第17話 リアルモンスタースレイヤー

 ――ピイィ! ピイ!


 接近したおれに対し、グリフィンは悪あがきとばかりに暴れた。鳴きながら闇雲に前足の爪やくちばしで攻撃を仕掛けてくる。


 が、弱った視力で狙われたところで怖くはない。それらを最低限の動きでかわす。あるいは剣で受け流す。


 そしてカウンターで突き、払い、斬る。


 グリフィンは怯んで動きを止める。おれはすかさず跳躍。その前足を登り、側面から喉を刺し貫く。


 ――ピイィイイイイ!?!?


 グリフィンがおれを振り払おうと暴れるのに逆らわず、そのまま投げ出されるように離脱した。剣で喉をさらに斬り裂きながら。


 受け身を取って着地。すぐ立ち上がり、剣を構えつつ様子を窺う。


 ――ピィィ……ピィ……ピ…………。


 やがてズゥンッ、と巨体が倒れる。血溜まりが広がっていく。


「やった……? 一条先生、やったんですか!?」


「マジかよ!? 一条の野郎、本当に殺りやがった!」


「凄い。モンスレみたいだ……リアル魔物モンスター殺しスレイヤー!」


 冒険者たちの歓声に、おれは親指を立てて応えた。それからすぐ呼びかける。


「誰か、消防団を呼んでくれ! もう安全だから、すぐ消火活動を始めて欲しい!」


 冒険者のひとりがスマホで連絡してくれている。これでひと安心。


 落ち着いて深呼吸したところでフィリアが駆け寄ってきた。


 胸のあたりで手を重ねて、感動に目を輝かせている。


「一条様……貴方は、やはりわたくしが見込んだとおりのお方でした」


「君が力を貸してくれたからだよ」


「いいえ、魔物モンスターを退治したことだけではありません。貴方は、誰かのためにその力を振るえる、本物の英雄です!」


 おれは照れ隠しに笑ってしまう。


「ははっ、懐かしいなその呼ばれ方……。でも」


 と、おれはフィリアの綺麗な黄色い瞳を見つめ返す。


「それは君も同じでしょ。フィリアさんの言葉がなければ、おれは大切な気持ちを思い出せなかったかもしれない」


「一条様……。光栄です」


 そこに紗夜も駆け寄ってきた。


「あの、あの、フィリアさん! 先生も凄かったですけど、フィリアさんも凄かったです! さっきのあれ、なにをしたんですか? よく見えなかったですけど、小型のバズーカかなにかですか? でも普通の武器じゃ通用しないはずですよね!?」


 紗夜がグイグイとフィリアに迫る。フィリアはたじろいで後退していく。


「いえ、あの、あれは……なんといいますか……」


「教えてあげてもいいんじゃない? 君の言うところの商機だよ?」


 するとフィリアは異世界語で返してきた。


「ですがわたくしが異世界人だと知られてはまずいのです。秘密を漏らしては、諸々の援助が打ち切られてしまいます。わたくしひとりなら、まだいいのですが……」


 おれも異世界語で返す。


「べつに魔法が使えるからって異世界人とはバレないさ。おれに任せて」


 おれは言葉を日本語に戻し、フィリアに代わって紗夜に答える。


「あれはね、魔法だよ」


「魔法!?」


魔素マナの話はしたよね? その魔素マナのある環境に身をおいていると、魔素マナを活用できる体質になれるんだ。そしたら使えるようになる」


「あたしにも、ですか!?」


「もちろん。でも今はまだ無理かな。地道に迷宮ダンジョンに潜って、魔物モンスター料理を食べて、体を魔素マナに慣れさせるところから始めるといい」


「わぁあ、魔法、使えるんだぁ……! 凄いなぁ、さすが迷宮ダンジョンって感じですね! あたしが魔素マナに慣れたら、魔法教えてくれますか!?」


「うん。ただし、そこからは有料だよ? フィリアさんが魔法の先生をやってくれると思う」


「じゃあ、よろしくお願いいたします、フィリア先生!」


「先生……?」


 フィリアは満更でもなさそうに、頬を緩ませた。


「はい、フィリア先生にお任せくださいっ」


 胸を張るドヤ顔フィリアである。可愛い。


 やがて消防車のサイレンが近づいてくる。


 おれたちは、さっさとグリフィンの討伐証明や素材に使える部位を剥ぎ取り、消火活動の邪魔にならないよう撤収した。



   ◇



「その節は大変申し訳ございませんでした!」


 その日の午後、役所にグリフィン討伐の賞金を受け取りに行ったら、担当の職員にものすごい勢いで頭を下げられた。


「私共が一条様のお言葉を聞いてさえいれば、このような被害を出さずに済みましたのに!」


「謝るのはおれにではなく、怪我をした人や住む場所を失った人にでは?」


 昨夜の被害は、建物の全焼が5つに倒壊が2つ。細かい被害は無数。重軽傷者が23名。幸いにも死者は出なかったが、防ぐ気があれば防げた被害だ。


 ちなみにおれも宿を失ったので、立派な被害者であったりする。


「仰るとおりでございます! 今後は緊急時の対応について真摯に議論を重ね、再発防止に務めさせていただきます!」


「被害者への補償も、可能な限りお願いしますね」


「はい、それはもう! ですので、あの……」


「うん?」


「あまり報道などで、今回の不手際について口にしていただかないようお願いいたします」


 おれは大きくため息をついた。


 まあ危険と知らされていながら無視し、被害を出したと報道されてはバッシングは免れない。


「べつにいいですけど、他の人から漏れても知りませんからね?」


 そんな謝罪なのか隠蔽なのかわからない話が長引き、ただ賞金をもらうだけのつもりだったのに1時間以上も足止めされてしまった。


 やっと解放されたとき、パタパタとした足音が近づいてきた。


「先生! 一条先生、大変です!」


「紗夜ちゃん? どうしたの?」


「これ! これ見てください」


 興奮気味にやってきた紗夜に、スマホを突きつけられる。有名動画サイトだ。


「どうかしたのですか?」


 受付カウンターの奥から、制服姿のフィリアもやってくる。スマホを覗き込む。


 それはすでに数十万も再生されている、『リアルモンスタースレイヤー町を救う!』というタイトルの動画だった。昨夜ライブ配信されていた動画のアーカイブらしい。




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2024/2/20 改稿

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