第67話 フレイムチキンのとろとろ卵炒め

 おれは作業するフィリアの様子を横目で見つつ、血抜きを終えたフレイムチキンを下ろした。焼け残った羽根をむしる作業に入る。


 羽根をむしったら、肉をさばく。基本的に、普通のニワトリをさばくのと変わりない。やたらと大きいだけだ。


 今回はもも肉を食べやすい大きさに切り分け、塩と胡椒と味付けしておく。


 さらにフレイムチキンの巣に残っていた卵――おそらく無精卵を持ってくる。普通のニワトリの数倍の大きさだが、味はさほど変わらない。


 卵をボウルに割って素早く溶く。そんなところで、フィリアの作業も終わったようだ。


「できましたっ。こんな感じになりましたよ」


 フィリアがスキレットの裏面に書いてくれたのは、なにかの魔力回路らしい。


「魔力石を地面に置いてみてください」


 その言葉に従うと、フィリアはその上にスキレットを乗せた。


「これで魔力回路が発動します。スキレット自体が発熱するようになりました」


 フィリアの言うとおり、スキレットはどんどん熱くなっていく。


「おお、これなら火おこしをしなくて済むし、薪や炭も用意する必要がないね。地味だけど、すごく便利だ。ありがとう!」


「はい、ぜひお役に立ててくださいませ」


「うん、さっそく使ってみるよ」


「火力調整はできないので、焼き過ぎにはご注意を」


「オーケー。焚き火でやるときもそうだし、むしろ火力が一定なだけありがたいな」


 さっそく熱されたスキレットに油を引き、溶いた卵を流し込む。軽くかき混ぜ、半熟の状態で一旦、皿に出す。


 今度は鶏肉を焼いていく。充分に火が通ったら、半熟状態の卵を再びスキレットへ。ささっと素早く肉に絡ませる。


 そこでスキレットを魔力石から離して味見。足りない味を調味料で整えて完成。


 フレイムチキンのとろとろ卵炒めだ。


「できたよー。ふたりとも召し上がれー」


 お皿に盛り付けて、ふたりに差し出す。


「これは美味しそうですね」


「はい、タクト様のお料理はいつも美味しくて助かっております」


「割と適当なレシピで作ってるけど、気に入ってくれてるなら嬉しいよ」


 おれは丈二とカメラ係を交代して、ふたりの食事風景を撮影する。


「おお、半熟の卵がとろりと鶏肉に絡んでいるのがいいですね」


「お肉もジューシーで……シンプルな味付けが、素材の味を引き立てております」


「ええ、エッジラビットやミュータスリザードのような馴染みの薄い味に比べて、これはまさに鶏肉――しかも相当に上質です。いや、本当に美味しい」


「タクト様はきっと良いお婿さんになられます」


「よしてよ褒め過ぎだよ。普段の料理はフィリアさんも上手なんだしさ、おれがいいお婿になるなら、フィリアさんはいいお嫁さんになるよ」


「うふふっ、そうでしたら嬉しいです」


「あははっ、おれが保証するよ」


 そんなところで撮影を終えて、おれも食事を始める。


 なぜか丈二の目が据わっていた。おれとフィリアを交互に見比べている。


「どうやら、私はお邪魔でしたようですね?」


「なに言ってんの丈二さん?」


「そうです、津田様。せっかくパーティメンバーになられた方を邪魔に思うことなんてありません」


「私も最近は勉強しているので、なんとなく察せるようになってきたのですが……」


 と、丈二はおれに耳打ちする。


「おふたりは本当に恋人同士ではないのですか? そうにしか見えないのですが」


「そ、そう? そう見える? あはは、それなら嬉しいんだけど、まあ……どうなるかは今後の計画次第かな~」


 丈二の声が聞こえていなかったフィリアは、首を傾げる。


「なんの計画ですか?」


「えっと……なんでもないよ?」


「まあ、わたくしだけ仲間外れになさるのですか?」


 少しばかり、ぷくー、と頬を膨らませる。


「拗ねないでよー。えっと、あれだよ、あれ。そう! 丈二さんの、魔法学習計画だよっ」


「えっ、私の?」


「そういえば、テキストの魔法は早く網羅したいと仰っておりましたね。では休憩の間、わたくしたちふたりでレクチャーして差し上げましょう」


「それは助かりますが……一条さん?」


「いいんだ、そういうことにしとこう」


 食事後の休憩の間、おれたちは疲れない程度に丈二に魔法を講義して過ごした。



   ◇



 おれたちはフレイムチキンの巣を一時拠点として、周辺を探索した。


 発見した川を調査した結果、飲み水として問題なく使えることも分かった。


 それまでに遭遇した魔物モンスターは数種類。


 無害なものを除けば、猪や蛇の魔物モンスターが主だ。他にも水場にはカエル、水中にはトビウオの魔物モンスターもいた。


 それらの危険性と攻略法、そして食用できるか否かは、野営時にでも記録することにして、さらに先へ。


 第2階層は明るいとはいえ、やはり地上とは違う。明かりは常に一定で、時間が進んでも暗くなることはないらしい。


 そろそろ休もうと、野営に適した場所を探して小一時間。ちょうど良さそうな場所を、丈二が見つけてくれた。


 森の一画にある、岩肌の見える低い丘だった。


「いかがでしょう? 理由はわかりませんが、魔物モンスターも寄り付いてこないのです」


「もっと恐ろしい魔物モンスターの縄張り……というわけでもなさそうです。魔物モンスターの足跡ひとつありません」


 フィリアの表情は少し暗い。森の探索は不慣れで疲れたのかもしれない。


「もう少し調べて、安全そうならここで野営しよう」


 おれはフィリアを早く休ませてあげたくて、素早く周辺を調べた。しかし岩肌に鉱脈がある以外に変わった点はなかった。まさに安全そのもの。


「うん……平気そうだ。今日はここで野営をしよう。おれも疲れちゃったよ。なんか荷物が重くって」


 おれは丘の岩肌を背にして荷物を下ろす。


「は、い……」


 フィリアも荷物を下ろそうと――いや、下ろせなかった。


 苦しそうに表情を歪め、その場に膝をついてしまう。


「フィリアさん!? どうしたの!?」


 おれはすぐ駆け寄った。周囲からの見えない攻撃かと警戒して武器を抜く。丈二もおれに追随して、死角をカバーする位置で武器を取った。


「す、すみません。この辺りに来てから、体調が急に悪くなってきまして……」


「症状は?」


「全身に力が入りづらく……意識が、だんだんと遠のくような……。前にも、こんなことがあったよう、な、気がしま……す」


「前にも……?」


 その瞬間、おれの中で点と点が繋がった。


 フィリアたち異世界リンガブルーム人の体質。そして、岩肌の鉱脈。


「しまった。封魔銀ディマナントか!」


 希少金属の封魔銀ディマナント、それがフィリアの体調不良の原因だ。




------------------------------------------------------------------------------------------------





お読みいただきありがとうございます!

「とろとろ卵炒めが美味しそう!」とか「封魔銀ディマナントってなに? フィリアさんどうなっちゃうの?」とか、楽しんでいただけておりましたら、ぜひぜひ★★★評価と作品フォローで応援ください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る