勇者俺異世界救い、無事日本に帰ってきました。あれ、幼馴染み達がやけにかつて冒険した仲間たちとそっくりなのですが気のせいですか?
ミナトノソラ
第1話 プロローグ
「英雄たちの凱旋だ!」
「勇者様とその御一行よ!」
「勇者様、魔王を倒してくれてありがとう!」
武装都市コルメルの中心街、天への一本道にて俺、包銅カイトは市民に祝福されていた。
異世界の召喚されて早十数年。俺はある貴族家の御曹司に憑依し魔王を倒す役目を女神様から担うことになったのだ。普通の人間を遥かに凌駕する特殊能力スキルを持ち、尋常じゃない知能、力、俊敏性。
全てを召喚されるとともに授かった俺はその力を上手に支配してつい先日、この世界を救ったわけだ。
女神曰く魔王を倒せば元の世界に帰れるらしい。女神との約束の場所、国の最北端に位置する女神の泉へと向かわなければならない。
「カイト様、流石の人気ですね」
「うん、あんまり人の前には出たくないんだけど」
隣に座る勇者パーティの一員であるリリア。職業は魔術師で、主に後方支援を任せていた魔法のスペシャリストである。特に回復魔法の才は突出しており勇者である俺でも彼女の回復魔法には敵わない。
今まで何度もパーティーを救ってくれた無くてはならない存在である。
「人の視線が苦手なのはであった頃から変わっていないわねカイト」
「仕方ないだろ、前世は根暗だったんだよ」
「今も根暗でしょう?」
「うるさい」
俺をいじってくるこいつはタンクのアヤメ。主に前方で敵の攻撃を受け止める役目を担っている仲間である。守備力を中心的に細かい攻撃技術も持つ器用な一面もあるタンクであり、リリアと一緒に今まで幾度もパーティーをピンチを救ってくれた。
「なんで王宮に行かないとなんだよ。早く帰りたいのに」
「あのねぇ、あんたは勇者なんだから魔王を倒したら王様から祝福されるものなの」
「そうですよカイト様。少しの我慢です。我慢が終わったらきっと…楽しいことが待ってますよ」
しばらくして俺たちを乗せた馬車は王宮にたどり着いた。王様は王子様らに挨拶をし、感謝状を貰うと同時に大金をいただいた。
王宮お抱えのシェフお手製のご馳走をお腹いっぱい平らげ、あっという間に帰る時間がやってきた。
「案外悪くなかったな」
「そうね(ですね)」
異世界の王様と言えば嫌な感じがするのだが、この国の王様の人柄は信じられないくらい誠実な人だったのだ。
あの人が王様である限りはこの国は安泰であろうと思う。
「いったん帰るか」
家に帰ってくると俺は話したいことがあると二人を自室に呼び出していた。二人にはまだ話していないのだ。
勇者パーティはこれにて解散するということ。俺は元の世界に帰るということ。二人には俺がこの世界で手に入れた俺の全ての財産と地位と名声を献上するということ。
正直二人とはこれからも離れなくない、一緒に生活していきたいと思う。でも俺がこの世界に来る前の世界。日本にはまだ未練があるのだ。
まだ理由はある。二人には幸せになってもらいたい。俺がこの世界にいる理由はなくなり二人と一緒にいる理由もなくなった。
リリアもアヤメもただ天賦の才があったというだけでしたくもない魔王討伐に無理やり参加させられ、さぞ苦しかったことだろう。
解放させてあげなくちゃ。これは勇者である俺の最後の宿命だ。きっと二人は俺が去った後のこの世界で想い人を見つけ、結婚し、子供を授かり、幸せに死んでいく。
この世界に未練がないとは言わない。でも俺はこの世の住人ではない。まあ、姿は残るのだろうけど。一応勇者である俺の憑依体であるオリジナルカイトくんはこの世界に存在することになるが。
中の人が変わるだけである。
「どうしたのですかカイト様。珍しく私たちをお部屋に招いて」
「今日は大事な話があるんだ」
「大事な話?カイトらしくないわね。あ、もしかしてようやく私たちの気持ちに…」
「俺、今日で二人とはお別れなんだよね」
あ、アヤメの話をさえぎってしまった。なんと言おうとしていたのだろうか。聞くにも答えてくれなさそうだな。
「は?どういうこと?」
「聞き捨てならないことを言いましたね?」
「どういうことって言われてもそのままの意味なんだよな。魔王はもう倒したし俺がここにいる理由はなくなったんだよ」
俺がそう言うと二人は俯いてしまう。突然伝えられて困っているのだろうか。もっと前に伝えておくべき話なのは承知しているのだが、今日まで先延ばししてしまった。
「カイトは私たちが大切じゃないの?」
「は?そんなの大切に決まってるじゃないか。もう、大好きだよ!」
もちろん仲間として二人のことは大切で大好きだ。そんな質問をされるなんて少しがっかりである。
「だっ…大好きなのになんで帰るとか言うのよ」
リリアはアヤメの後ろで何度もうなずいている。
「未練があるんだよ。前世に」
「未練…が何かは聞かないわ。でもじゃあカイトは私たちがどうなってもいいっていうの?」
「そんなわけないだろ。二人には俺が持つ地位と名声、財産をすべて預けるよ。この家も潰してお金にしてもらって構わない」
自分で言っていて悲しくなってきた。思った以上に心に来ているのかもしれないな。気持ちが変わってしまう前にさっさと帰ってしまわないと。
「そんなの要らないわよ。カイトは私たちのことが大好きなんだよね?」
「うん(仲間として)」
「でも帰るのよね?」
「ああ」
「分かったわ」
アヤメはリリアに目配せをすると、二人は固い決意をしたような表情を浮かべた。
「言っていいわよ。カイト。またね」
「またねです。カイト様」
あれ、最後は案外軽いんだな二人とも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます