第23話 迷走

聖奈が職場から戻ってきて、


【とりあえず転勤は当面ないって決まったから。それでね、えーと、あんなふうに見送ってもらったのにここに出戻りって感じで、何か恥ずかしいけど】


聖奈は半分照れて、半分嬉しそうに話してる。


【聖奈〜俺は嬉しいぞ!!】


親父は、喜びを表して、聖奈に飛びついて、


【お父さん、酒臭いって!!!離れてよ】


 聖奈は、突き放した…というよりも親父は突き飛ばされた。普通そうなるよな。娘だぞ。親父、反省しろよ。酒飲んで抱きついたら、そうなるって。


お袋は、酒を取り上げて、


【ほら、お父さん、お酒ストップ!!】


親父は、それでも酒を奪い返して飲みながら、


【何か、俺、嬉しくてさ…嬉しくて。不安だったんだ。聖奈が最初に海外ってのも本当は反対だったんだ。でもさ、でもさ、聖奈の気持ちを優先すると、そんなこと言えないなって…でさ、今回も本当は…俺は…】


なんか、面倒な親父だな…酒入ると…



お袋、聖奈ともに(*_*; 呆れてるよ。


お袋は、再び酒を取り上げて、


【はい、はい、お酒は終わり。聖奈、すき焼きの後、うどんとか入れようと思うけど】


【お母さん、もうお腹いっぱい…】


【あら、じゃ、お父さん買ってきたケーキ🍰もやめとく?】


【ケーキ🍰は食べる!!アイスもあったよね?トッピングに】


カロリー気にしないのかな?聖奈。


【じゃ、アイスも持ってくるね。お父さんは??あれ…寝たの?】


親父(-_-)zzz


うるさいの、寝てくれたよ。静か〜〜〜


【あれ?アイス無いね。お父さん昼に食べちゃったのかな?ちょっと買っくるね】


目ざといな、そういうの食べることは、親父。


聖奈が、


【あ、お母さん、食べたいの私だから。買いに行ってくる。コーヒー☕お願い】


【聖奈、じゃ、零も連れてって、いると少しは安心でしょ?】


少しって何だよ!!お袋。


【そうだね、零、お願い】


【いいよ。苦しいくらいお腹いっぱいだから、腹ごなしにちょうどいいや】


聖奈とアイスを買いに。何か不思議な感じだ。


 本当ならもう海外に着いたよって、なってるはずなんたよな。横に聖奈がいてくれて嬉しいよ。



……………………………………………………………



【零、せっかく空港まで見送りに来てくれたのに、なんかごめんね。出戻りってなっちゃった…】


【何言ってんだよ、向こうに着いてからじゃなくて良かったよ。大変なことになってるみたいだよな、友奈も外出禁止って言ってたよ】


【心配だよね。…あのさ、話変わるけど、私もその、琴美って娘のこと、協力させてもらえないかな?】


【どうして?】


【零、ずっと苦しんでるよね?会いたいでしょ?答え出したいよね?】


【解るんだ、俺のそういうのって】


【解るよ、ずっと見てきたもん】


【海外に長いこといたじゃん!見てないだろ?】


【それはさ、気持ちの問題っていうかさ…】


 素直にありがとうって言えない俺がいる。何か血の繋がりのないってこと知るまでの俺とは違う。


【そう言えば飲み会のとき、私、凄い飲んじゃって、零がおんぶしてくれたよね。あれ思い出すと、恥ずかしかった〜重かった?】


【あ、あれね、軽いって。英二が変わる変わるってうるさくてさ、駄目だってのに、あいつしつこくて…】


【……何で駄目だったの?】


答えに困るよ。それ。


【……えーと、いや、それは…】


【変わりたくなかったから?】



………………そのとおりだよ………………



【聖奈はさ、俺の姉だからね。英二が弟なんかになったら嫌だからね】


【そっか…そういう意味ね】



何か黙ってるの辛いな。



【ほら、聖奈、汗だよ!!そう、汗かいていたからさ。そういうの気にするじゃん。俺なら気にしないかな〜って思ってさ】


【…そっちのほうが嫌だよ…】


えっ、何ぼそっと言った?


【汗臭かった?私】


【全然!!むしろいい匂いだった…】


 いい匂いって、何言ってんだ、俺。なんかパニクってるぞ。冷静に冷静に…


聖奈は、


【…何かそれも恥ずかしいけど】


何か話すたびに、誤魔化してるんだ俺がいる。


【本当はね、零、私は零のこと、ずっと気になってた。何か血の繋がりのないってこと聞いたらホッとしたっていうか】


【聖奈…】


【零が今、気になるのは、琴美って娘でしょ?それは解ってる。勝手に私が零のこと…好きになって。それが強くなるの!!だから転勤を希望したの。簡単には会えない場所に行けばって。それで会わないならきっと冷静になれるって】


【そんな無理することないのに…】


【だって…私だってこれ以上は無理だもん。零のそばにいたら…😭】


聖奈はしゃがんで泣き崩れ、肩を震わせていた…


 血の繋がりのない姉、優しくて、綺麗で、可愛くて、それに俺のことも…


【聖奈、泣かないでよ】


【ごめん、零。どうかしてたね、私。さぁ、アイス🍨買って帰ろう!!】


 スッと立ち上がって、歩き出そうとする聖奈を強く抱きしめて、何やってんだ、俺は?、感情が先走ってる。それとも同情なのか?解らない…


【聖奈、暫くこのままで…】


聖奈は、凄く弱く押し返して、離れようとして、


【同情なんかしないでよ】


【同情なんかじゃないんだ…俺にも解らない。どうしていいか解らないんだ。ごめん】


苦しいよ、聖奈。


明らかに迷い出した俺がいる。


 姉だったのに、何も変わってないのに、血の繋がりのないって知っただけで…


知らなければ良かったのかな?











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