第68話 封魔銀
「
「丈二さん、説明はあとだ。一旦ここを離れよう。フィリアさんはおれが抱いていく。そっちは荷物を頼むよ」
「わかりました」
おれの声で緊急事態だと理解してくれたらしい。丈二はフィリアの荷物を両手に抱える。
おれは自分の荷物を背負い、フィリアの背中と膝裏に腕を回して持ち上げた。
……重い。
いやフィリアが太ってるわけじゃない。いつも通りスレンダーで綺麗だ。
やはり
鉱脈から離れるほどに力が戻ってくる。それは丈二も同じらしく、おれたちはどんどん早足になっていった。
適当な大木の根本で足を止め、フィリアを寝かせる。
いつしか意識を失っていたフィリアだったが、やがて目を覚ました。
「タクト様、津田様、ご迷惑をおかけしてしまいました」
「そんなことより体の調子はどう?」
「はい、不思議なくらい元気になっております」
両手をぐっと握って元気さをアピールしてくれる。この分なら大丈夫そうだ。
丈二はせっせと薪の用意をしてくれている。
「むぅん……イグナイト!」
さっそく覚えた着火魔法を活用して、焚き火を起こす。
大抵の
なんの対策もなく休むよりは、ずいぶん安全になったろう。
フィリアは自分の体をきょろきょろと確認する。
「しかし、先ほどの不調はいったい……?」
「
「あ……。はい。確かにあの時と同じ感覚でした。しかし、なぜここで……?」
「私と一条さんも
「ディマナントだよ。別名、
「封魔……。なるほど、
「そういうこと。正確には、
「ですがタクト様、
「いや、たぶん普通のやつだよ。第2階層は第1階層より
「それで我々は強化を失い、フィリアさんは意識を……」
「
「いや、案外悪くない賭けだよ。あれに近づけば弱体化……下手したら死ぬって
「しかし、縄張り意識の強い
「襲われるね。生きて帰れる保証はない。だからあくまでも賭けだ」
「少なくとも、試すのはフィリアさんのいないときにすべきですね」
「そうしていただけると助かります。主に、わたくしの命が」
冗談めかして言うフィリアに、おれも丈二も顔をほころばせた。
それから丈二は鉱脈のあった方向へ目を向ける。
「しかし日本人だけのパーティなら、
「あくまで緊急用と考えたほうがいいと思うな。いくら休んでも魔力は回復しないし、その場から離れても、
「逆に考えれば、絶望的な状況に陥っても、避難先にはなりますね。そして、あえて
「うん、結局は使い方だ。おれたちは情報をしっかり伝えて、どう使うかはみんなの判断に任せるのがいいと思う」
その後、おれたちはその場で野営することにした。
夕食の材料は、余っていたフレイムチキンの肉。それとフィリアと丈二が森で採ってきてくれた果実だ。
焼いた鶏肉に、すりおろした果実を
さらにデザートに、他の種類の果実。リンゴに似たこの果実は、フィリアが綺麗に皮を剥いてくれた。ついでに、あーん、と口元に持ってきてくれたら嬉しいが、声には出さない。丈二がいなかったら、冗談のふりをして言ってたかもしれないが。
夕食後、ほどなくして就寝。
見張りは数時間ごとの交代制。焚き火を絶やさないようにしつつ、周囲の警戒を続ける役目だ。なにかあればすぐ残りのふたりを起こすことになっている。
大事を取ってフィリアは優先的に寝かせたが、最初の見張りに関しては、おれと丈二でジャンケンで決めた。
最初の見張りはおれだ。おれが最初でよかった。
「……ふたりとも起きてくれ。
すぐに丈二が目を覚ます。遅れてフィリアも、とても頑張って起き上がる。
その間に、おれはもう剣と盾を取っていた。
まだ姿は見えないが、この気配には覚えがある。
だがすぐには思い出せない。どの
火を恐れず、姿を隠す知能があり、不思議な気配を放つ……。
一致する
人間とコウモリを混ぜ合わせたような奇怪な姿。
「――
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※
次回は吸血鬼との戦いです!
どんな敵なのか、どんな戦いになるのか、ご期待いただけていましたら、ぜひぜひ★★★評価と作品フォローで応援ください!
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