第147話 【生配信回】悪い冒険者をやっつけろ!②

「梨央、おめーがそんな体になっちまったのは、追い詰めたアタシたちにも少しは責任があるのかもしれねー。だからよ、悪いことは言わねーから、大人しくアタシたちについてきな。モンスレたちがよ、きっとなんとかしてくれる」


 梨央は不思議そうに首を傾けた。その様子はもはや人ではなく、カマキリが首をもたげるようだった。


「あたしが、この体に不満だと思ってるの? ぷっ! あひゃひゃひゃ! そんなわけないでしょ!」


 大声で笑うと、展開した顎をガチガチと鳴らす。


"うわキモい"


"あれ、マジでナマモノなんだよな……?"


"梨央って、あの闇サイトの運営で指名手配された斎川梨央か?"


"ダンジョンには人を化け物に変えるトラップまであるのか……"


"こえーよ、冒険者ならなくてよかったわ"


「そこのふたり!」


 梨央は紗夜と結衣に、獲物を狙うような視線を向ける。


「あたしが臆病者って言ってたよねえ!? あひゃひゃひゃひゃ! 残念ねえ! あたしにはもう怖いものなんてないのよ!」


 狂気じみた口ぶりに、紗夜は一歩怯む。対し、結衣は守るように前に出て盾を構える。不敵に微笑む。


「作戦成功です。誘き出し、大成功」


「そういうことだぜ、梨央。煽られて出てきた時点で、おめーの負けだよ。このメンツに、ひとりで勝てるつもりかよ?」


"紗夜ちゃんたちが煽ってたのは、最初からこのためだったのか"


"まあこの8人に勝てるやつはそういないよなぁ"


"闇サイトの元締めなんかぶっ飛ばせ!"


「バカね! あたしが乗ってあげただけなのに! モンスレさんがいないのは残念だけど……あなたたちトップ冒険者をまとめて片付けるにはいい機会よ!」


 梨央は鋭いカマの腕で、雪乃を指す。


「雪乃、あんたのせいであたしは隠れて暮らすことになった……。闇サイトも暴かれて、仲間の冒険者もたくさん捕まった……。あんたさえ、あのときあたしについてくれてれば!」


「おめーがアホな話持ちかけてくるからだろーが。だいたい、ロゼが撮ってた時点で、アタシがなんて答えようとおめーは終わってただろーがよ」


「うるさい! うるさいうるさい! あたしが考えてる迷宮ダンジョンのほうが、今よりずっともっと面白いのに! それをあなたたちが壊したんだ!」


「それはお前だろ、斎川」


 梨央の前に、吾郎が進み出てくる。


「ここを作ってきたのは、一条とオレたちだ。お前はそいつにただ乗りしてきて、今になって自分勝手に壊そうとしてるだけだろ。ふざけんじゃねえ」


「はあ? なに、あなたなんかと話してないんですけど」


「人の意見は聞きたくねえか? 小物だな。うちの若えののほうが、よほどビッグになれそうだぜ」


 梨央は不機嫌そうに、なにか言い返そうとした。が、その前に、結衣が追撃する。


「だいたい闇サイトも梨央さんの考えじゃないんでしょ。スポンサーがいるって言ってたよね? どこかの誰かさんの考えを、自分の考えだと勘違いしてない? それで黒幕になったつもりだった? 格好悪ぅ……」


 さらに紗夜も口を開く。


「この迷宮ダンジョンは、あたしたちが悩んで、迷って、考えて、やっと見つけた大切な居場所なんです! 人の考えを自分の考えと勘違いしてるようなあなたに、壊されてたまるもんですか!」


"みんなよく言った!"


"なんだろう、最近、こういう真剣な言葉を聞くと涙が出てくるんだ。歳かなぁ"


「あぁあ! もういいもういい! どうせやり直すから! あなたたちは全員消える、あたしが消す! それからモンスレたちも消す! そしたらあたしの思うがままなんだから!」


 叫ぶやいなや、梨央が踏み込んできた。


 ほとんど瞬間的に、吾郎のパーティメンバーである秀樹と孝太郎が薙ぎ倒されていた。


 決して油断していたわけではない。武器も構え、臨戦態勢だった。なのに、ろくに反応もできぬまま沈んだ。


"!?"


"なにが起こった"


"え、斬られた? え、一瞬で?"


 倒れたふたりは、カマに切り裂かれたらしい。血溜まりがどんどん広がっていく。


「散れぇえ! こいつぁヤベえぞ!」


 吾郎の咄嗟の怒号で、全員が一旦散開する。


 吾郎は防御を固めて倒れた仲間に走る。


 すぐ梨央が立ち塞がる。梨央は普通の腕に加えて、カマの腕がある。吾郎は懸命に斬り結ぶが、さすがに4本腕の手数には対処しきれない。ぎりぎりで致命傷だけは避けるが、すぐにボロボロになっていく。


 そこに遅れて結衣も突っ込む。盾を構えての体当たりだ。


 梨央は余裕のある動きでステップを踏んで回避。


 その着地点を、紗夜が狙っていた。変身魔法で強化した弓で放った強烈な一矢は、見事、梨央の胸部を貫通した。


 その隙に、吾郎は倒れたふたりの介抱に向かう。止血だけでもしようと素早く応急処置。


 一方、梨央の傷口はすぐ塞がってしまう。


"再生した!?"


"心臓だろ!? いくらなんでも死ぬだろ普通!"


"マジもんの化け物じゃねーか!"


"いやでも、紗夜ちゃんが殺人しなくてよかった……"


"あれ、まだ人か?"


"こんな化け物でも、殺したら殺人になんの?"


"ゆきのんはどうした? カメラの人も離れてくけど!?"


 吾郎たちが抑えていた隙に、雪乃たちは三方から梨央を包囲した。


 ふたりのメンバーが、土系と氷系の魔法を発動させる。梨央の足に土や石が張り付き、さらにそれらが凍って動きを封じる。


 雪乃は右手に剣を構え、左手で炎の魔法を発動させた。そしてその炎を剣に纏わせ、梨央を目指して突進する。


 火蜥蜴サラマンダー退治の際に露見した『花吹雪』の火力不足を補うため習得した魔法剣だ。


「梨央、てめー、これで止めてやる!」


「ばーか」


 瞬間、梨央はカマの両腕を振るった。なにかが高速で飛翔する。雪乃は反応できなかった。


「あがっ!」


「えぐっ!?」


 その声に思わず振り返ると、魔法で足止めしていたふたりにカマが突き刺さっていた。梨央が自らの腕を切って飛ばしたのだ。


 術者が倒れて魔法が解ける。拘束から逃れた梨央は、素早く普通の腕で雪乃に拳を打ちつける。


「がはっ!?」


 重い一撃を受け、雪乃は弾かれ、壁に叩きつけられる。


「あひゃひゃひゃ! 最高! やっぱ暴力よ、この世は暴力!」


 カメラ係が倒れてしまい、生配信の画面には地面と一部の足元しか見えなくなる。


 そして雪乃や紗夜、結衣、吾郎たちの悲鳴ばかりが配信される。


"ちょっと、これヤバくない!? ヤバイよね!?"


"モンスレさん! モンスレさんはまだ!?"


"モンスレさん、早く来てくれー!!!"


 そのとき、カメラ外から何者かの足が進入してくる。


"ん!? 誰だ? 誰が来たんだ!?"


"モンスレさんが間に合ってくれたのか!?"




------------------------------------------------------------------------------------------------





雪乃たちのピンチに駆けつけたのは一体!?

ご期待いただけておりましたら、ぜひぜひ★★★評価と作品フォローで応援ください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る