第57話 ぜひぜひ一緒に盛り上げていきましょう
「もちろん、あたしは結衣ちゃんと組みたいです!」
「ユイも、紗夜ちゃんがいいです! パーティ組むと、こんなに戦いやすいなんて知らなかったです!」
「あたしと結衣ちゃんの相性が良かったんだと思う。さすが先生の紹介です、ありがとうございます!」
ふたり揃って、こちらにお辞儀する。
やはり聞くまでもなかった。ふたりとも、すでにお互いをパートナーとして認めている。
「うん。こちらも紹介できてよかったよ。ふたりとも気も合うみたいだしね」
「はいっ、ユイ、紗夜ちゃんのこと、大好きになっちゃいました!」
「えへへっ、照れちゃうなぁ。これからもよろしくね、結衣ちゃん!」
「うんっ!」
それからふたりはカメラに向き直る。
「というわけで、第1階層踏破は大成功! ユイたちの相性も証明されて、パーティは正式結成ですっ! みんなー、応援ありがとー! これからもユイたちのこと、よろしくです!」
びしっ、と敬礼みたいなポーズを決める。紗夜もそれを真似た。ややぎこちない。
「今日は楽しかったですっ。ありがとうございました!」
結衣たちの可愛らしい挨拶のあと、フィリアにもカメラを向ける。
「結衣様、紗夜様、おめでとうございます。とても良い冒険でした。ここで冒険者のみなさまにお知らせです。先日通知されている通り、近々、
フィリアは虚空に手を上げて示している。あとで編集で、掲示板に貼られた通知書の写真を挿入するつもりなのだろう。
「しかしパーティメンバーが見つからずお困りの方もいらっしゃるでしょう。そんなときは、ぜひとも
「あたしたちも、マッチングしてもらったんですよねー?」
「ねー?」
「はい! 今回のように相性を考慮の上、お相手をお探しいたします。ぜひともご利用くださいませ! それでは、今回のところはここまで。お送りいたしましたのは、モンスレチャンネルのフィリアと――」
「通称モンスレさんと――」
「ユイちゃんネルのユイちゃんと――」
「紗夜でしたっ!」
「みなさま、お楽しみいただけましたならチャンネル登録をお忘れなく。そして、ぜひともユイちゃんネルにも足を運んでくださいませ!」
「よろしくお願いしまーす!」
「「「「ばいばーい!」」」」
◇
「ふしゅー……」
撮影終了直後、結衣は気の抜けた声を出して、その場にぺたんと女の子座りをした。
「ユイ……、もう、限界、です……」
本当に元気がなくなってしまったが、NGを出してしまったときのように落ち込んでいるわけではない。どこか満足げに、頬がゆるんでいる。
「……変じゃ、なかった……ですか?」
子犬のような上目遣いで尋ねてくる。どうやら素の、弱気で控え目な性格に戻ったようだ。
すぐ紗夜が向かい合って座る。
「全然、変じゃなかったよ。ちょっとびっくりしたけど……あれが、結衣ちゃんの理想なんだ?」
「……うん。普段からは、まだ無理……だけど、フィリアさんが教えてくれたみたいに、やってみたら……できました……。あの、ありがとう、ございます……」
「いいえ、お役に立てたならなによりです。みなさん、お疲れ様でした」
フィリアは胸元で手を合わせ、微笑んで答えた。
「みんな、そろそろお腹減ったでしょ? パーティ結成のお祝いに、今からなにか作ってあげるよ。帰るのはそのあとにしようか」
おれが提案すると、紗夜は嬉しそうに目を輝かせる。
「ありがとうございますっ、先生の料理久しぶりだから楽しみです。あたしも頑張ってるんですけど、先生みたいに美味しくできなくって……」
「割とテキトーな味付けなんだけどね。じゃあ一緒にやってみる?」
「はいっ、ぜひ!」
そこでピンときたのか、結衣が顔を上げる。
「じゃあ……撮影ですね。モンスレ先生の、お料理教室……。出張版」
「出張版?」
「ユイたちのチャンネルにも、動画、欲しいので……。パーティ結成編の、あとのお話として配信しても、いい、ですか?」
「うん。いいよね、フィリアさん?」
「もちろん。ぜひぜひ一緒に盛り上げていきましょう」
こうしてまた撮影が始まった。
今日のメニューは、エッジラビットのロースト。
フィリアがカメラを担当し、おれが紗夜と結衣に料理を教える流れだ。料理後にはみんなで美味しく食べるシーンを撮って撮影終了。
そのあと、本当の休憩を取ってから、地上へ帰還した。
「あっ、おかえりなさーい。お疲れ様ー」
「ただいまです、美幸さん。って、美幸さん? あれ?」
なぜか美幸が、事務仕事をやっていた。
そばには丈二がついている。
「末柄さんは、私が事務員にとスカウトしました」
「そうなんだ。でもなんで急に」
「これから第2階層の先行調査もありますが、今回のように、事務所の手が足りないからと置いていかれるのは、もうたくさんですから」
「あはは、今日は悪かったよ。美幸さんも、巻き込んじゃったみたいで、ごめんなさい」
「気にしないで、拓斗くん。私も、ほら、鉱石の買取価格が下がってて、どうしようかなぁ、って思ってたところだったの」
そして調べたところ、希少金属はごく僅か。ほとんどは
一応、
第2階層には希少金属が多いのではないか、との根拠不明な噂もたっており、第2階層へ行くための護衛を依頼する者もいる。今はまだ時期尚早なので保留にしているが。
「それに、私の場合は冒険者のみんなに恩があるから。みんなのお役に立てるなら、嬉しいなって……」
「それなら良かった。これからよろしくお願いしますね」
「ええ、毎日応援するからね」
「ところで一条さん」
丈二はおれの背後のいる紗夜や結衣に目を向けた。
「パーティのお試しや、動画撮影のほうはいかがでしたか?」
「どっちもバッチリさ。期待して待っててよ」
動画タイトルはもう決まっている。
『美少女パーティ発足の軌跡』と『リアルモンスタースレイヤーのお料理教室 出張版』だ。
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