第56話 パーティの勝利です! ぶいっ!

「ではでは続いて、ユイのパートナーをご紹介! じゃじゃんっ、紗夜ちゃんでーす!」


 テンションアゲアゲの結衣に促され、紗夜がカメラに入ってきた。


 やや笑顔が硬い。緊張というか、結衣の豹変ぶりに戸惑っているようにも見える。


「は、はじめまして、紗夜です。先生――あっ、モンスレさんのことなんですけど、前々からお世話になってて、そのご縁で出演させていただくことになりましたっ。射撃が得意で、今はクロスボウを使ってます!」


 フィリアがカンペを掲げ、紗夜になにか指示する。


「えっと、あなたのハートを狙い撃ちです――って、なに言わせるんですかフィリア先生!」


「紗夜ちゃん、決めゼリフはもっと決め顔で言って」


「決めゼリフじゃないし、今まで一度も言ったことないよっ」


 そこで微笑みながらフィリアが入ってくる。


「はい、このように仲良しなおふたりですが、実は今日知り合ったばかりなのです。パーティメンバーを探している紗夜様に、我らがモンスレ様がユイ様をご紹介したのです。本日はおふたりの相性を確かめるため、仮パーティを組んで迷宮ダンジョンに挑戦です! 無事に結成なるか? ご一緒にお見守りくださいませ!」


 そして一旦画面からはけて、おれと撮影係を交代。おれのほうにスマホのカメラレンズを向ける。


「万が一のときはご安心を! いつもお馴染みのモンスレ様がお助けいたします!」


「どうも! モンスレチャンネルの、通称モンスレさんです。一応控えてますが、私の出番はないのが一番ですね。ふたりの活躍を見守っています」


 そしてフィリアは、紗夜と結衣のほうへカメラを向け直す。


「それではおふたりとも、ご武運を!」


「はーい! 今日の目標は、第1階層踏破ですっ! ユイたちふたりが力を合わせればできるはず! できなければ、相性悪しで、パーティ不成立……。応援ください!」


「あたしも頑張りますっ。では、出発です」


 紗夜は魔物モンスター除けを閉じて、その効果を消す。


 フィリアは先に進むふたりの姿をスマホカメラに収めつつ、追いかけていく。


 おれは最後尾――いわゆる殿しんがりの位置で、いつでも危険に対応できるよう片手を剣の柄に置きつつ進む。


 進むこと数十分。最初に現れた魔物モンスターは、ミュータスリザードだ。


「わっ、珍しい。普通に歩いてても遭遇するんだ」


 ミュータスリザードは動きが遅く、一箇所に長く留まらない限り、滅多に出会わない魔物モンスターなのだ。


「結衣ちゃん、口から吐く粘液に気をつけて! 身動きできなくなっちゃうから!」


「うん、わかった!」


 直後、ミュータスリザードが予備動作を見せる。


「来るよ!」


 その声を受け、結衣は足を踏ん張り、左手の盾を構えた。


「てぇい!」


 そして吐き出された粘液を的確に盾で防ぐ。体に粘液が多少付着するが、行動を制限するほどではない。


「紗夜ちゃん、お願い!」


 ミュータスリザードが2発目の粘液を吐く直前、紗夜がクロスボウで矢を放った。直撃。眉間を撃ち抜かれたミュータスリザードは倒れた。


「やった! 紗夜ちゃんすごい! あなたのハートを狙い撃ち!」


「だから決めゼリフじゃないってばっ。でもでも、落ち着いて狙えたから良かったかも。あたしひとりだったら、粘液かわしながらだから、なかなか当てられなかったと思う」


「ユイだって、ひとりだったら防御しきれなかったかも。えへへっ、パーティの勝利です! ぶいっ!」


 と、カメラに向かってVサイン。結衣に促されて、紗夜もはにかみながらVサイン。うん、可愛い。


 フィリアも拍手しながら登場。


「お見事な勝利です。しかし盾についた粘液が固まってしまいましたね。紗夜様の仰るように、粘液が直撃したら身動きができなくなって大変です。そんなときは、どうすれば良いのでしょう?」


 ちらりと紗夜と結衣に視線を向け、それからおれに瞳を向ける。


 なにか嫌な予感がした。結衣はすぐピンときたらしい。遅れて紗夜も。


「それでは呼んでみましょう。みなさんご一緒に」


 せーの、とばかりに大きく息を吸って、3人は同時に声を上げた。


「「「教えて、モンスレ先生ー!」」」


「君ら打ち合わせなしで合わせてくんの!?」


 ささっと動いて、フィリアがおれからカメラを奪い、レンズをこちらに向ける。


「はい、エンターテイメントにはライブ感が大切ですから」


「急なアドリブやめてよー」


 とか言いつつ、おれはミュータスリザードの内臓から分泌される液体で、固まった粘液を溶かせることを実演しつつ解説した。


 最後には紗夜が、結衣に分泌液をかけてあげて終わる。


「以上、モンスレさんの魔物モンスター対策コーナーでしたー! それでは、引き続きユイたちの冒険をお届けしまーす!」


 そこからさらに進んでいく。


 幾度かの魔物モンスターの襲撃を退け、やがては第2階層手前地点にまで到達。第1階層はほぼ踏破だが、そこに現れたのはウルフベア。


 紗夜たちを認めるやいやな、凶暴に突っ込んでくる。


「危ない!」


 即座にクロスボウを撃つ紗夜。さすがに急所に直撃とはいかない。矢はウルフベアの右前足の付け根に刺さる。


 それで突撃の勢いは削がれる。結衣が踏み込み、メイスを振るった。側頭部に直撃。ウルフベアの動きが止まる。


 すかさず剣を抜いた紗夜が接近。瞬発力を活かして胴体に突き刺した。


 ――がぁああう!


 反撃に、ウルフベアの牙が迫る。が、もう紗夜は剣を手放して離脱していた。


 噛みつきは空振り。無防備となったその脳天に、結衣がメイスを叩きつける。ウルフベアは立っていられない。


 あとはナイフを抜いた紗夜と結衣がそれぞれに攻撃を仕掛け、ウルフベアを討ち取った。


「まだだよ、結衣ちゃん!」


 戦闘音を聞きつけたエッジラビットが集結。紗夜はウルフベアの遺体から剣を引き抜く。


 おれは結衣に注目する。エッジラビットの素早い動きに、重いメイスでは不利だ。


 それは本人にもよく分かっていたらしい。


「紗夜ちゃん、ユイは囮やるから!」


「じゃああたしが仕留めるね!」


 襲い来る刃を結衣が防ぎ、紗夜は次々と手早くエッジラビットを斬り裂いていく。


 頭上から襲い来るステルスキャットにも危なげなく対応し、やがてふたりはさしたる怪我もなく、敵を全滅させた。


 ふー、と深呼吸するふたりに、おれは祝勝の拍手を送る。


「第1階層踏破おめでとう。第1階層の魔物モンスターは、全部余裕で倒せたね」


「はいっ、先生が色々教えてくれたおかげです!」


「もう聞くまでもないかもだけど、お試ししてみた感想は?」


 紗夜と結衣は、にっこり笑顔を見合わせた。


 そして――




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