第59話 百合営業も、ありかも……です
「わぁ、あ……」
「ふふっ」
フィリアは、結衣と笑顔を見合わせていた。
「わ、すごい。伸びてる伸びてるっ」
さらに紗夜も嬉しそうにはしゃぎ出す。
3人は結衣の自宅で、昨夜アップロードした動画の再生数を確認している。
昨日撮影した動画は、結衣が所持するパソコンで編集してくれると申し出てくれたのだ。
フィリアはその手伝いに訪れ、紗夜も結衣たっての希望で同行。泊まりがけで動画を仕上げたのである。
再生数は大好調。みるみる伸びていく数字を見ているだけでも楽しい。
それはモンスレチャンネル側だけでなく、結衣のチャンネルにアップした動画でも同じだ。
「……ユイ、こんなに動画が伸びるのなんて、初めて、です。すごい……嬉しい、です……。ありがとう、ございます……!」
「いえいえ。今井様が頑張った成果です。撮影中のあのキャラクターなら、きっとおひとりでも成功しておりましたよ」
「でも……それができたのは、フィリアさんがアドバイスくれて……紗夜ちゃんが、勇気をくれたから、です」
ほんのり顔を赤らめつつ、前髪を指でいじる。今はバンダナで前髪を上げていない。
本人曰く、前髪を上げると気合が入って撮影モードに入れるそうだ。だが、疲れるので普段は前髪を下ろしておくことに決めたらしい。
結衣は隣にいる紗夜に、甘えるように寄りかかる。
「だから、紗夜ちゃんも、ありがとう……」
「うんっ。結衣ちゃんも、守ってくれてありがとう」
仲良きことは美しきかな。フィリアはふたりの様子に、癒されるような気持ちになる。
「でも結衣ちゃんもフィリア先生も、寝坊しすぎ。編集大変だったのはわかるし、結衣ちゃんはなんかイメージ通りだけど……フィリア先生って割と普段お寝坊さんなんです?」
「そ、そんなことは、ないですよ……?」
「あ、目を逸らしました? 図星です?」
「ち、違います。ご、ごくたまに夜更かししたときに、寝坊してしまうだけです」
本当は、休日と決めた日はだいたいお寝坊してしまっている。前はこうではなかったのだが……。
拓斗が起こしてくれるから、つい頼ってしまう。いや、これは甘えているだけかも?
ちょっと反省。
ちなみに拓斗は、さすがに女の子だらけのお泊まり会には参加できない、と家で留守番してくれた。
「ふーん……。でもなかなか起きてくれませんでしたよね、一条先生大変そう」
「そ、そこまでご迷惑はかけていないと思うのです」
そこで結衣が首を傾げる。
「……フィリアさん、モンスレさんと同棲してる、の……?」
「そうそう、大人の関係~」
「ま、まだそのような関係ではありませんっ! ただ、その……そう! パーティとして一緒に暮らすほうが色々と都合が良いので!」
「へー、まだなんですねー。いつの間にか呼び方も変わってたから、いよいよ付き合い始めたのかなって思ってました」
「ユイも、てっきり恋人同士と、思ってました……」
「そ、そう見えますか?」
つい声が弾んでしまう。そう見られているのは嬉しい。
でもこの気持ちの正体が、フィリアには分からない。幼い頃から憧れていた英雄への羨望なのか? それとも、一条拓斗という男性への恋心なのか?
考えると堂々巡りになってしまうので、小さく首を振って、話題を無理にでも切り替える。
「そ、それより、気になっていたのですが……」
フィリアはパソコン画面に映る、動画のコメント欄を指さす。
「こちらに書かれている、『百合』とはどういう意味なのでしょう? 花を指しているわけではないようですが……」
「えっと……女の子同士の、恋愛とか、そこまで行かなくても、濃い友情とか……そういう関係を指す言葉、です」
結衣の返答を聞いて、フィリアは思わず目を見開いた。片手で口元を押さえる。紗夜と結衣を交互に見やる。
「そ、そのような概念が……?」
「はい……。リアルだと色々あります、けど……マンガ、とか、アニメなら、需要あるから……。百合営業も、ありかも……です」
紗夜は苦笑する。
「百合営業って、あたしと結衣ちゃんが動画の中でイチャイチャするってこと?」
「動画の中だけ、じゃなくても、いいよ……。えへっ、紗夜ちゃん好きー……」
結衣はおもむろに紗夜にハグする。紗夜は困惑する。
「ええ……結衣ちゃん、それ本当に営業? 営業になってる?」
「パーティ組んだんだし……モンスレさんたちみたいに、一緒に住むのもありだよね……」
「ちょっと待って、待って待って。営業ってそこまでするもの?」
「いいこと、たくさん、だよ? ルームシェアして家賃折半なら、もっと広いところ住めるし……百合ってことにしとけば、ナンパも断りやすい、よ? ……嫌?」
「べつに嫌ってほどじゃないけど……。えっと、フィリア先生?」
助けを求める視線を向けられるが、フィリアは小さく首を振る。
結衣の態度からは、確かにただならぬものを感じる。しかしフィリアは、人の恋路についてなにか言えるような知見もなければ、立場もない。それが例え女の子同士であったとしても。
「わたくしは……お邪魔ですね?」
「お邪魔じゃないです! 帰ろうとしないでくださいぃ!」
紗夜は、結衣を穏便に引き離そうとする。
「あのね、ごめんね、結衣ちゃん。あたし、今日は一条先生に相談があるから、そろそろ出かけたいのっ。この話はまた今度にして、ね? だからちょっと離れて~っ」
◇
「一条先生! あたし、地味ですか!?」
おれに相談があるというので聞いてみると、開口一番、紗夜はそう言った。
後ろには結衣やフィリアもいる。近くでは美幸や丈二も聞いている。
「動画のコメントに書かれてたこと?」
「はいっ。男の人から見てどう思うのかなって思って」
答えに窮してしまう。
とびきり美人で銀髪のフィリアや、魅力的な巨乳の美幸、撮影時のテンションアゲアゲの結衣。比べてしまうと、確かに地味かもしれない。言葉に出しづらいが……。
しかしその態度で、紗夜には伝わってしまったらしい。
「やっぱりそうなんですね……。そうじゃないかって思ってましたけど……」
「いやでも、元は本当に可愛いわけだし、冒険者に派手さはいらないし……えぇと、どうしても気になるなら、コメントにも書かれてたけど、メガネ外してみる、とか――」
言いかけたとき、やたらと強い力で、ガッと肩を掴まれた。
振り向くと丈二だった。
「一条さん、私との殴り合いがご所望ですか?」
めちゃくちゃ怖い顔をしていた。なんでだよ。
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