第62話 魔法少女みたい……

「こちらがもっとも初歩的な魔法である、光源魔法です。みなさまのほうへ参りますので、どうぞお近くでご覧になってみてください」


 フィリアは光球を手のひらの上に浮かばせつつ、受講者たちのほうへ歩いていく。


 その光球のお陰で、受講者たちの様子がよく見える。


 最前列には丈二や紗夜、少し後ろには吾郎の姿もある。パーティからひとりずつ、参加した形だ。


 第1階層の中ほどにある広い空間で、30人以上が参加している。メンバーに充分な魔力を持つ者がいないパーティは、今回は参加できていない。


 みんな、興味深く光球に顔を向けている。眩しくて目を細めているが。


「熱もなく触れることもできない、ただの光ですが、迷宮ダンジョンではなかなか便利ですよ」


 と、光源魔法を解除。周辺が瞬時に暗くなる。あらかじめバッテリー式のランタンを設置してあるので、暗闇になることはない。


「みなさまには、まずはこの光源魔法を使えるようになっていただきます。魔力を扱う基礎中の基礎ですので」


 そうしてフィリアは、魔力の扱い方について講義を始めた。


「まずは目をつむり、ご自身の肉体と向き合ってみてください。魔素マナで強化された腕や足、胴……。それらのどの部位にも宿っていない力が、感じられるはずです。それが魔力……体内に蓄えられた魔素マナのうち、自分の意志で自由に動かせるものです」


 受講者たちは、フィリアに従って目を閉じて精神を集中させる。


 やがて数人が、ぴくり、と、なにかに気づいた様子で体を震わせ、目を開けた。


「なんでしょう、なにか、違和感のような……」


「お腹の中に、あったかく……、は、ないんですけど、なにかある感じがします」


 丈二と紗夜だ。


 丈二はさすが受講者ナンバーワンの魔力の持ち主といったところだが、受講者の中では普通レベルの魔力の紗夜がさっそく気づくのもすごい。


 魔法は、魔力がすべてではない。扱うためのセンスも必要だ。その点、紗夜は将来有望だ。


「感じ方は人それぞれです。地上での生活とは違うなにかが感じ取れれば、それが魔力です」


「ここにいる全員、充分に魔力がある。必ずできるはずだから、間違い探しのつもりで気楽にやってみて」


 苦戦している受講者も多いので、おれも助言を口にする。


 全員が体内の魔力を把握できるまで、フィリアと手分けして、ひとりひとりと言葉を交わして自身の魔力に気づかせていった。


 それが済んだら次の段階だ。


「この魔力は、他の部位に宿らせたり、他者に宿らせることで身体能力の強化に回すこともできます。それはかなり高度な魔法となりますので、またの機会に講義いたしますね。……続いてはみなさま、存在を把握した魔力を、外へ押し出すようイメージしてください」


 フィリアはそっと手を伸ばす。


「手から外へ出すようなイメージを持つとやりやすいかもしれません。慣れてしまえば、その必要はありませんが」


「マンガが分かる人は、かめはめ波をイメージするといいかも」


「そして、外へ出した魔力に意識を集中し、そのエネルギーを光に変えるようイメージするのです」


 フィリアは手のひらから、また光球を浮かび上がらせる。


「あとは、その状態を維持すれば、このようになります」


 説明し、手本も見せてはいるが、こればかりは当人たちが感覚を掴まないといけない。


 これまでになかった感覚なのだ。おれたちは根気よく、まるで、喋れない子供に、言語という概念を植え付けるような気持ちで教えていく。


 そんな中、ぴかり、と魔力を光らせるのに成功した者がいた。


「あ、消えちゃった……でも」


 若い、穏やかそうな青年だった。一瞬でも成功したことに頬がほころんでいる。


 続いて、同様にすぐ消えてしまうが、紗夜も光らせることに成功させる。


「おふたりともいい調子です。あとは、光らせたときの意識を維持するだけです」


「はいっ、やってみますっ」


 青年と紗夜は、何度も挑戦して、少しずつ長く光を維持できるようになっていく。


 そうしていくうちに、光らせるのに成功させる者は増えてくる。吾郎も成功したことに、自分で驚いていた。


 ひとり、丈二だけが上手くいかない。


「く……っ、なぜ? 魔力なら私のほうが高いはずなのに……」


 だんだん焦っていくので、おれは落ち着くよう声をかけた。


「深呼吸だ、丈二さん。魔法は集中が大事だよ。焦って精神を乱したら、上手くいくものもいかなくなる」


「わかっているつもりなのですが……」


「んー……。丈二さん、もしかして、魔法はこうあるべきだって、先入観みたいなのがあったりしない?」


「それは、まあ、イメージトレーニングしていたくらいですので」


「魔力鍛錬には役に立ったけど、実践には邪魔になっちゃってるみたいだ。一旦、あのノートのことは忘れて、頭空っぽにしてやってみよう」


「わかりま……ん? なぜノートのことを!?」


「秘密」


「人に秘密を握られているのはいい気分がしないのですが……」


「初対面のときは、おれが君にそう思ったよ。誰にも言わないから、気にせずやってみて」


「はぁ……」


 それからしばらくして、丈二も光球を出すことに成功した。


 厨二病ノートを作るくらい想像力たくましいだけあって、一度イメージできれば、コツを掴むのに時間はかからなかった。


 丈二と、紗夜、それに穏やかそうな青年の3人が特に優秀で、長く光球を維持できている。特に紗夜などは、他のみんながやっと合格点を出せるようになった頃には、さらにその先、光球を自由に動かせるようにまでなっていた。


 そのために、紗夜は受講者の中でも特に目立っていた。


 トレードマークだったメガネは、ピンクの細いフレームの物に交換されている。そしておさげ髪にも近い色のリボンをつけている。その容姿は、大きく変わっていないはずなのに、以前よりずっと目が引かれる。


 くるくると体の周囲で動く光球に照らされるのもあって、元々の美少女ぶりがますます輝いて見える。


 実際、受講者の何人もが、見惚れていたくらいだ。


「動画で見るより可愛いな……」


「……いい」


「魔法少女みたい……」


 そんなささやき声に、丈二が反応した。


「葛城さん、写真を1枚よろしいですか。今井さんからの依頼なのです」


「えっ、いいですけど」


 許可を得て、光球を操る様子をスマホカメラでパシャリ。


「結衣ちゃんの依頼だって?」


「ええ、次の動画のネタが欲しいとのことで」


「……まさか、丈二さん」


「ええ、魔法少女マジカルサヨちゃん……。いいではないですか」




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次回は魔法講座の後半戦です!

魔法少女は拓斗的にアリなのでしょうか? どんな会話をするか楽しみにしていただけていましたら、ぜひぜひ★評価と作品フォローで応援ください!

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