第77話 甘い血液をすするほどに
「でもよ、なんで二手に別れる必要があるんだ? 戦力は集中させといたほうが良くねえか?」
吾郎の質問はもっともだ。おれはきちんと説明することにする。
「上級吸血鬼を倒すには
「なるほどな。集めるにしても、使うにしても、別行動が必要になるわけか」
「モンスレさん、どんな作戦……ですか?」
「大筋は簡単だよ。加工した
丈二は少し考えてから、問いかけてきた。
「なぜ
「上級吸血鬼の体は、
「霧になるように、ですか?」
「その通り。でも、自分の意志で霧になるのとは違って、
「そこで魔力石の出番ですか?」
「いやまだ早い。人の形が維持できなくなるまで追撃しなきゃならない。そしたら
吾郎はふんっ、と鼻を鳴らした。
「大筋だけなら、本当に簡単だな。
「地上でなら、魔力石で吹っ飛ばす必要もないんだけどね……」
それが地上でなら、その
そうなれば
けれど今回、おれたちは
ここで爆散させても数日――下手したら数時間で、
脅威を確実に排除するには、完全消滅させる必要がある。
「その役目は、おれにしかできない。魔力石集めもおれが担当するよ」
補足説明のあと、おれはそう宣言した。
結衣が強い眼差しでおれを見上げる。
「なら……ユイも、一緒にやります。紗夜ちゃんを、助けるためにも……少しでも強くなっておきたいから……!」
「ひたすら
「覚悟の上、です!」
「わかった。一緒にやろう」
おれは結衣に頷いてみせてから、続いて丈二に目を向ける。
「丈二さんと吾郎さんは、
「承ります。が、
「それはミリアムさんに話をつけてある。鍛冶場も貸してくれる約束だ。本人の手は借りられないけど、リモートで作り方は教えてくれるはずだよ」
「なら作業はオレがやってやる。短いが、金属加工業にいたこともある。DIYも得意だ」
「よろしく、吾郎さん。ただ、くれぐれもミリアムさんに
「なんでだ?」
ミリアムが
すると丈二が代わりに答えてくれる。
「彼女はちょっと特殊な金属アレルギーなんです。下手をすると命に関わるので」
「ふぅん、それでリモートか。わかった」
「よし、話は決まったね?
◇
紗夜の意識は、過去にあった。
――お姉ちゃん……。
姉は優等生だった。
両親の期待にいつだって応えていた。紗夜にはいつも優しかった。
そんな姉に近づきたくて努力した。結果が出たときには、姉はいつも大袈裟なくらい喜んで褒めてくれていた。
そんなささやかな幸せな日々は、姉の事故死で、すべてが変わってしまった。
「どうしてこんなこともできないの? あの子なら、簡単にできたのに」
テストがあれば、満点に足りない分だけ母に殴られた。
「なんだ……3位か。意味がないな」
部活の大会で入賞しても、父は無関心だった。
姉を失った悲しみから、両親が姉を見続けているのはわかっていた。
紗夜は姉ほど優秀ではなかったが、それでも認められるように努力した。
テストで満点を取れば殴られない。大会で優勝すれば褒めてくれる。そして両親は、姉だけじゃなく、自分もいるということを思い出してくれるはずだ、と。
でもそれは間違いだった。
「あの子が同じだけ努力をしたなら、もっとすごい結果だったはずだわ」
「なんであの子なんだ。紗夜ではなく、なんであの子が……」
高校卒業を前にして、紗夜は反抗を試みた。独断で資格を取り、卒業後の進路に危険な冒険者を志望したのだ。
両親が止めてくれることを期待していた。それは叶わなかった。
母は好きにしろと言った。父は無言だった。
――お姉ちゃん……。会いたいよ。一緒にいてよ。前みたいに、家族一緒に……。
「そうか、つらかったね紗夜……」
――お姉ちゃん?
「いいよ。一緒にいてあげる」
――本当に? 本当に、一緒なの?
「そうだよ。だからもう苦しまなくていい。私にすべてを委ねて、家族になろう。昨日までの紗夜にさよならをしよう」
――うん、お姉ちゃん!
◇
上級吸血鬼ダスティンは、紗夜の顔から邪魔なメガネを外して捨てた。
無感情にメガネを踏み潰し、紗夜の首筋に鋭い牙を突き立てる。
甘い血液をすするほどに、紗夜の心はダスティンの物になっていった。
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読んでいただきありがとうございます!
果たして紗夜の運命は? そして、フィリアは今? 次回もご期待いただけておりましたら、ぜひぜひ★★★評価と作品フォローで応援ください!
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