第3話

「美味しい、美味しすぎるっ!」


「あらあら一体どうしたのよ界人。普段はそんなこと言わないくせに。お母さん照れちゃうじゃない」


 そう言って母さんは手を頬に当て赤く染めた。可愛いらしい反応をしているが、身内なのでただただ醜く感じてしまうのが惜しい。


 それにしてもご飯が美味しすぎる。約数十年ぶりの母親の料理、異世界で食べてきたものよりも何百倍も美味しい。舌をなでる卵の滑らかさというか、なでらかさというか…とりあえず俺が言いたいことは日本の朝食に感謝を、ということだ。


「なんか兄さん、少し変だよ?」


「ん、そうか?」


 確かに俺は変わってしまったかもしれない。いや、変わってない可能性の方が高い。だって前世でも根暗で、向こうでも根暗だと言われたのだから。


「いや、いつも通り根暗だし気のせいだったね」


「おい、それはひどくないか!?」


 妹の亜美はすごく生意気である。昔から兄妹仲は良かった方だが、いつからか彼女は俺のことをいじり始めた。

 昔はお兄ちゃん、お兄ちゃんと可愛らしく懐いてくれていたのだが今になっては懐かしい記憶だ。多分、否確実に二度とあの時の亜美を見ることはできないだろう。


 俺は朝食を無事食べ終わると自室に帰ってきていた。既に登校の準備は終わっており、後は迎えが来るのを待つだけである。


「界人ー、莉愛ちゃんが迎えにきたわよー」


 ちょうど迎えに来たらしい。俺は急いで荷物を背負うと玄関まで走った。母さんに挨拶をし、亜美にも一応一瞥だけしておく。

 亜美は心底嫌そうな顔をして目線を逸らした。そこまで嫌な反応しなくてもいいじゃないか。お兄ちゃん、なにかしましたか?


「おはよう、莉愛」


「おはようございます、界人さん」


 ん?何か違和感があるような…。


 俺を玄関先で出迎えてくれたのは幼馴染の莉愛である。幼稚園の頃から高校生になるまでずっと同じ進路を歩んできた腐れ縁の仲で、いつも一緒に登校していた。

 昔から莉愛は距離が近く勘違いする男が多発するのでよく俺が勘違い男たちを撃退したものだ。


「じゃあ、行こうか」


「そうですね、行きましょう」


 なんだろうか、やはり違和感を感じるのだが。莉愛はとても活発な性格でいつも登校するときは馬鹿みたいに俺にくっついてきて、口うるさかったはずだ。


 それなのに今の莉愛は話し方は丁寧で、一定の距離を保ちながら歩き、とても清楚な感じが体中からあふれ出ている。果たして莉愛はこんなキャラだっただろうか。


「なあ莉愛。変なこと聞いてもいいか?」


「ええ、構いませんよ」


「お前は本当に莉愛か?」


 自分でも何を言っているのか分からない。隣で歩く莉愛は確かに記憶に残る莉愛の姿をしているのだ。彼女が莉愛じゃないわけがない。でも自然と口から疑問が出てしまった。


「な、何を言っているのですか?私は正真正銘、界人さんの幼馴染の莉愛でございます」


「莉愛はそんなキャラじゃなかったろ?いつもならもっと距離近いし、腕を組んでくるし、口うるさいじゃないか」


「え、莉愛さんってそんなキャラなんですか…まるでアヤ…」


「今なんて言った?」


「いいえ、何も言っておりません」


「そうか?」


 何か言っていた気がするのだが勘違いだったらしい。


「そうですね、一ついうなればキャラ変を致しました」


「キャラ変?なぜにそんなことするんだ」


「別に気にしないでいいじゃないですか。私たちの関係が変わらないんですから」

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