第2話

 後輩はうさぎに入塾相談会のいろはを聞きましたが「忙しいから」と日程の先延ばしを繰り返し、結局かめに聞きました。かめは自身が失敗した入塾相談会のパターンを共有したうえで、後輩に任せるとなんと即決を連続3件取って来ました。マネジメントスキルが知らないうちに成長していたのです。


 うさぎがブロック長に昇格したころ、かめはエリア長に昇格しました。うさぎは愛知の全教室の入塾相談会を引き受けようとしましたが、さすがに40教室は非現実的でした。仕方なしに、自分以外で入塾率の高い社員に任せようとしましたが、社員の大半が入塾率50%前後で使い物になりませんでした。


 うさぎは突然、入塾相談会ロープレの頻度を3ヶ月に1回から、2週間に1回に頻度を上げました。短期間で入塾率を改善させようとしたのです。うさぎ自身は現場に立つことを繰り返せばすぐに上がると思い込んでいました。ですがうさぎのようなコミュ力の高い人間は稀有であることに気づいていません。


 塾に集まる人材は勉強しか取り柄のない人が多いのです。コミュ障が他の業界より多いわけです。ロープレの頻度を増やしたところで効果が上がらないのは当然でした。かめはうさぎに「まずは会話のいろはから教えた方がいい」と言いましたが、言うことを聞きません。「お前も努力しろ」と一点張りです。


 かめは入塾率が65%台に乗り、今までの成功と失敗のアプローチを体系化しました。それをコミュ障の部下たちにも共有します。部下からはありがたがられつつ、うさぎへの不平不満が集まって来ました。「かめさんがブロック長だったら良いのに」皆に言われたかめは甲羅に引っ込みたくなりました。


 かめはブロック長になりたくありませんでした。エリア長になって抱える業務が多くなり、部下のメンタルケアに寄り添う必要も出てきて、甲羅が乾燥することが多くなりました。うさぎの部下への対応は問題ですが、うさぎにブロックを任せたまま、自分はほどほどにやりたいことをしたいのが本音でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る