第61話 パワハラじゃねえ

「えっ、ダメかなぁ?」


 こちらの提案に、吾郎は怒ってしまった。


「なんでオレが新人の面倒を見なきゃならねえんだよ」


「パーティを組んでないレベル2の人は、もう吾郎さんくらいだったから。それに結構な報酬も出る」


「確かにそこそこ魅力的な額だけどよ。オレはとっとと第2階層にリベンジしてえんだぜ? 教育係なんてやりたがると思うか?」


 おれたちの考えは、余り物になっちゃいそうな新人冒険者を、ベテランに面倒を見てもらえるように依頼を出すというものだった。


 新人には成長の機会を。ベテラン様には報酬を。そして双方とも、パーティを得る。メリットしかない妙案だと思っていたのだが、吾郎は心底嫌そうな顔だ。


「でも吾郎さん、パーティ組まなきゃ迷宮ダンジョンに入れなくなるよ。第2階層にリベンジするどころじゃない」


「ふんっ、余計なお世話だ。メンバーなら自分で見繕うぜ」


「アテがあるんなら、なんでまだ組んでないんだい?」


「……ちょっと、気が乗らねえだけだよ」


「もしかして吾郎さん……あっ、いや、なんでもない」


 友達いない? と言いかけて止めた。図星だったら可哀想だ。


「おい一条、今失礼なこと考えたろ」


「いや考えてない。それより、考えてもみてくれ。どっちにしろ第2階層への挑戦は、おれたちの先行調査が終わってからにしてもらうんだ。それまでに新人をみっちり鍛えておけば、リベンジもしやすい。しかも報酬付き。悪い話じゃないはずだ」


「オレはその先行調査ってのも気に入らねえよ。調査が必要なら好きに挑ませろ」


「そうは言うけど、この前、手痛い教訓を得たじゃないか。次は怪我じゃ済まないと言ったよ。仮に生きて帰れたとしても、また療養生活になったら、他のみんなに差をつけられることになる」


「……ちっ。くそ、お前に正論を言われるとムカつくな」


「勘弁してよ、どうしたらあんたと機嫌よく話せるんだ……」


「へっ、お前にギャフンと言わせてやったら、笑顔で茶でも淹れてやるよ」


「ギャフンとは言わないけど、今回の依頼を受けてくれたなら、あんたには借りひとつってところだけど、それじゃダメかな?」


「……まあ、天下のモンスレ様に貸しを作れるってのは、確かに面白えかもな」


「じゃあ……」


「しょうがねえ。やってやるよ」


「ありがとう、助かるよ」


「で? オレが面倒を見なきゃならねえのは、どんなやつらだよ?」


 おれは、あらかじめ話を通しておいた新人冒険者ふたりに連絡を取り、プレハブ事務所に呼び寄せた。


「えーっ、このおっさんなんすか? 俺、ビッグになりたいんで、どうせならモンスレさんと組みたいんすけど?」


 そのひとりは、髪を茶色に染めたチャラそうな青年である。


「やめといたほうがいいよ。おれは危険な仕事が多いからね。君の実力でついてきたら死んじゃうよ」


「いやいや冗談きついっすよー」


「冗談だと思うのは勝手だけど、命の保証は本当にできない」


「マジすか、パないっすね! モンスレさんマジリスペクトっす」


「言っておくけど、そこの吾郎さんも実力者だよ。おれのパーティ以外で、唯一第2階層に行った人だ。もちろん魔物モンスター除け抜きで。しかもひとりでだ」


「へーっ、そうだったんすね! なら、おっさんでいいっす! 俺、沢渡さわたり秀樹ひできっす。よろしくおなっしゃー!」


 お辞儀なのかわからないくらいの軽さで頭を下げるチャラ男である。


 吾郎は顔が引きつっていた。


「あ、すいません。ぼくもよろしくお願いします」


 もう一方の新人は、無口……というより無気力そうな青年だ。


城島じょうじま孝太郎こうたろうです。ぼくはあんまり高望みしないんで。テキトーに素材でも取って、そこそこの収入あればいいです。あ、でも、上下関係とか嫌でここまで来たんで、そこは配慮して欲しいです」


 吾郎はいよいよ大きく息をついた。


「なあ一条、やっぱ断っていいか?」


 そう言うのも無理はない。この新人ふたりは、性格に若干の難ありだ。


 しかも能力値は、バランスよく低い。せめてなにか特化していたり、あるいはバランス良く高ければ、マッチングするパーティもあったのだが、これではどこも欲しがらない。


「ダメ。報酬は、それを見込んでの額だよ」


「くそ……。やるって言ったからには、しょうがねえか……」


「なにかあったら相談には乗るからさ」


「ったく。ずいぶん面倒見がいいじゃねえか」


「ま、それが冒険者ギルドの役目だし」


「つってもよ、ぶっちゃけ、オレやこいつらを放っておいたところで、お前にゃ不都合はねえだろ。パーティを組ませるために、わざわざ依頼まで出すなんてやりすぎじゃねえか?」


「正直そうだけどさ。お役所がね、できるだけ冒険者は大切にするようにって方針なんだ」


 おれは肩をすくめて、ちらりと瞳で丈二を示す。


「それに……不都合はなくてもさ、やっぱり人が死んだり、路頭に迷うのを見るのはいい気分はしないよ。吾郎さんみたいな有望な人を腐らせるのも嫌だしね」


「すでに腐りそうだけどな」


 吾郎はまた小さくため息をついてから、新人ふたりに向き直った。


「武田吾郎だ。リーダーはオレがやるからな。お前ら、怪我したくなかったら言うことを聞けよ」


「うーっす! まあ武田さん一応先輩なんで、今はそれでいいっす」


「いきなりパワハラ宣言ですか……?」


 吾郎は、イラッと表情を硬くしたが、それを言葉にせず抑え込んだようだ。


「パワハラじゃねえ。色々教えてやるってんだよ……」


「あ、そうそう吾郎さん、そろそろ魔法講座も近いけど、受けられるのは1パーティにつきひとりだけって話になったから、誰が受けるか決めておいてね」


「わかったわかった。あー、沢渡に城島、だったか? ステータスカード見せろ、能力は確認しておきてえ」


 とかやりながら、吾郎たち一行はプレハブ事務所から出ていった。


 上手くやってくれるといいが……。



   ◇



 それからさらに数日。パーティマッチングは順調に進み、島にいる冒険者は全員どこかのパーティに属するようになった。


 そして、いよいよ魔法講座の日がやってきた。


 迷宮ダンジョン第1階層に設けた会場で、おれたちはお辞儀する。


「本日の講師を務めさせていただきます、フィリアです。本日はよろしくお願いいたします」


「副講師の一条です。モンスレってあだ名のほうがわかりやすいかもですけど」


「半信半疑の方もいらっしゃるかもしれませんので、まずはひとつ、魔法をお見せいたします」


 フィリアが手のひらを掲げ、集中すると、その上に光球が出現する。


 その眩しい輝きに、受講者たちはさっそくどよめいた。




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次回は魔法講座本番です!

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