第28話 いいアイディアが浮かんだよ
「第2階層には、そんな厄介な
第2階層での出来事を話してみると、やはり焦点はドリームアイの話になる。
おれは女性相手に気が引けつつも、持って帰ってきたドリームアイの死体を見せつつ、そのおぞましい生殖方法も含めて特徴を説明した。
「最悪ですね、この
紗夜は嫌悪感を顔に出す。フィリアや美幸も眉をひそめている。
「ですが、一条様は無事に帰ってこられました。どのように幻覚を見破ったのですか?」
「それはね、違和感があったからだよ」
おれは自分の腕時計を指し示す。
「幻覚の中で、異様に時間が進んでいたんだ。誘惑に来た相手がそこにいる理由として、辻褄が合わせられていたんだ。けど、そんなに時間が経ってるはずないって感覚が、糸口になった」
へぇえ、と紗夜は大げさに感心する。
「すごいです、先生! 理想の相手との幸せなシチュエーションだったんですよね? なのに、よくそんな違和感だけで攻撃に移れましたね! あたしなら、違和感があっても確信が持てなくて、そのうちに流されちゃってたと思います」
「あはは……実際おれも間一髪だったよ。あんなの、本来逆らえるものじゃない。今回はたまたま、もうひとつの決定的な間違いに気づけただけで、運が良かったとしか言えないよ」
「……対処法はあるのでしょうか?」
「簡単な方法があるよ。男女混合で行動すればいいんだ。ドリームアイは、オスかメスのどちらか一方しか一度に現れない。どちらかが誘惑されたら、残った一方がやっつければいい」
フィリアはほっと一息。
「それなら、わたくしたちは大丈夫ですね」
「そうだね。最悪は避けられる。けどできるなら、おれは他の方法で対処したいな」
「最悪ではなくても、なにか悪いことが起こるということですか?」
「うん。幸せの絶頂からいきなり現実に戻されるわけで、せっかく助けたのに恨まれちゃうこともあるんだよね……」
「まあ、それは……」
「たまに恋人同士のパーティがいたりするけど、ドリームアイに遭遇したあとで別れたって話もあって……」
そんな話をしていたところ、ふとなにかに気づいたように美幸が首を傾げた。
「一条くん、すごく詳しいけど……なんで知ってるの? まるでどこか他の場所で戦ったことがあるみたい……」
ぎくりっ、と体が震える。しまった、話しすぎた!
「そ、そういえばそうです! 先生はいつもすごいから気づかなかったですけど、初めて行った場所の
紗夜も身を乗り出して聞いてくる。
くっ、上手く誤魔化す言葉が浮かばない……!
すると、なにか思いついたのか、フィリアが助け舟を出してくれる。
「そ、その秘密は別料金です! トップシークレットなので、お、お高いですよ!」
誤魔化せてない気がする!
「そ、そうなんですか……」
「フィリアちゃんとは秘密を共有してるんだ……?」
「と、とにかく、おれは色々と詳しいけど、その理由は秘密! 本当は
「そうですそうです。秘密、ですよ?」
ぷるぷる震えながら唇に指を立てるフィリアだった。
「ま、まあ……そういうわけで、この話はおしまい! 第2階層の様子を撮影してきたから、そっちを見よう――」
と、スマホを取り出す。撮影してきた動画を再生しようとして、すぐ気づいて止めた。
「――と思ったけど、今はやめよう。あとで編集してからね」
「一条くん、また隠し事?」
「あっ、これはわかります! 一条先生がドリームアイとイチャイチャしてるところが映っちゃってるんですね!?」
「そうだけど言わないでよ紗夜ちゃん! プライベートかつセンシティブな内容なんだ!」
みんなからスマホを遠ざけるが、すすすっ、とフィリアが追ってくる。
「なにしてんのフィリアさん」
「一条様、動画配信に使える内容かもしれません。あとで、わたくしには、お見せください」
「やだよっ、君にだけは見せられない! というか、配信じゃなくて君の興味本位でしょ、それ!」
フィリアは唇を尖らせる。
「むぅ……なぜ、わたくしにだけは、と強調するのですか」
「だから……プライベートかつセンシティブな内容なんだってば」
実際、言えるわけがない。
理想の相手として現れたのが、フィリアだったなんて。
うっすら自覚していたが、ハッキリしてしまった。
だって、もともと
そんな
でも、どうせ片思いだ。
おれが照れて冗談交じりでしか口説けないから、フィリアは本当に冗談だと思って、冗談で返してくれているだけ。
彼女が受け入れてくれるなんて、あの幻覚と同じで、都合が良すぎる妄想だ。
それに、この話をすると芋づる式に、おれが美幸の胸をめっちゃ見ていて、魅力的に思っていたことがバレる。
さらに、その巨乳がフィリアには絶望的にミスマッチしていたから、という大変失礼な理由で偽物だと気づいたのもバレる。
三重苦だ。絶対に話すものか。
◇
「じゃあ、一条くん、フィリアちゃん、紗夜ちゃん。これ、約束の報酬」
正直、おれやフィリアの実力には割に合わない額なのだが、それは黙っておく。おれたちも狙いがあって受けた仕事だ。
「ありがとうございます、美幸さん」
「うぅん、お礼を言うのは私のほう。守ってくれただけじゃなくて、なんだか一緒にいてすごく楽しかったわ」
にこりと微笑んで、上目遣い。
「次も、またお願いしていい?」
「もちろん。次はもっと楽になるようにしときますよ」
そうして美幸は帰っていった。
その後ろ姿を見送ったあと、フィリアがそっと身を寄せてくる。
「次はもっと楽になるということは、もしや?」
おれは頷いて、にやりと笑む。
「ああ、いいアイディアが浮かんだよ。これなら探索者を増やせるはずだ」
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