第2話
目が覚めるとそこには見覚えのある天井があった。俺が生まれた日本の家。俺が異世界に召喚される前まで毎日を共にしてきた部屋だった。
「帰って来れたのか」
どうやら俺は無事日本に帰ってくることが出来たらしい。胡散臭い女神だったのであまり信用できなかったのだが、その心配も杞憂だったな。
部屋に壁には俺の通う高校の制服が掛けられていて俺がまだ高校生だったことを思い出した。枕元に置いてあったスマホで時計を見てみると朝の六時。
俺が召喚される前までに毎朝起きていた時間と一致している。どうやら今日は平日らしい。
「学校に行かないと…なのか?」
もし召喚されるときの時間に戻されているのであれば俺は現役の高校生ということになる。向こうで過ごした十数年はこちらの世界には反映されていないわけだ。
まあいい。とりあえず母さんと妹と顔を合わせよう。俺のとっては十数年ぶりの再会だ。多分二人は何も変わっていないのだろうな。
今からでも会うのが楽しみだ。
俺は部屋から出ると家の風景に懐かしみを感じながら階段を下りた。そして朝のニュース番組の音と卵焼きの美味しそうな匂いのする方へと足を運ぶ。
「あら、界人起きたのね」
キッチンには鮮明に記憶に残っている母さんの姿があった。俺と妹をシングルマザーで育ててくれている優しい母さんの姿があった。
「うん、おはよう」
「おはよう。もう少しで朝ご飯が出来るから他の準備して待っててね。あと、亜美を起こしておいて」
「分かった」
「どうしたの界人、すごく泣きそうな顔してるわよ。寝ぼけてるのかしら」
そうか、俺は泣きそうな顔をしているのか。自分では分からないけど、俺は母さんの姿を見て喜んでいるんだ。
きっと安心しているんだろう。向こうに行った時、最初は知らない父親と母親に育てられて不安な時もあった。
大きくなってリリアやアヤメと出会った時もどこか違和感はあった。日本に帰って来れて本当に良かったな。
俺は母さんに言われた通り自室に戻り、登校の準備を行った。準備するのは十数年ぶりだというのに身体が覚えていたのだろう、いつの間にか完璧に終わらせてしまっていた。
次は妹、亜美を起こさなくてはならない。亜美は俺の一つ下の高校一年生で噂ではとてもモテているらしい。学園のマドンナと呼ばれていて毎日のように告白をされているがすべて断っているとか。
サッカー部のイケメンキャプテンや野球部のマッチョマンからにも告白されたことがあるらしい…結構覚えているもんだな。
昔から亜美にはブラコン気味なところがあった。記憶の通りでは高校生になった今でも亜美は基本的に俺にべたべたな性格だったはずだ。
今も変わっていないんだろうか…久しぶりに会うのは緊張するな。
コンコン、とノックをして亜美の部屋に入るとすごく見覚えのある部屋だった。召喚される前からよくお邪魔した妹の部屋だ。
壁際にあるベッドの上で、亜美はお腹を出して眠っていた。
視線に困るな。なぜだろう。前は亜美のお腹を見てもなんとも思わなかったのに今はすごくダメなことをしている気がする。
よく見れば亜美はとても女の子らしい容姿をしていてモテる理由も分かる。
異世界ではリリアやアヤメによく揶揄われたな。特にアヤメにはセクハラまがいのことをされたものだ。そのたびに恥ずかしがって、そんな俺の姿を見て二人に笑われた。
懐かしいな。
もう二度とあの日々は戻ってこない。今日からはまた高校生として、包銅家の一人として生活していくのだ。
俺は亜美のお腹を隠すように毛布を掛けてから、丁寧に起こした。
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