央の凄惨な死を目の当たりにして、雪乃は悲しそうに目を細めた。


「……なんで、こうなっちまったんだろうな。梨央は……こんなやつじゃなかった。そりゃ強くなりたがってたけどよ、悪いやつじゃなかった。むしろ怖がりで……なにかするにも、誰かと一緒とか、後ろ盾とか、そういうのを欲しがるやつだったのに……」


 隼人も、雪乃とは少し違った表情で、横たわる梨央を見続ける。


迷宮ダンジョンに潜って強くなるうちに、抑えられてたものが溢れてきちゃったんですかね。その上、よほど大きな後ろ盾を得たのかも……。最後には、恐怖心もなくしちゃって、こんな結果に……」


 雪乃はおれたちのほうへ顔を向けた。


「なあ、梨央はこのあとどうなるんだ……?」


 その問いには丈二が答える。


「研究所で、他の魔物モンスターと同じように、解剖されるでしょうね」


「ここまで体をいじられた挙げ句に、死んでからも切り刻まれちまうんだな……」


「ええ……。そのあとは遺族へ引き渡されるでしょうが……斎川さんはそういった方を登録をされていなかったので、縁ある方を探さないといけません」


「それならよ、アタシが引き取って埋葬してやってもいいか? あいつ、家族のことだけは絶対になにも話さなかったからよ……。まあ、そういうことなんだろ」


「……わかりました。のちほど、そのように手続きしておきます」


 雪乃は頷いて、また梨央を見下ろす。


 その隣で、隼人がぽつりと呟く。


「俺もそのうち、こんな風になっちゃうんですかね……?」


「なに言ってんだよ、お前は大丈夫だろ。梨央のやつは、人の話を聞かねーで……結局のところ自業自得でこうなっちまったんだ。お前には、モンスレたちがついてるだろ。フィリアが、なんとかできるかもしれねーって言ってたじゃねーか」


「……そうっすね。それに、かわいい彼女も心配してくれますしね」


 隼人はにこりと笑う。雪乃は恥ずかしそうに、隼人を小突いた。


「バカ……」


「へへへっ、そういうわけなんで……一条先生、フィリア先生、よろしくお願いします」


 フィリアは使命感に燃え、両手で拳を握りしめて答える。


「はい、もちろんです。できる限りのことをいたします」


「なら早いほうがいい。このまま第4階層の施設に行こう」


 おれが提案すると、すぐ丈二が小さく手を上げた。


「私は地上に戻ります。斎川さんの遺体を運ぶ必要がありますし……彼女のスポンサーとやらも調査しなければなりません」


 するとロザリンデは少し残念そうに丈二を見上げる。


「それならわたしもジョージと一緒に……と言いたいところなのだけど、ハヤトの件が気になるわ。ふたりが聞いたという声も……。わたしは、こちらに残ってもいい?」


「いいですよ。どちらにせよ地上は、あなたはつらいでしょうから」


「……しばらくかかるの?」


「まだわかりませんが、できるだけ早く家に帰れるようにしますよ。それに、連絡はいつでも取れるようにしておきます」


「わかったわ。寂しいときは話し相手になってね。ただ……あんまり遅いと、衝動があるから強引に会いに行ってしまうかもしれないわ」


「そうなる前に一報していただければ、仕事を抜け出して会いに行きますよ」


 それからロザリンデはぴょんと丈二に飛びついた。丈二も、慣れた様子で抱きとめる。そっとキスをしてから、ロザリンデは丈二の腕から降りた。


「じゃあ気を付けて」


「ええ、あなたも」


 これまたごくごく自然な、まるで出勤前の夫と妻のような会話だ。


「さて。ではお手間ですが、何人かに地上まで護衛していただきた――桜井さん、なにか気になることでも?」


 雪乃は、丈二たちのやりとりをジーッと見つめていたのだった。


「あんた、ロゼの保護者って話だったけど、いつかの生配信でロゼが恋人だって言ってたほうが正しかったんだな」


「言っておきますが、ロリコンではありませんよ」


「そうは見えねーけど……梨央が言ってたみたいに、アタシもちょっとロゼの存在は不思議に思ってる。いや、隼人を助けてくれたしよ、どんなやつだろうと、べつにいいっちゃいいんだが」


「そういえば、ここにいるメンバーだと、知らないのは『花吹雪』のみんなだけか。どっちにせよ合成生物キメラの件で話さないといけないだろうし、いいよね、丈二さん?」


「ええ、話してしまいましょう。これは機密ではあるのですが――」


 おれたちは『花吹雪』の4人にも、異世界や異世界からの転移といった情報を共有した。


「へー……じゃあロゼは本当に吸血鬼で、300歳近い年の差カップルかよ」


 ロザリンデは小さく胸を張る。


「そうよ。わたしはここにいる誰よりも大人なの。ジョージとの関係は、そうね……マンガ風に言うなら、おねショタというやつかしら。ユキノとハヤトも同じね」


「全然違いますよ。年の差はあっても、私も風間さんもショタではありません」


「いやそこはどうでもいいけどよ……どおりで小さいのに強くて頼りになるわけだな」


 一方、隼人などは話を聞いている最中、ずっと感心しっぱなしだった。


「すげー……異世界の元英雄に、異世界人、吸血鬼ヴァンパイア、魔法少女に、政府のエージェント……俺、こんな凄い人たちと一緒だったんすね……」


「いや君もそこに加わるからね? そういうカテゴリー分けすると、君は変身ヒーローだからね?」


 おれの指摘に、隼人はちょっと不満そうだ。


「ヒーローっすかー……。せめて変身勇者とか、肩書に勇者って付けられません?」


 そこで紗夜が遠い目をした。


「肩書、名乗りたいのがあるなら早めに宣言したほうがいいよ……。みんな、好き勝手に呼び始めて、気がついたら定着しててどうしようもなくなるから……」


「え、紗夜先輩、魔法少女の肩書、嫌なんすか? あんなノリノリで、似合ってるのに」


 そうした話が落ち着いてから、おれたちはメンバーを分割した。


 丈二と『武田組』と『ユイちゃんネル』の6人は地上へ。残る7人は、第4階層の深部、合成生物キメラ製造施設へ向かった。


 辿り着いたおれたちは、さっそく施設を再稼働させた。設備を利用して、フィリアが隼人の体を検査していく。


 その間、特に雪乃はやきもきしながら待っていた。おれやロザリンデは彼女の相談に乗ったりなんかもしていた。


 そして――。


「へへーっ、戻りましたよ、雪乃先生!」


「無事に検査終了いたしました。それによると――」


 フィリアが検査結果を告げようとするが、それに先んじて雪乃は隼人に叫んだ。


「は、隼人、結婚しよう!」


「はえっ!? け、結婚すか!?」


 なぜ雪乃がこんなことを言い出したのか。


 その理由は、直前に彼女から持ちかけられた相談内容にある。




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次回、なぜ雪乃がこんな思考にいたったのか!?

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